(1)2017年9月の国連安保理の北朝鮮制裁決議の実施強化後、北朝鮮国内で「何かが起きている可能性がある。2018年1月に大きなヤマ場が来る」(政府高官)という見方もある。確かに、これまでにない変化が起きていることをうかがわせる事態が連続的に起きている。
(2)11月13日、韓国と北朝鮮を隔てる北緯38度線。その軍事境界線を挟んで南北の兵士が間近で向き合う板門店(パンムンジョム)で、北朝鮮兵士の脱走劇が起きた。北朝鮮兵士は銃撃を受けたが一命を取り留め、韓国内の病院で治療を受けている。
22日に板門店の国連軍司令部が、まるで映画のような監視カメラが捉えた映像を公開した。発生直後に日本政府当局者が注目したのは亡命の動機だ。可能性として考えられるのは、
(a)軍の規律が緩んでいて、たまたま脱走のチャンスが生まれた。
(b)北朝鮮の体制に強い不満を抱いておりチャンスをうかがっていた--などとしているが、韓国政府は今も沈黙を守る。
(3)この脱走劇と符節を合わせたように、日本の東北、北陸地方の沿岸部に北朝鮮の漁船が相次いで漂着している。11月に入ってその急増ぶりが目立つ。
・23日に秋田県由利本荘市に漂着した木造船では、8人の北朝鮮人の男が保護された。
・27日の同県男鹿市の漂着船からは8人の遺体が発見された。
・29日に10人を乗せた北朝鮮の漁船が北海道に漂着した。
この時期の日本海は風が強く波も高い。日本の常識では粗末な木造船で漁に出ることはあり得ない。
11月初めに朝鮮中央通信は「冬季漁業戦闘」と称し、国策としての漁獲量増大を命じた。背景には、北朝鮮国内の慢性的な食糧不足の深刻さがあると指摘されている。ただでさえ冬季は農産物の流通量が極端に減る。加えて今年は国連の制裁が追い打ちをかける。
(4)トランプは中朝協議が不調に終わったのを見届けると、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定した上で米国独自の制裁を発表した。
その対象には中朝国境の街、丹東で暗躍していた中国人実業家がいる。それほど異例の圧力をかける。
(5)しかし、表向きは国連制裁の強化で北朝鮮貿易の大半を占める中朝間の貿易が大幅に縮小したことになっているが、「密貿易」が後を絶たない。米国によるテロ支援国家再指定直後に丹東を取材したジャーナリストの証言は興味深い。
丹東の港には今も中小の船が出入りを繰り返す。岸壁のガソリンスタンドには大量のポリタンクが並べられ、これを中国人の業者が船に積み込む。そして沖合で北朝鮮の船と落ち合う。そこで北朝鮮の鉱物資源や水産物との交換が行われる。北朝鮮では外貨の使用が厳しく制限されているため、物々交換で取引が行われるようだ。
丹東に戻ってきた中国の船には漁具もないのにカニが満載されていたという。最近の特徴として、北朝鮮側からはガソリンだけでなくジャガイモやニンジンなどの根菜類のリクエストが増えているという。平壌ではガソリン価格が上がり、タクシー料金の値上げや市民の足となっている路線バスの本数が減ったという情報もある。
こうした北朝鮮の厳しい状況を救っているのが「密貿易」というわけだ。中朝貿易が完全にストップしてしまえば、中朝国境付近で暮らす中国人も疲弊する。現に、成長を続ける中国経済の中で丹東が所在する遼寧省だけGDPがマイナス。“中朝共倒れ”となり、中央政府への不満が表面化する可能性も否定できない。
(6)29日の弾道ミサイル発射は、北朝鮮があらためて国際社会の圧力に屈することはないとの強烈なアピールとみていい。米朝電撃対話の可能性は排除できない。しかし、日本側にこれを阻止する手立てはないのが現実だ。「圧力外交」の限界が見える。
□後藤謙次「脱走、漂着、密貿易…/北朝鮮で連続的に異変が発生~永田町ライブ!No.367」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月9日号)
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【参考】
「【後藤謙次】小池都知事に立ちはだかる二大障害 ~公明党の小池離れと官邸との溝~」
「【後藤謙次】5連勝を呼び込んだ「進次郎節」 ~内容的には「薄氷の勝利」に近い~」
「【後藤謙次】安倍首相が描く改憲スケジュール ~高村正彦・党副総裁の続投表明~」
「【後藤謙次】自民党優位、希望の党苦戦の裏で注目高まる無所属ネットワーク」
「【後藤謙次】「希望の党」の失言が引き起こした民進党解体 ~政治は一言で動く~」
「【後藤謙次】選挙戦の主導権握った小池新党 ~舞台裏は「細川劇場パート2」~」
「【後藤謙次】前代未聞の「トランプ解散」へ ~日程に伴う大きな北朝鮮リスク~」
「【後藤謙次】再々改造は権力構造を変える ~事実上の「古賀・菅連合内閣」~」
「【後藤謙次】急浮上する電撃解散説 ~ダブル補選と内閣支持率急落の絡み合い~」
「【後藤謙次】反自民の受け皿になれないし、小池知事との連携も困難 ~民進党~」
「【後藤謙次】内閣改造は「専守防衛」でも活路が見えない「守りの安倍」」
「【後藤謙次】経世会(額賀派)・宏池会(岸田派)・石田茂 ~都議選大惨敗後の動き~」
「【後藤謙次】安倍首相の改憲案の前倒し発言 ~「年内解散」に向けた思惑~」
「【後藤謙次】支持率急落で首相が「反省の弁」 ~それでも止まらぬ内部文書流出~」
「【後藤謙次】憲法改正発議までの長い道のりが賭のリスクに ~天皇退位・総裁選・衆院選~ 」
「【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~」
「【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~」
「【後藤謙次】安倍1強時代を揺るがすリスク ~森友学園問題で一躍「渦中の人」~」
「【後藤謙次】北朝鮮、金正男氏殺害の深層 ~日本政府内に異なる二つの見方~」
「【後藤謙次】政府与党内の二つの見方 ~北方領土交渉は頓挫?~」
「【後藤謙次】トランプの地滑り的勝利で始まった未知なる対米外交」
「【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク」
「【後藤謙次】幹事長の入院が人事に波及、「ポスト安倍」めぐり早くも火花」
「【後藤謙次】参院選大勝も激戦12県で大敗 ~劣る「勝利の質」~」
「【後藤謙次】都知事選で与党分裂の理由 ~自民党内の反安倍勢力~」
「【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~」
「【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~」
「【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~」
「【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~」
「【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~」
「【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~」
「【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~」
「【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~」
「【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問」
「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」
「【政治】国会議員はヤジの質も落ちた」
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22日に板門店の国連軍司令部が、まるで映画のような監視カメラが捉えた映像を公開した。発生直後に日本政府当局者が注目したのは亡命の動機だ。可能性として考えられるのは、
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・29日に10人を乗せた北朝鮮の漁船が北海道に漂着した。
この時期の日本海は風が強く波も高い。日本の常識では粗末な木造船で漁に出ることはあり得ない。
11月初めに朝鮮中央通信は「冬季漁業戦闘」と称し、国策としての漁獲量増大を命じた。背景には、北朝鮮国内の慢性的な食糧不足の深刻さがあると指摘されている。ただでさえ冬季は農産物の流通量が極端に減る。加えて今年は国連の制裁が追い打ちをかける。
(4)トランプは中朝協議が不調に終わったのを見届けると、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定した上で米国独自の制裁を発表した。
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(5)しかし、表向きは国連制裁の強化で北朝鮮貿易の大半を占める中朝間の貿易が大幅に縮小したことになっているが、「密貿易」が後を絶たない。米国によるテロ支援国家再指定直後に丹東を取材したジャーナリストの証言は興味深い。
丹東の港には今も中小の船が出入りを繰り返す。岸壁のガソリンスタンドには大量のポリタンクが並べられ、これを中国人の業者が船に積み込む。そして沖合で北朝鮮の船と落ち合う。そこで北朝鮮の鉱物資源や水産物との交換が行われる。北朝鮮では外貨の使用が厳しく制限されているため、物々交換で取引が行われるようだ。
丹東に戻ってきた中国の船には漁具もないのにカニが満載されていたという。最近の特徴として、北朝鮮側からはガソリンだけでなくジャガイモやニンジンなどの根菜類のリクエストが増えているという。平壌ではガソリン価格が上がり、タクシー料金の値上げや市民の足となっている路線バスの本数が減ったという情報もある。
こうした北朝鮮の厳しい状況を救っているのが「密貿易」というわけだ。中朝貿易が完全にストップしてしまえば、中朝国境付近で暮らす中国人も疲弊する。現に、成長を続ける中国経済の中で丹東が所在する遼寧省だけGDPがマイナス。“中朝共倒れ”となり、中央政府への不満が表面化する可能性も否定できない。
(6)29日の弾道ミサイル発射は、北朝鮮があらためて国際社会の圧力に屈することはないとの強烈なアピールとみていい。米朝電撃対話の可能性は排除できない。しかし、日本側にこれを阻止する手立てはないのが現実だ。「圧力外交」の限界が見える。
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