語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】E・ケストナー「人生処方詩集」

2017年12月08日 | 詩歌
  

【詩歌】E・ケストナー「マッチ売りの少年」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「ぼくは母と旅行をしている」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「簿記係が母親へ」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「即物的な物語詩」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「ホテルでの男性合唱」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~
【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~

□「エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)『人生処方詩集』」(岩波文庫、2014)
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【野口悠起雄】採掘者を採掘する ~金発見時の成功法則~

2017年12月08日 | ●野口悠紀雄
 (1)1848年、当時辺境の地だったアメリカ・カリフォルニアで、金が発見された。
 金は普通は地底深く埋もれているので、採掘に巨大な設備と多大な労働力を必要とする。しかし、カリフォルニアでは砂金として地表に露出していた。このため、誰でも簡単な道具で採集することができた。
 そこで、世界中から採掘者(マイナー)たちが集まってきた。空前のゴールドラッシュが起きた。
 中には、1日で2,000ドルの収入を得た人もいた。当時のアメリカの平均賃金は1日1ドルだったから、1日で5年半分の収入を得たわけだ。彼らは、「リッチストライク」と呼ばれた。

 (2)しかし、しばらくすると大金持ちは誕生しなくなった。それだけではない。意外なことに、マイナーの多くは極貧にあえぐ状態になってしまった。
 それは、あまりに多くの人が殺到したからだ。彼らは、「カリフォルニアの川原は砂金であふれている」と期待し、大変な労苦で地の果てであるカリフォルニアまで来たのだが、あふれていたのは人間だった。そのため、金はあっという間に採集されてしまったのだ。
 しかも、生活必需物資がない辺境の地に突然大勢の人が押し寄せたので、物価が急騰した。これでは生活は破綻してしまう。
 「雪山讃歌」の元である「いとしのクレメンタイン(Oh My Darling Clementine)」は、陽気な歌ではない。歌詞をたどれば分かるように、実は、このころの哀れなゴールドマイナーの歌なのである。
 カリフォルニア・ゴールドラッシュは、重要な教訓をもたらした。「バスに乗り遅れるな、と叫んでみんなと同じ方向に走れば、群衆に押しつぶされてしまう」・・・・

 (3)では、ゴールドラッシュで金持ちになった人は、初期のリッチストライクだけではなかった。
 何人もの成功者が出た。中でも有名なのは、リーバイ・ストラウスだ。彼は、マイナーたちが必要とするもの、つまり、丈夫でポケットが破れないズボンを作った。
 最初は、テント用のキャンバス地を使った。それが足りなくなったので、serge de Nimes、つまり、フランスのニーム地方のサージを使った。これが、短縮されて「denim(デニム)」と呼ばれるようになった。さらに、馬用ブランケットに使うリベットでポケットを補強した。そして、毒虫や毒蛇よけのために、インディゴ・ブルーで染めた。このズボンは、後に「リーバイスのブルージーンズ」として知られることになる。
 ストラウスの成功は、「マイニング・ザ・マイナーズ」と表現される。これは、「採掘者を採掘する」という意味だ。

 (4)現代においても、同じようなストーリーが繰り返された。パソコン(PC)、液晶テレビ、スマートフォンなどの新しい技術の登場は、金の発見に似ている。
 それを事業化しようと、世界中の企業が殺到した。発見された金を採集しようとマイナーがカリフォルニアに殺到したのと同じだ。その結果、利益が減ってしまったのも、同じだ。
  (a)PC・・・・最初はNECなどが膨大な利益を上げた。しかし、程なくして、PCは「コモディティ化」してしまった。つまり、多くのメーカーが生産できる製品になった。そして、価格が低下し、利益の薄い事業になってしまった。
  (b)液晶テレビ・・・・従来のブラウン管テレビを一新する革新的な製品だった。しかし世界中のメーカーが量産し、価格がどんどん低下してしまった。液晶テレビに集中していたシャープは、経営危機に追い込まれた。
  (c)スマートフォン・・・・グーグルが基本ソフトのアンドロイドを公開したので、世界中のメーカーが群がった。日本のメーカーも例外でない。そのため、アップル以外のメーカーで巨額の利益を得られた事業者はなかった。みんなと同じ方向に走って、押しつぶされてしまったのだ。

 (5)IT革命の勝者は、マイクロソフトやアップルやグーグル、それにアマゾン・ドット・コムやフェイスブックなど、ごく少数の企業に限定された。これら5社は、今、時価総額においてアメリカのトップ5社となっている(ただし、グーグルについては、GOOGとGOOGLの合計)。
  (a)アップル・・・・製造業だが、iPhoneという新しい製品を開発しただけでなく、世界的水平分業という新しい生産方式を確立し、ファブレス(工場のない製造業)となることによって、新しい製造業のビジネスモデルを切り開いた。
  (b)グーグル・・・・検索連動広告という新しい広告方式を用いることによって、従来とは全く異なる広告のビジネスモデルを確立した。
  (c)フェイスブック・・・・SNSという新しい方式で個人情報を集めて広告を行っている。
  (d)アマゾン・・・・ウェブショップであり、従来の流通業とは全く異なる。
 これらの企業は、現代版ストラウスといえるだろう。
 なお、マイクロソフトのビジネスモデルは、巧みなものだが、さほど革新的ではない(MS-DOSというPCの基本ソフトをIBMに安く売り、規格を公開することによって利用者を増やし、ネットワーク効果を実現した。その上でIBM互換機メーカーに高く売って収益を上げた)。

 (6)今年になって仮想通貨が顕著に値上りした。まさにゴールドラッシュだ。たまたま、ここでも「マイナー」という言葉が使われている(仮想通貨の場合のマイナーとは、仮想通貨の取引を記録する作業を行うコンピューター、あるいは事業者を指す)。
 価格が急上昇したので、マイニングの採算が向上し、日本でもマイニング事業への参入者が登場している。
 ただし、仮想通貨のマイニングも、金の採集と同じで、さほど高度の技術を必要とするものではない。カリフォルニア・ゴールドラッシュのマイナーのようにならないとは限らない。

 (7)仮想通貨のゴールドラッシュでは、自宅のソファーに座ったままで値上り益を得ようとする人が大勢いる。彼らは、勝者となるだろうか?
 一見、多くの人が買えば買うほど価格が上がるから、自己増殖的に価格が上がり、値上り益が得られるように思われる。みんなと同じことをすることこそ、ケインズの美人投票論(「多くの人が美人と思う人に投票する」)の神髄ではあるまいか?
 確かに、短期的にはそうかもしれない。
 しかし、それはバブル以外の何物でもないのだ。
 他方、世界では、新しい通貨であるビットコインの性能をさらに向上させるプロジェクトや、それを実際のビジネスに応用するプロジェクトが数多く誕生している。また、ビットコインの基礎技術であるブロックチェーンを利用して新しい事業を始めようとするプロジェクトもある。
 これらの全てが成功するわけではなく、失敗するプロジェクトもあるだろう。しかし、勝者はそうしたプロジェクトの中からしか出てこない。
 日本の問題は、現代のリーバイ・ストラウスになろうとする人が出てこないことだ。

□野口悠紀雄「金発見時の成功法則は採掘者を採掘すること ~「超」整理日記No.883~」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月2日号)
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 【参考】
【野口悠起雄】中国とドイツが変身 ~日本が取り残される~
【野口悠起雄】危機に直面するのは英国よりEU ~英国のEU離脱~
【野口悠起雄】世界経済の不確実性は長期 ~英国のEU離脱~
【野口悠起雄】日米で経済情勢や政策に著しい違い ~アベノミクスの本質(3)~
【野口悠起雄】期待への働きかけは効果なし ~アベノミクスの本質(2)~
【野口悠起雄】為替と株の投機ゲーム ~アベノミクスの本質(1)~
【野口悠起雄】誰が負担するのか? ~マイナス金利のコスト~
【野口悠起雄】物価下落は実質賃金を上昇させる ~経済成長~
【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(2) ~現存特例措置の見直し~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~
【経済】企業の利益増加で賃金が減る ~理由と対策~
【経済】政策にみる安倍政権の思慮不足 ~「新しい3本の矢」~
【年金機構】の情報漏洩から学ぶこと(2) ~3つの疑問~
【年金機構】の情報漏洩から学ぶこと(1) ~経緯~
【経済】日本経済をドルの立場から再評価すると
【野口悠紀雄】マイナス成長から抜け出す手段 ~実質消費増大の方法~
【経済】今後、狙いと反対のことが起きる ~異次元緩和(2)~
【経済】期待を煽り資産価格のみを変化させた ~異次元緩和~
【ピケティ】の格差理論は日本でも当てはまるか(2) ~法人企業統計~
【ピケティ】の格差理論は日本でも当てはまるか ~GDP統計~
【経済】小企業や家計の赤字=大企業の利益 ~トリクルダウン(2)~
【経済】円安で小企業や家計は赤字 ~トリクルダウンはなぜ生じない?~
【経済】円安で貧乏になりゆく日本 ~スタグフレーション~
【政治】先の見通しを持たない新成長戦略 ~鎖国的政策~
【野口悠紀雄】仮想通貨が財政ファイナンスを阻止 ~経済政策と金融政策~
【野口悠紀雄】ビットコインが持つ経済価値はどの程度か?


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【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~

2017年12月08日 | 批評・思想
★唐池恒二『新鉄客商売 本気になって何が悪い』(PHP研究所 1,700円)

 (1)旧国鉄の分割民営化には、3人の立役者がいる。松田昌士・元JR東日本会長、井手正敬・元JR西日本会長、葛西敬之・JR東海代表取締役名誉会長だ。
 JR東日本は1993年、JR西日本は96年、JR東海は97年に株式上場している。

 (2)この3社と比較すると、JR北海道、JR四国、JR九州は「三島(さんとう)会社」と呼ばれ、JRグループの中でも日陰の立場にあった。
 その3社の中からは、2016年にJR九州が上場を果たした。JR東日本から遅れること23年である。
 JR九州といえば、最近はクルーズトレインの「ななつ星」で有名だが、営業収益の半分以上を鉄道以外の収益、例えば建設、不動産、流通・外食などで得ており、もはや鉄道会社と言えないくらいに多角化している。その推進役となったのが、本書の著者である。

 (3)(1)に挙げた3人を扱った書籍は数多くあるが、多くは政治的な物語である。
 しかし、本書は、正に人間の物語であり、JR九州は実にいろいろな事業を手掛けていることがよく分かる。福岡と釜山との間でジェットフェリーの「ビートル」を開通させ、軌道に乗せているし、外食分野では九州地域だけでなく、東京にも進出している。赤坂にある人気店の「うまや」がそれで、評者も一度訪れたことがあるが、JR九州が運営する店舗とは全く知らなかった。他にも、農業、不動産と数多くの新事業を手掛け、成功に導いている。

 (4)著者によれば、三つの力が働くと仕事は成功するという。
  (a)夢見る力。
  (b)「気」を満ち溢れさせる力。
  (c)伝える力。
 とりわけ、著者は(b)を重視する。

 (5)JR九州と日頃から仕事で接点のある人の最近の話では、「社員が実に明るい」。2016年上場し、新規事業も順調に伸びているのだから、社員に元気が出ないわけがない。
 ただ、そうした社内風土も、一朝一夕にできるものではない。きっと、JR九州の関係者による長年の風土改革が実を結んだのであろう。

 (6)本書は、表紙を含めて数多くのイラストが挿入されており、それらを見るだけでも楽しい。また、宮崎県日南市の飫肥(おび)という街が紹介される。多くの人は知らないけれど、日本には住民が意見を出し合って街づくりを進めた地域もあるのだと教えてくれる。
 置かれた経営環境は異なるが、ぜひ、JR北海道やJR四国も、JR九州に続いてほしいものだ。

□吉川尚宏(A.T.カーニー株式会社 パートナー)「JR九州の勢いの秘密を凝縮/読んで元気が出る人間の物語 ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月9日号)
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 【参考】
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』
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