語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】4種類の神学 ~聖書・歴史・体系・実践~

2013年10月17日 | ●佐藤優
(1)キリスト教神学
 カトリック神学、プロテスタント神学、正教神学とではかなり違う。
 カトリック神学は、長い中世のスコラ神学を経て神学を構築した後、自由主義的な神学の風潮になかなかついていけなくて、近代的な神学大系の構築から一定の距離を置いてきた。
 プロテスタント神学は、カルヴァン以降、カトリック神学のスコラ学を引き継ぐ形で、自由主義を取り入れながら形成されていった。
 そうしたプロテスタント神学の発展に対抗する形でカトリック神学の体系が再構築される。
 よって、19世紀から20世紀の神学の原型は、プロテスタント神学を概観するだけで足りる。
 キリスト教神学は、伝統的に4つに分類される。聖書神学、歴史神学、組織神学、実践神学である。

(2)聖書神学
 聖書に係る神学で、旧約聖書神学と新約聖書神学に分かたれる。
   ①キリスト教はユダヤ教の1分派と考えてもよい。よって、キリスト教はユダヤ教の伝統や文脈を踏まえてはじめて理解できる。
   ②旧約聖書はヘブライ語で書かれているが、イエスはヘブライ語の系統のアラム語で話した。ところが、イエスの言動を記した福音書を含む新約聖書は1世紀後半に成立したが、コイネー・ギリシア語【注1】で書かれている。
   ③補助学(その1)・・・・語学。ヘブライ語、アラム語、ギリシア語。
   ④補助学(その2)・・・・聖書考古学。<例>「ディナリオン銀貨」に誰の肖像やどのような文字が刻まれていて、どれくらいの労働の対価だったか。

 【注1】前4世紀後半、アッティカ方言にイオニア方言の要素が加わって形成された古代ギリシア語。

(3)歴史神学
 教会史と教理史に分かたれる。
 (a)教会史
   ①キリスト教と教会の起源と発展を歴史学的に研究する。教会には二重の意味がある。①個別の教会・・・・<例>カトリック教会、メソジスト教会、長老派教会、正教会。②イエス・キリストを長とする「見えない教会」。
   ②神学的に言えば、キリストは教会のみならずこの世全体を支配している。だから、教会史は一般史と深く関わる。教会史とともに教理史を見ていくのが最近の強い傾向だ。
   ③補助学(その1)・・・・語学。近代以降のプロテスタンティズムをやる場合、ラテン語、ドイツ語、フランス語(特にカルヴァンを研究する場合)、英語。ラテン語は西方教会史を学ぶ場合に必須。東方教会史を学ぶ場合、ギリシア語、教会スラブ語、ロシア語が必須。
   ④補助学(その2)・・・・一般的な歴史の知識、歴史学方法論、文献学。

 (b)教理史
   教会によって採択された教理の形成と発展過程を歴史学的手法によって研究する。プロテスタント教会においては、カトリック教会や正教会のように絶対に正しい教義(ドグマ)は存在しない。それぞれの教会が自ら正しいと考える教理を持つ(それが絶対であるとはしない)。

(4)組織神学
 体系神学と言い換えてもよい。神学思想の中には歴史神学の成果があり聖書神学の成果もあるが、それら諸々の成果をキリスト教の立場から整理し、総合していく。組織神学は、教義(教理)学と倫理学に分かたれる。場合によっては宗教哲学が含まれる。
 (a)教義(教理)学
   「教義(ドグマ)」とは、「決して変えることのできない絶対に正しい考え」の意で、カトリック教会や正教会はドグマを持っていると自己理解している。
   しかし、プロテスタンティズムにはドグマは基本的に存在しない。ドグマは「見えざる教会」に帰属し、神のみが知っているものだからだ。私たちが信じているドグマが絶対に正しいという保証はない。人間の側からは、複数のドグメン(諸教理)が提示されるだけだ。私たちが構築できるのはドクトリン(教説)だけで、ドグマという形で獲得できるものでは決してない。

 (b)倫理学
   プロテスタントの場合、人は「信仰のみ」によって義とされる、と考える。だから、行為は二次的なものだ、と考える傾向もある。
   しかし、本来、キリスト教に「信仰と行為」という二分法はない。信仰があれば必ず行為に現れる、という考え方をする。したがって、教義学は倫理学と同じだ。道徳は、一般に「ある行為がいいか悪いか」ということだが、倫理は「この私がいかに行為するか」だ。
   倫理学は、教義学と重なる。  

(5)実践神学
 アバウトに言えば、これは牧師・神父のための神学だ。実践神学は、牧会学と説教学に大別される。ちなみに、神学で最も重要なのは、実践神学だ。聖書神学、歴史神学、組織神学は実践神学のためにある。
 (a)牧会学
   人間関係をケアするための実践的な学問だ。さまざまな人の悩みをどう受け止めるかを訓練する。カウンセリングが学問として成立するずっと前から、カウンセリングに相当する牧会学が存在していた。神学部の学生は、例えばホスピスで臨床実習する。
   悩みを抱え、相談したいとき、教会に飛び込むとよい。どんな教派の牧師、神父であろうとも口は堅い。人の秘密を厳守する訓練を牧師、神父は受けている。どんなに嫌な話、どんなに変な話でもいちおう最後まで聞く訓練ができている。

 (b)説教学
   説教とは、基本的には聖書の説明だ。牧師にもいろいろな人がいて、いつ説教を聞きに行っても同じような人生講話をやっている人がいる。これはその牧師があまり勉強していない証拠なので、そういう教会に行くことはあまり勧めない。
   聖書は神の言葉だ。聖書に書いてあることが現代においてづいう意味を持つかを説明するのが、説教者としての牧師の仕事だ。ところが、人間は神ではないから、厳密な意味で神の言葉を語ることはできない。しかし、牧師という立場にある者はそれを語らなければならんさい。「不可能性の可能性」(カール・バルト)だ。
   「不可能性の可能性」は、人間生活のなかで日常的にどこでも存在している。
   <例>自分の子どもを育てるにあたり、子どもの進路や躾けに完全に自信を持って言えない場合が、当然、ある。そういう場合ても、今このタイミングで親として言わなければならない。
   この「不可能性の可能性」に挑むことが、説教学の課題だ。
   これに付随して、キリスト教音楽など、さまざまな実践神学の学科がある。

□佐藤優『神学部とは何か --非キリスト教徒にとっての神学入門』(新教出版社、2009)の「1 神学とは何か」
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】神学が実生活に役立つ理由 ~人間の限界~
【本】中国で宗教が流行しているが ~『立花隆の書棚』(5)~
【本】イスラム世界におけるペルシアの独特な立ち位置 ~『立花隆の書棚』(4)~
【本】旧約聖書には天地創造神話が2つある ~『立花隆の書棚』(3)~
【本】土着の宗教と結びいたキリスト教 ~『立花隆の書棚』(2)~
【本】欧米理解に不可欠なこと ~『立花隆の書棚』~

書評:『妖怪と歩く -ドキュメント・水木しげる-』

2013年10月15日 | ノンフィクション
 水木しげること武良茂は、大正11年生まれ。21歳の時、応召してラバウルに送られ、戦傷により隻腕となった。復員後、紙芝居画家を経て貸本漫画家となる。
 昭和40年に雑誌に発表した「テレビくん」で講談社児童まんが賞を受賞。赤貧に終止符をうった。

 本書は、著者が水木に平成4年10月から約3年間、密着取材したルポタージュである。
 人間と妖怪が同じ生存権をもって共存している水木漫画の特徴は、手塚治虫のそれと対比する時に際だつ。
 「手塚の薄幸な自己犠牲死に対して、水木の安逸で快感原則に満ちた不死」(四方田犬彦)。「生きている人間の側からしか世界が見えていなかった手塚に対し、『あの世的』な水木」(夏目房之介)。「時間の芸術である映画の手法を意識的に取り入れた手塚に対し、時間の流れとは無関係な一幅の絵画を原点にすえる水木」(荒俣宏)。

 かかる作品をものする漫画家はさぞかし浮き世離れした変わり者だろう、とひとは思うに違いない。
 ところが、じつは意外と世間智にみちた常識人、したたかな人なのだ。
 貸本向け単行本から雑誌へ転身をはかる時、雑誌業界の動向や編集部のねらいを慎重に探り、作品修正の要諦をつかみとった。
 収入が増えた後も生活は堅実で、水泳を日課として体調を維持する。
 つげ義春によれば「アシスタントなんかの人遣いもすごく上手ですよね。絶対に感情的にならずに」

 頻繁な海外旅行は、休暇を兼ねた取材だ。
 計3台のカメラを撮りまくり、小型ビデオ撮影も自分でこなす。
 米国の先住民ホピ族の、取材禁止の聖なる祭りには小型テープレコーダを隠しもつ。
 書店では金に糸目をつけずに資料を買いまくる。
 要するに、旅先では「一個の貪欲な情報収集マシーン」と化するのである。

 だが、他方、富士山麓の小さな別荘では、「頭を空っぽにして」ひたすら焚き火を見つめながら、南方へのつきせぬ憧憬を語ったりもする。
 子どもみたいな側面もある。
 プラモデルの連合艦隊づくりに熱中し、美人には握手攻めに写真攻め、有名漫画家の座談会へ列席する時にはふだんは吸わない洋モクを持参したりする。
 俗物であることに正直なのだ。さればこそ、水木と同じ一面をもつ私(或いはあなた)は、彼とその作品に魅せられるのである。

 本書は、作品論ではない。漫画家論でもない。矛盾と活力に満ちた庶民、苛酷な戦さと変動の激しい戦後を骨太に生き抜いてきた一人の男の素描である。
 余談ながら、妖怪ロードこと水木しげるロード(鳥取県境港市)に、2008年には172万1,725人の観光客が訪れた(前年比16.55%増)。鳥取県人口の3倍に近い数値である。

□足立倫行『妖怪と歩く -ドキュメント・水木しげる-』(文春文庫、1997)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【消費税】大企業には大減税 ~租税特別措置という隠れた補助金~

2013年10月14日 | 社会
 (1)消費増税の閣議決定に至る間、安部首相は消費税による経済落ち込みを防ぐと称して5兆円(消費税2%相当)にも及ぶ財政支出(主として大企業に還元)を実施しようとしている。
 5兆円の財政支出投入の内訳はまだ確定していないが、自民党お得意の国土強靱化(公共事業)のみならず法人減税が含まれようとしている。

 (2)安部首相は、法人減税について自民党税制調査会に指示した。再来年から約2%引き下げることになっている復興特別法人税を1年前倒しして来年から引き下げよ、と。
 当初は税調側の不満が強く、公明党も反対論が強かった。しかし、安部首相は強引に押し切ろうとしている。
 復興財源は、法人減税分だけでなく、所得税や住民税も増税を強いられているのだが、なぜか法人税だけ軽減措置を強行している。あまりにも露骨な法人優遇策だ。
 安部首相が税調に指示した法人優遇策策は、これだけではない。
  (a)復興特別法人税の1年前倒し引き下げ・・・・前記のとおり。
  (b)法人税率本体の引き下げ
  (c)さまざまな租税特別措置による企業の法人税の負担軽減

 (3)消費増税による負担は、最終的には消費者に転化される。月例所定内賃金の安定した引き上げがない中での増税は、内需が低下するからデフレ経済からの脱却には結びつかない【注1】。
 法人税を企業優遇の租税特別措置が大きく浸食している。 → 租税特別措置を縮減し、課税ベース拡大を図る。 → 拡大した分を税率引き下げに回す。・・・・というのが、法人税の引き下げのオーソドックスなやり方だ。
 <例>1980年代半ばの米国レーガン税制改革第2期目。高く評価されてきた。
 ところが、最近では途上国のみならず先進国も法人税率の引き下げを始めた。英国やドイツなどもかつては日本とあまり変わらない40%台の法人税率だったが、今や25%程度にまで急速に下げてきた。グローバル化した経済の下で、法人税引き下げ競争が展開され、その結果、付加価値税や所得税などへの課税強化が進められ、国民全体に悪影響が及び始めた。
 そこで、先進国だけでも法人税の下限を決める協定をつくったり、国連をはじめとする国際組織の中での規制組織の確立など、対抗策の必要性が言われている。
 (2)に見られる安部首相の指示は、グローバル化した世界に対する税制改革の視野を欠いている。

 (4)9月20日、訪米前の安部首相のもとで、麻生太郎・財務大臣と甘利・財政政策担当大臣が会談した際、甘利大臣が「税負担が減った分をどこに使ったか、企業に発表させる方法を考えたい」と提案した。この、減税分を賃上げに回すことを狙った提案を受けて、内閣府などが検討に入った。まずは10月以降、「政労使会議」の場で、経団連、日本商工会議所など経済界の代表に対し、公表を要請する方針で具体化するらしい。経済界は大いに反発するだろうが、政府内では義務化も検討されている。
 大企業が真面目に受け止めるか、疑わしいが、労働界は当然賛成すべきだし、おおいに後押しすべきだ。企業のガバナンスが弱い日本の経営の中で、財務内容の透明化が進むこと自体は歓迎すべきことだ。

 (5)利用実績の公表に似た法律が、政権交代後の2010年3月に成立した。租税特別措置透明化法がそれだ。
 租税特別措置とは、法人税や所得税などの本則の例外を作って、もっぱら減税措置を適用するものだ。その規模が年々拡大し、複雑化している。自民党内で毎年、税制改正に際して業界・担当官庁・族議員が一体となって減税措置要求を繰り広げている。その年中行事は、利益政治の典型例だ【注2】。
 そこで、租税特別措置を利用している法人企業に絞って、どの租税特別措置をどれだけ利用しているのか、全数調査して明らかにしていこうとしたのが租税特別措置透明化法だ。
 ただ、本法成立にあたり、利用実績上位企業の公表案は、野党の自民党(当時)のみならず、与党の国民新党(当時)から、ひいては民主党内からも反対する声が出て、法案から削除されてしまった。惜しいことであった。

 (6)(4)のように法人減税分の利用実績を公表することができるのであれば、租税特別措置の利用実績を企業名でもって公表することにも問題ないことになる。租税特別措置透明化法の改正問題に連動させていくべきだ。
 租税特別措置透明化法の調査結果は、今年の通常国会で初めて公表されたが、ほとんど注目されなかった。今年年内に、第2回目調査の速報値が公表される。ぜひとも個別の租税特別措置ごとに利用実績上位10社程度まででもよいから、公表していくべきだ。
 なぜか。
 租税特別措置は、公平性(本来租税を考える際に最も大切な原則)を犠牲にしてまで、儲かっている企業の税負担を軽減することで政策目的を達成しようとするものだ。予算でいえば、補助金の相当するものなのだ。「隠れた補助金」だ。
 利用する側は、何をどれくらい使っているか、堂々と利用実績を公開すべきだ。
 透明化こそ、いま税制に一番求められている課題なのだ。

 【注1】簡易な給付措置(住民税非課税世帯等に年額1万円程度を1回限り)を用意しているようだが、焼け石に水。
 【注2】「【消費税】租税特別措置という巨大利権

□峰崎直樹(前内閣官房参与)「国民には消費増税で負担増 大企業には減税の大盤振る舞いでいいのか」(「週刊金曜日」2013年10月11日号)

 【参考】
【消費税】増税しなくても10兆円増収する法 ~金持ちの「高い所得税」の抜け穴~
【消費税】租税特別措置という巨大利権
【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~
【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~
【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~
【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
【経済】円安による費用増はすでに政治的問題
【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~
【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場
【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~
【経済】円安を止められなくなるリスク
【税】富裕層への増税を支持する富裕層
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【消費税】増税しなくても10兆円増収する法 ~金持ちの「高い所得税」の抜け穴~

2013年10月13日 | 社会
 (1)消費税によって、低所得者ほど打撃を受ける。低所得者は、収入のほとんどを消費に回すので、収入に対する消費税の負担率が高い。
 他方、高額所得者の消費は、収入のごく一部であって、収入に対する消費税の負担割合は低い。投資や貯蓄には消費税がかからないからだ。

 (2)年収200万円以下の低所得者層が1,000万人を超えた。派遣など有期雇用労働者も1,400万人を超えている。こうした中、消費増税すれば、苦しい生活を強いられてきた人がさらに苦しくなる。格差社会がさらに深刻化する。
 「格差社会」や「喪われた20年」の時期と、消費税導入時期はリンクしている。

 (3)政治家や財務省は、これまで「日本の所得税は世界的に見て高い。上げるとしたら消費税しかない」と、国民に消費増税を喧伝してきた。
 しかし、この論拠は実は大きな欠陥がある。
 確かに、日本の高額所得者の所得税率は45%であり、世界的に見て高い(米国は40%)。
 しかし、これにはカラクリがある。日本の金持ちの所得税にはさまざまな抜け穴があって、名目税率は高いけれども、実質的な負担税率は驚くほど安いのだ。

 (4)先進主要国の国民所得に対する個人所得税負担率を見ると、次のとおり。国民全体の所得のうち、所得課税されているのは何%かを示したものだ。国民全体の所得税の負担率を示したものだ。
   英国・・・・13.5%
   ドイツ・・・・12.6%
   米国・・・・12.2%
   フランス・・・・10.2%
   日本・・・・7.2%
 日本は、断トツに低く、英国の半分だ。
 個人所得税は、先進国ではその大半を高額所得者が負担している。国民全体の所得税負担率が低いということは、それだけ高額所得者の負担が低いということだ。
 つまり、日本の金持ちは、先進国の金持ちに比べて断トツ税負担率が低いということだ。
 日本の金持ちは、名目の税率は高くなっているけれど、実際に負担している額は非常に低いのだ。
 庶民や低所得者の犠牲の上に大企業・金持ち優遇が成り立っている構図は、働く者に不当・不法な働き方を強いて「繁栄」していくブラック企業に似ている。

 (5)なぜ日本の金持ちの実質税負担がこれほど低いかというと、日本の金持ちの場合、抜け穴がたくさんあるからだ。
 <例>日本の金持ちの中で非常に大きい比重を占めるのは(a)投資家と(b)開業医。
  (a)投資にかかる税金は現在原則として10%でいい。新米の会社員の税金よりはるかに少ない。
  (b)開業医は、社会保険料収入が5,000万円以内なら、収入の約7割が自動的に経費として計上できる。つまり、課税されるのは3割だけ。

 (6)(5)のような抜け穴があるため、金持ちの税負担は非常に少なくなり、必然的に日本の所得税の収入が非常に少ないのだ。日本の税制は、金持ち優遇の「ブラック税制」だ。
 もし、金持ちの税金の抜け穴をきちんと塞ぎ、日本の所得税収入を先進国なみに引き上げることができれば、概算10兆円の増収となる。
 消費税を増税する前に、金持ちからきちんと税を取れ、ということだ。

□武田知弘(経済ジャーナリスト)「「高い所得税」という政府・財務省のウソ 金持ち優遇の「ブラック税制」である」(「週刊金曜日」2013年10月11日号)

 【参考】
【消費税】「富裕税をかけると富裕層は海外に逃げる」はウソ
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【中国】汚染大国 ~PM2.5、農薬、重金属まみれの野菜~

2013年10月12日 | 社会
(1)大気
 (a)北京、今年28日。PM2.5が200μg/立米超。住民のほとんどはマスクをしていない。諦め、無知、楽観。

(2)水
 (a)中国では、朝一番の水は使えない。しばらく捨てないと。北京は碁盤の配管ごと古く、一部に鉛など有害物質が含まれている。細部の規制は2004年にやっと出た。
 (b)飲用、料理用の水は、全部スーパーで鉱泉水を買うなど、1人暮らしの水代は日本の3倍。うち17%は税金だ。
 (c)ただし、安全な飲み水を買えるのは人口の3割。しかも、買った水が本当に安全とは限らない。家庭用の本格的な浄水器も、今よく売れている。

(3)野菜
 (a)安い路上で買えば、土地を持たぬ農民(正規の入札資格がない)が、廃棄物の川の横で育てていたものだったりする。
 (b)スーパーで売っている無農薬野菜を本物と信じる北京の住民はいない。農場で検査用に1平米のみ無農薬にしたら、そこの野菜だけネズミが食べた、という話がある。

(4)肉
 (a)北京郊外に検疫所があり、病死した動物はここではねられる。だが、闇業者が捌いて、周辺の出稼ぎ農民向けの食堂や屋台に安く売る。一部は偽の検疫印を押し、市内の市場に売る。
 (b)「レバーは買うな、豚は特にダメ、鶏もホルモン漬け、中国人は何でもする」・・・・肉は回族(イスラム教徒)の店から買うこともできる。宗教的理由で漢族の店より安全なのだ。

(5)魚介類
 (a)経済発展した沿岸がほぼ全域、重金属で汚染されている。ために、スーパーでは生きた貝を見かけない。代わりにサーモンなどが販売される。日本より高いが、よく売れている。ただし、非正規市場では貝もよく売られている。
 (b)魚は、池にピルを放り込んで養殖される。

(6)油
 (a)輸入オリーブ油は、「原装」(原産地で瓶詰め)で買うこと。樽で運び、中国国内で小分け瓶詰めすると、大手メーカーでも100%混ぜものをする。
 (b)地溝油は、原料をドブから浚うものもあるが、高級中華料理店から出た残飯油も多い。農民の2人組が毎日やってきて、重い専用桶をダッシュで運び出したりする。ルートが確立している。丹念に調査していた中国のTV記者が、2011年9月に路上で複数に刺殺された。「屋台のものは絶対食べるな」・・・・地溝油は、主に屋台、小店舗に販売される。それを鉄板の上でたっぷりかけながら、発泡剤で作ったハンペン、病死した動物の肉、高農薬で納品できないニラなどを香ばしく焼き上げる。そういう食品が主食の人もまた多い。安いのだ。

(7)汚染は弱者に集中 
 (a)身の安全を守るには、買い物の場所も重要だ。一般的には、大手スーパーで買えば「比較的」本物が「多い」、とされている。一応、農薬と検疫検査もあり、正規業者から仕入れる。その分、高額の税を国に納め、ワイロを含めて諸経費が乗った商品は高い。スーパーも業者から高い場所代を取る。
 (b)一方、ワーカー用の小店には、地下製造の偽調味料がずらりと並ぶ。偽シャンプー、偽石鹸・・・・何でも安い。不法再生プラスチック食器は、吐き気をもよおす匂いを放つ。

(8)権力的汚染格差
 (a)中国の軍や大国営企業は、1950年代から自給自足のために農場を持っていた。今も、自分たちのためにだけ、市場に流れない安全な農産物や畜産物を作る。
 (b)2011年、北京の税関の秘密無農薬農場が話題になった。北京にいると、時に横流し品が流れてきて、たしかに良質だ。
 (c)PM2.5が700を超えた今年2月、首都空港から続々と、小型プライベートジェットや、護衛機に囲まれた大型機が海南島に脱出した。商人にして官僚、もしくは民間新進企業の若い社長たち、または中国の本当の要人たちだ。
 海南島は、空気が中国一きれいなところだ。プライベートビーチとプールを持つ巨大な5つ星ホテルがずらりと並ぶ。官僚が官費で来ることができるよう会議場も多い。今年2月、海南島の道はベンツや大型BMWなど高級車のみで渋滞していた。
 北京にマンション47室所有、海南島に4室所有、子どもは海外・・・・こういう人は今の中国では珍しくない。
 (d)マンションやオフィスにいる人はまだいい。冬も夏も1日中この大気の中にいるのが、路面の商店員、建築作業員、ネット通販大ブームで1日14時間を自転車やオート三輪で配達に駆け回る宅配便の配達員だ。マスクをしていたら仕事にならない。ストレスで吸う煙草も飲む酒も偽物。屋台の酒は100%問題がある。彼らは寮暮らしが多いが、自分で借りたら中国の安い部屋は壁のペンキの裏がカビだらけだったり、雨が降れば汚水槽になる地下部屋だ。
 ワーカー層は、仕事そのものが汚染(規定が守られていない)にさらされることが多い。複合汚染で本人、家族に病人を抱えている率が非常に高い。治療費は日本より高く、年収の20倍、など。保険はない。都市の中流は、付き合うな、借金を申し込まれる、という。
 (e)パナソニックの空気清浄機と3MのPM2.5対応高機能クーラーフィルターでかろうじて凌げるが、1ヵ月くらいでフィルターはひどく変色し、ランニングコストは月1,000円。中国でこれを支払い続ける人は少数派だ。

(10)都市と農村の汚染格差
 (a)中国の大気汚染トップ3は、工業都市だ。北京ではない。つまり、北京以上にひどい。
 内陸もひどい。東北(古くからの工業地域)は、肺癌多発地帯だ。 
 北京近郊の保定は自動車産業が盛んだが、汚染トップ3に入る。今年9月末、PM2.5が500を超えた(「測定外」)。北京から保定に至る道の途中から、酸っぱい匂いが立ちこめてくる。都市から集めたペットボトルの不法再生の家内工業が並ぶ。その隙間に野菜が植えられ、子どもが遊ぶ。その野菜をせっせと食べた騾馬の現場料理店が道路脇に。農村には水道のないところが多い。工場の汚染水が土壌に染み込み、その地下水を飲用にする。
 (b)電池工場からの鉛流出、農薬工場からの水源汚染などで、農村や工業地帯では奇形児出産、肝臓障害多発で暴動が起きている。 
 (c)中国全土で癌村の数は定かではないほど多く、分布は沿岸のみならず内陸にも広く及ぶ。
 (d)日本への輸出野菜や食品は沿岸の農村で作られていることが多い。輸入の水際の全量検査は不可能だし、重金属検査は手薄だ。 

(11)環境汚染が止まらない理由
 (a)経済優先を掲げる汚職があって、見張るべき当地政府が汚染企業と一体化している。 
 (b)取り締まる環境保護部は、地位が低く、誰も言うことを聞かない。
 (c)罰金が安い。汚染水を垂れ流し、罰金を払った方がコストが低い。 
 (d)大気汚染も、北京のPM2.5の2割は排気ガスによる。中国の超低品質なガソリンを品質アップすればPM2.5を減らすことができる。しかし、設備投資に巨額のコストがかかる。対策は立てられたが、中国石油化工・天然ガス集団(東北と内陸に油田を持つ)と中央西部の汚職が深すぎて進まなかった。9月に幹部が拘束・解任され、10月から品質改定の通知が出たが、過去、実行されたためしがない。

(12)不動産バブル
 (a)官僚と商人がセットのチームは、儲けたカネで逃亡準備万全だ。残されたのは汚染大地と病気だけ。
 (b)それだけでも庶民は怒り心頭なのに、いま中国全土を異様な物価高が襲っている。原因は、不動産バブルだ。2002年に新築された100平米の部屋が、当時680万円だったが、2013年現在1億7千万円。中国人たちは、この間、手に入れた1室を担保に銀行ローンやシャドーバンキング(裏の高利貸し)などから資金を調達し、転売を繰り返して、ネズミ算式に100室に増やした。同じことを上から下まで、権力、財力、人脈力ごどに棟単位、開発地単位でやった。政府は、自分たちが設け尽くすまで転売税をかけなかった。彼ら主導のすさまじいバブルの結果が、全人代と政協委員、上位83人の平均資産3,350億円という結果をもたらした。いま、不動産は高値止まりで動かない。下手に下げると国が崩壊する。乗っかって儲けた人も多いが、人口13億人の中では少数だ。
 (c)バブルの実態のなさを庶民に転嫁し、地代、物価の上昇に人件費上昇は追いつかない。企業はまともなものは作れず、店も安全な食事を出せない。庶民は働きは全部高い家賃と必需品(および税)に持って行かれる。ボロ家が年収200年分だ。
 (d)そのカネで、スポーツカーと飛行機を乗りまわす富2代の濃い排気ガスを浴びながら、あらゆる汚染の中で、安全性の非常に不確かなものを食べざるを得ない。
 (e)今、中国人民の多くは、過去のどの時代よりキレる寸前だ。中国共産党は、11月に第3回全体会議を開く。テーマは「経済」。無事、開催できるのか。

□谷崎光(作家/北京在住13年)「現地ルポ PM2.5、農薬、重金属まみれの中国野菜が日本にくる? 汚染大国・中国のすさまじい現実」(「週刊朝日」2013年10月18日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【食】中国における食品汚染事件 ~悪質ケース50(抄)~
【食】「危ない中国産」を見破る法 ~ジュース・菓子~
【食】中国産ウナギ肝から国際基準の1.5倍のカドニウム
【食】外食、どのメニューに中国産が入っているか ~中国食品を見破れ(3)~
【食】安いものにはウラがある ~成型肉の添加物~
【食】中国産から身を守るためのQ&A ~中国食品を見破れ(2)~
【食】中国食品を見破れ ~スーパー・外食~
【食】中国猛毒食品(2) ~アサリ・エビ・ピーナッツ・漬物・ウナギ~
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド

【原発】【食】原子力問題と伝子組み換え(GM)問題の共通点 ~ムラ~

2013年10月11日 | 震災・原発事故
(1)原子力問題と遺伝子組み換え(GM)問題の共通点
 (a)本来いじくってはいけない物質と生命の根源的な部分(原子核と細胞核)を技術でコントロールしようとしている。
 (b)エネルギー不足を解決する、農業生産を増やす・・・・など、もっともらしい目的を掲げているが、実際は核と種子による世界支配が狙いである。
 (c)原子力もGMも技術は未熟であり、安全性審査は不十分なのに、「安全神話」がつくられ、国民に押しつけられている。
 (d)関係する業界と学会における「原子力ムラ」と「GMムラ」が形成されている。
   ①両方とも政府の後押しを受け、豊富な資金を得ている。
   ②両方とも、批判は一切受け付けない。
   ③両方のムラの研究者たちは、公開の場に出ると、論点をそらしたり、専門用語を多用したりして、素人を煙に巻く。
   ④安全性に疑問を示す研究が発表されると、非科学的、情緒的などのレッテルを貼って切り捨てる。
 (e)原子力ムラもGMムラも、身勝手な態度や主張を平気でする。
   <例1>裁判で、「原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない「無主物」であり、したがって除染の責任はない」と主張した(東京電力)。
   <例2>GM菜種の野生化を無視している(モンサント社、シンジェンタ社)。
 (f)共通項を整理すると(□が放射能汚染、■がGM汚染)、
   ①技術のルーツ・・・・□米国の国策、■米国の国策
   ②技術の対象・・・・□原子核、■細胞核
   ③名目上の目的・・・・□エネルギー確保、■世界の食料確保
   ④真の狙い・・・・□核による世界支配、■種子による世界支配
   ⑤人の健康への影響・・・・□直ちに影響はない、■直ちに影響はない
   ⑥環境への影響・・・・□有、■有
   ⑦遺伝子への影響・・・・□有、■有
   ⑧食品汚染・・・・□有、■有
   ⑨影響の規模・・・・□大、■大
   ⑩安全審査・・・・□不十分、■不十分
   ⑪業界・学会のムラ構造・・・・□原子力ムラ、■強大なGMムラ
   ⑫ムラの行動・・・・□批判勢力を差別、■批判勢力を差別

(2)もう一つの共通点 ~安全神話~
 □フクイチの事故によって、原子力の安全が根拠のない「神話」に過ぎないことが明らかになった。いったん巨大事故が発生すれば、多数の人々が放射能で汚染され、健康障害に悩まされる。広い地域が居住できなくなる。廃炉に、途方もない時間と費用がかかる。最先端技術を駆使した文明の利器は、実は凶器であった。
 原発事故はまた、前世紀に支配的だった科学万能の夢から目覚めさせ、多くの科学技術を謙虚に見直す時期に来ていることを示した。
 その技術の一つがGMだ。

 ■GM作物・食品では、フクイチのような破滅的な事故はまだ起きていない。しかし、幾つもの問題点が明確になってきた。
 しかも、GM拙物には放射能より恐ろしい面がある。
 放射能は、気の遠くなるほど時間はかかっても次第に減少していく。
 他方、GM生物は増殖していく。<例>GM作物の栽培が原因で人の免疫系に耐性を持つ病原菌が誕生したら、人にはこの菌を防御する手段がなく、健康な人まで病気になり得る。
 そんな取り返しのつかない事故や被害が生じる前に撤退していくべきだ。それには完全禁止へ向けて多くの市民が努力を続けているEUのやり方が参考になる。有効なのは、幻覚な表示制度の導入だ。

□岡田幹治(ジャーナリスト)「問題が噴出する遺伝子組み換え(GM)作物(下)」(「世界」2013年10月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【食】表示を求める声が米国で拡大 ~遺伝子組み換え食品~
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【食】食品表示はどこまで信用できるか ~遺伝子組み換えでない/表示なし~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【食】効能表示をしたい健康食品業界と歯止めをしたい消費者庁
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~

【原発】事故収束に必要なプロジェクト管理 ~一元的で透明な組織~

2013年10月10日 | 震災・原発事故
 (1)汚染水漏れ問題は、事故から1ヵ月後(2011年4月)から指摘されていた。今年になってからも観測井戸を増やし、トレンチから放射性物質が海に漏れていることを東電の担当者は把握していた。にも拘わらず、ようやく7月19日に公表した。
 他方、政府は、今年3月7日、「福島第一原発廃炉対策推進会議」を発足させた。しかし、その後も、地下水槽の漏れ、地上タンクの漏れ、地下汚染水の海への流出、仮設電源のネズミによる停止など、ままならない事態が発生した。業を煮やして、第5回会合(6月27日)では「交際廃炉研究開発機構(600人体制)の設立が決定された。
 同機構の所管は経済産業省から原子力規制委員会に移った。移る前に資源エネルギー庁がまとめた「地下水の流入抑制のための対策(概要)」によれば、
  (a)平成25年度末までにフィージビリティ・スタディを実施する。
  (b)運用開始は平成27年度上期を目処とする。
 あまりにも切迫感に欠け、当事者意識ゼロだ。

 (2)組織体制が見えてこない。
 「廃炉対策推進会議」に提示されている「中長期ロードマップ」など、書類の作成者はほとんどは匿名である。
 除染、使用済み核燃料の取り出し、溶融デブリの取り出し、核燃料の長期処分、サイトの最終整備・・・・目白押しの難題に、汚染水対策さえままならない東電/政府の体制で、処理できるのか?

 (3)業務が恒常化している場合には、個人の力よりも組織の力のほうが有効だ。しかし、原発事故という特大のイレギュラーな業務に直面すると、恒常的な組織では手も足もでなくなる。
 経済界には、イレギュラーな、毎回異なるパターンの仕事をその業務限りのタスクフォースチームを組んで請け負う業種がある。いわゆるエンジニアリング産業がそれだ。チームに参加する技術者の意識は業務自体に集中し、個人としてのプロフェッショナルな技能を志向する傾向が強くなる。
 現状の行き詰まりを打開するには、組織モデルとしてエンジニアリング産業方式でやらなければならない。タスクフォースチームを組み、その中心にすべての権限を掌握しているプロジェクトマネージャーがいる方式だ。これにより初めて、一人の人格のもとに統合された働きをするようになる。プロジェクトマネージャーの下には部門ごとの責任者が配置され、この目的に特化した機能的な組織を構成する。かくして、働いている人も、仕事を依頼している人も安心感を得ることができる。

 (4)タスクフォースチームを事故収束のために構成するなら、どういう体制にすべきか。
 対象が数兆円の一大プロジェクト、中には開発が放射線被曝管理を含む多数のプログラムが含まれる。よって、
  (a)複数のエンジニアリング会社からプロジェクトエンジニアを派遣してもらい、
  (b)100人規模のタスクフォースマネジメント組織を構成し、
  (c)予算管理、工程管理を含め、すべての権限を一元的にこの組織に集中する(恒常的支援組織は既存のとおり)。

 (5)時間と競争でトラブルに対処するときは、中核になるプロジェクト管理組織が、トラブル発生現場で、問題の分析、技術内容の確認、機器・資材の手配、下請け会社との作業契約を一元的にこなす組織運営が必要だ。
 意思決定権者が東京にいて、テレビ会議で指示するなど論外だ。
 もう一つ、組織は大きければ良いというものではない。大きすぎる組織は意思疎通に時間とエネルギーを無駄遣いする。機能的でスリムな中核組織を作る必要がある。

 (6)今後多額の費用が必要で、これは私たち市民の肩にかかってくる。してみれば、市民に対して仕事のやり方、組織、経済負担について、適切な報告が行われ、市民による監査が行われる体制の構築が必要だ。
 現状は、「やりました、失敗しました、またやり直しましょう」と頭を下げられるだけだ。
 この組織は、市民に対して次のことを行わねばならない。
  (a)総費用の概算を市民に明示する。・・・・誤差が生じたら、事実判明とともに改訂していく。現状では、費用算出努力がなされているのか否かさえ市民には分からない。
  (b)多額の費用を消費する業務については、作業の項目ごとに一般競争入札を行う。・・・・費用を最小限に抑制する努力をするべく、契約条件書や技術仕様書を明示し、それぞれの仕事の費用と品質について透明性を持たせねばならない。現状は、馴れ合った業者に人集めをさせ、その日その日の成り行きで泥縄の作業指示をしている。
 仕事を行うためのプロジェクト管理体制に欠陥があるから、目下の福島の現場が迷走しているのだ。

□筒井哲郎(プラント技術者)「原発事故の収束作業は誰が担っているか? ~求められるプロジェクト管理の視点~」(「世界」2013年10月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【原発】震度6でフクイチが崩壊する日 ~液状化~
【原発】東電による汚染と、東電の「汚染」 ~隠蔽体質~
【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~
【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~
【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~
【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【経済】米国金融緩和終了で日本国債のバブル崩壊

2013年10月09日 | ●野口悠紀雄
 (1)米国FRB議長の任期は来年1月に満了する。その後任人事が難航している。
 この人事は、米国の金融緩和政策の行方に関係する。ゆえに、世界中の注目を集めている。

 (2)米国の現在の金融緩和政策は、雇用情勢改善を目的として行われている。しかし、米国企業の利益は、すでにリーマン・ショック以前の水準を回復し、順調に増加を続けている。よって、問題は企業の利益をいかに雇用や賃金に振り分けるかだ(分配上の問題)。これは、税制や社会保障政策の役割であって、金融政策が有効であるか否か、疑問だ。
 その半面、金融緩和で投機が容易になり、米国から流出した投機資金が世界で次々にバブルを引き起こしている。
 ユーロ危機は、米国サブプライム証券化商品から逃避した投機資金が、南欧国債や住宅投資に向かったため引き起こされた。
 中国は、リーマン・ショックによる経済落ち込みを回復するために巨額の景気刺激策を行い、それが不動産バブルを引き起こした。よって、中国の不動産バブルは、米国の不動産バブルを引き継いだものだ。
 マクロ的対外バランスを見れば、米国は巨額の経常収支赤字が今に至るまで続いている。これは、資本収支でファイナンスされている。米国経済の長期的な見通しが良好である限り、資本流入は続く。
 ただし、それをファイナンスできる国が存在しなければならない。リーマン・ショック前は、日本、中国、産油国が主たる資本供給国だった。しかし、日本の経常収支黒字は、リーマン・ショックと東日本大震災を経て減少している。中国の貿易黒字も減少している。よって、米国に対する資本流入が、これまでのように順調に続く保証はない。

 (3)要するに、誰がFRB議長になろうと、金融緩和政策をこれ以上継続してよいかどうか、検討課題にせざるを得ない。

 (4)仮に米国の金融緩和i政策が終了した場合、日本にいかなる影響が及ぶか。
 米国の景気悪化は日本の株価に悪影響を及ぼす・・・・とは限らない。
 金融緩和i政策が終了 → 米国の金利が上昇 → 仮に日本の金利が上がらずに日米金利差が拡大すれば、日本から米国の資金移動が起こり、円安が進む → 株高
 ・・・・となると言えるほど、事態は簡単ではない。日本の金利上昇が起こらない保証はないからだ。
 金利上昇のメカニズムは
  (a)単に米国の金利に引かれて上昇する。<例>今春以降の日本の長期金利の上昇。
  (b)全世界的規模で投機が縮小する。金融緩和i政策が終了すると、投機のための資金調達が困難となり、また資金コストが上昇するからだ。
   ①その結果、ユーロ圏から日本への資金流入(主として国債に投資)が減少、または流出へ転じることが生じ得る。そうなると、国債価格が低下し、金利高騰を招く。
   ②米国から日本の株式市場に流入していた資金も逆流する。
   ③以上は、為替レートを円安方向に動かし、同時に日本の景気に悪影響を及ぼす。
   ④円安が進んでも、輸出量は増大しない(大きな問題)。事実、この1年間に25%も円安が進んだにも拘わらず、輸出量は減少している。殊に対中輸出の減少は異常なほどだ。対欧輸出が回復する可能性はあっても、対中輸出が増えることは期待できない。
   ⑤資金流出は、円安をもたらし、国内物価を上昇させる。よって、経済活動が停滞する半面、物価だけが上昇する(スタグフレーション)。

 (5)(4)-(b)-⑤に対処する方法は、あるか?
 現在の日本経済は、公共事業の著しい増大によって支えられている。これをさらに拡大すれば、金利高騰を招く。(4)-(b)-①があるので、これまでのように金利に影響を与えずに有効需要のみを増大させることは難しい。

 (6)米国の金融緩和 → 米国の住宅価格バブル → 崩壊 → バブルが欧州と中国に移行
 2012年11月ごろ以降、日本で進行した円安と日本株価の高騰も、欧米のヘッジファンドなどによる投機の結果として生じた(同年秋、米国から投資が株式市場に流入)。
 米国の金融緩和の終了 → 投資資金の調達困難 → 世界的な投機の時代の終わり

 (7)最後に残ったバブルは、日本国債のバブルだ。
 財政状況が最悪であるにも拘わらず日本で歴史的な低金利が続いたのは、世界の投機資金が安全を求めて日本国債に避難していたからだ。特に2011年、欧州から日本に対して巨額の証券投資の資金流入があった。これが、日本財政を破綻から守った。
 日本国債(10年債)の利回りは、
  (a)リーマン・ショック前 1.5%程度
  (b)2011年ごろから顕著に低下
  (c)いま 0.75%
 仮に(a)の状態に戻るとすると、日本国債の利回りは急騰する。
  → 巨額の国債を保有する金融機関に損失が発生する。かつ、利払い費の急増によって財政が危機的状況に陥る。
  → これまで覆い隠されていた日本財政の潜在的問題が顕在化する。

 (8)(7)にも拘わらず、消費増税対策としての財政支出増、法人減税、公共事業の増額など、政治的圧力による財政拡大要因が目白押しだ。
 国債バブル崩壊の危険をまったく無視して。

□野口悠紀雄「米国金融緩和終了で投機の時代は終わるか? ~「超」整理日記No.678~」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月5日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【原発】震度6でフクイチが崩壊する日 ~液状化~

2013年10月08日 | 震災・原発事故
 (1)3・11の地震発生時、1号機はすでに運転開始から40年経っていて、老朽化は甚だしかった。重要器具は定期検査で交換するが、周辺の装置はそのままだ。追加、追加でどんどん配管を増やし、耐火構造にするために防火剤を塗りつけるから、重量は半端ではなかった。設計基準を大幅に超えていたはずだ。

 (2)建物の老朽化よりもっと深刻なのは、地盤の緩みだ。
 今のフクイチの建屋は、「地下水の海に浮いたコンクリートのハコ」のようなものだ。山側から押し寄せる800トン/日の地下水が、地表1mまで上がっていて、建屋が浮く可能瀬性がある。すでに建屋が傾いているのではないか、と恐れたくなる状況だ。
 フクイチの敷地は、もともと地下水が豊富で、幾つもの沢が海に注ぎ、地面を少し掘れば水がしみ出す切り立った崖地(高さ35m)だった。それを高さ10mに削り取り、原子炉建屋とタービン建屋を建てた。
 その結果、地下水は高さ35mの山側地層から高さ10mの敷地の地下になだれ込み、原子炉建屋の基礎にぶつかる。
 周囲が地下水だらけになると、浮力が働いて建屋が船のように浮き上がる。

 (3)東電は、建屋が浮き上がるのを避けるため、サブドレイン(井戸)を約60本掘り、800トン/日の地下水を汲み上げて水位を下げ、建屋基礎の下を地下水が通るようにしていた。
 だが、サブドレインは3・11後、放射性物質まみれの瓦礫で埋まり、使えなくなった。
 このため、地下水の水位は地下1mに上がり、半分の400トンは建屋地下に流入し、溶け落ちた核燃料を冷やした後の高濃度汚染水と混じり、汚染水の量を増やしている。残りの400トンは、護岸周辺から海へ抜けている。

 (4)そんな状態で震度6の地震に襲われたら、液状化が発生する。
 液状化が起こる要因は、次の3つ。3要因が重なると、液状化の可能性が高くなる。
  (a)N値(地盤の堅さ示す)が20以下で、土の粒子の大きさが0.03~0.5mmの砂地盤。
  (b)地下水位が地表面から10m以内。
  (c)震度5以上の大きな揺れ。
 
 (5)地震で倒壊したフクイチの鉄塔の地盤を東電が調査したところ、地下25mまでの地層のN値は20~10以下だった。
 地下水の水位は高い。
 実態は、液状化だった。

 (6)震度6の地震が襲った場合、仮に4号機の燃料プールが無事だったとしても、液状化で、建屋の地下に溜まった7万トンの高濃度汚染水が土砂とともに噴き出したら、建屋周辺に誰も近づけなくなる。当然、1~3号機の冷却も難しくなる。
 サブドレインの復旧に、あと1年以上、建屋を囲む遮水壁の設置に、あと2年はかかる。

□魚住昭「わが家とフクイチの危機 ~魚住昭の誌上デモ 第52回~」(「週刊現代」2013年10月12日号)

   *

 原子炉建屋を建設するにあたり、東電は切り土をした。フクイチの場合、海までの岸壁を20~25mも切り土して建てている。通常、地下水位は地下10~15mに砂層があり、そこに地下水が流れる。
 これほどの切り土をしたのは、東電がフクイチ建設当時から地下水の危険を知っていたからだ。
 事実、3・11以前にも、フクイチ1~4号機の原子炉建屋に地下水が漏出していた。工事の許可を出す保安院の文書によれば、1971年以降、建屋に地下水が何度も入り込み、止水工事を繰り返し行っていた。

□森功「東電は地下水の危険を原発建設時から知っていた これが「動かぬ証拠」だ ~ジャーナリストの目 第177回~」(「週刊現代」2013年10月12日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【原発】東電による汚染と、東電の「汚染」 ~隠蔽体質~
【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~
【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~
【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~
【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【消費税】租税特別措置という巨大利権

2013年10月07日 | 社会
 (1)消費増税と復興特別法人税の前倒し廃止の背後に、まやかしの構造が隠れている。

 (2)日本の法人税は、途上国はもとより、米国以外の先進国に比べてもかなり高い。最近は、企業の海外流出を止めたり、海外企業を国内に誘致するために国際的な法人税引き下げ競争が激化している。そこで、日本も引き下げよう・・・・というのが、もともとの議論としてあった。
 その第一弾として、2012年度から法人税の実行税率が40.6%から35.64%に引き下げられるはずだった。
 しかし、東日本大震災の復興予算の財源のために、次の措置がとられている。
  (a)法人税の実行税率・・・・38.01%に引き上げ(2012年度から3年間)
  (b)個人の所得税額・・・・税額に2.1%を上乗せ(2013年1月から25年間)
  (c)個人の住民税・・・・税額に2.1%上乗せ(2014年6月から10年間)

 (3)(2)-(a)だけ1年前倒しで廃止するのはおかしい、という批判があるが、もっと強く批判されるべきことがある。
 交際競争と雇用維持の観点から法人減税が、中長期の「成長戦略」の課題となっていたが、その観点から言えば、やるべきことは、
  (a)まず法人税の本則の税率を恒久措置として引き下げ、
  (b)その上で復興特別製上乗せを継続する。
ということだ。
 しかし、法人税本則を見直して恒久減税をするとなれば、財源捻出のために法人税に関する「租税特別措置」を全面的に整理(廃止)しろ、と財務省に言われるのが必至だ。

 (4)「租税特別措置」とは何か。ある一定の条件を満たす場合に限り、法人税を特別にまける制度だ。<例>省エネ投資をしたら減税。IT投資をしたら減税。研究開発を増やしたら減税。
 各制度には非常に細かい条件が設定されているが、その条件の決定に当たっては、関連の業界団体が担当省庁と族議員に陳情する。これを受けて、各省庁と財務省が交渉し、最後は自民党税調の議員との調整を経て減税措置が決まる。
 団体は、その見返りに
  (a)天下りポストを提供し、
  (b)パーティー券を買い、選挙に協力する。
 複雑で巨大な利権の構造だ。

 (5)既得権者たちから見れば、「租税特別措置」の全面見直しなど、あってはならない。
 しかし、法人税引き下げを求める市場の声に安倍総理は押された。
 そこで官僚たちが考え出したのが、復興特別税の1年前倒し廃止だ。これなら、
  (a)「租税特別措置」と関係なく、財務省や自民党税調を含む既得権者たちも異論はない。
  (b)1年限りのまやかしだが、法人税を下げた、と言えるから安倍総理の顔も立つ。
  (c)恒久的な減税ではなく、復興特別税1年分の減税だけで済むから、財務省から見てもさほど痛手ではない。

 (6)かくして、肝心の「租税特別措置」の抜本的見直しは行われず、法人税の抜本的引き下げの議論も先送り。
 他方 規制改革も看板倒れで「成長戦略」はカラッポのままだ。
 「消費増税とバラマキのスパイラル」だけが日本国民に残された選択肢となる。

□古賀茂明「「租特」という巨大利権 ~官々愕々第80回~」(「週刊現代」2013年10月12日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~
【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~
【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~
【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
【経済】円安による費用増はすでに政治的問題
【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~
【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場
【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~
【経済】円安を止められなくなるリスク
【税】富裕層への増税を支持する富裕層
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~

【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~

2013年10月06日 | 社会
 (1)消費税率が上がれば、大企業は喜ぶ。
 輸出還付金制度【注】によって、自動車メーカー、商社、家電大手などは消費税を1円も納めないどころか、税率引き上げにより数百億円から千億円ものカネを手にすることができる。

 (2)輸出還付金制度(戻し税)は、国内で原材料などの仕入れで消費税を払っているのに、その分を海外の消費者に転嫁できないための救済措置。
 輸出企業が損をしないよう負担分を国内で販売して納めた消費税と相殺し、負担分の方が多ければ払い戻す。

 (3)一見理に適った制度に見えるが、盲点がある。
 立場の弱い中小企業が、将来還付される消費税分を納入先の大企業に請求できるかというと、極めて困難だ。下請け業者間の競争もある。結局、消費税分の値引きを強いられる。
 つまり、大企業は消費税を負担していないのに、還付金を受け取ることができる。

 (4)主な大企業の還付金額を有価証券報告書から拾い出すと、2012年度は次のとおり。【湖東京至・税理士/元静岡大学教授】
   ①トヨタ・・・・1,801億円
   ②日産・・・・906億円
   ③住友商事・・・・665億円
   ④ソニー・・・・635億円   
   ⑤三井物産・・・・624億円
   ⑥本田技研工業・・・・563億円
   ⑦丸紅・・・・537億円
   ⑧三菱商事・・・・532億円
   ⑨マツダ・・・・504億円
   ⑩キャノン・・・・465億円 (ただし、2012年1~12月)

 【注】「【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金~」
【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金~

□大場弘行・奥岡幹浩(本誌)「「大企業は増税で5兆円儲ける」戻し税のカラクリ ~消費増税 7つの衝撃~」(「サンデー毎日」2013年月日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~
【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~
【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
【経済】円安による費用増はすでに政治的問題
【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~
【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場
【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~
【経済】円安を止められなくなるリスク
【税】富裕層への増税を支持する富裕層
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~



【原発】東電による汚染と、東電の「汚染」 ~隠蔽体質~

2013年10月05日 | 震災・原発事故
 (1)10月2日、またもやフクイチのタンクから高濃度の汚染水が漏れ、一部が海に流出した。周囲の雨水を汲み上げてタンクに移し過ぎたのが原因だった。【注】

 【注】記事「汚染水、東電ちぐはぐ また海へ流出 傾斜地、水位計役に立たず 福島第一原発」(朝日デジタル 2013年10月4日)

 (2)今年3月、フクイチで大規模な停電が発生した。地元自治体への連絡は、停電発生から3時間後だった。東電は批判を浴びた。
 4月、ストロンチウムなどの放射性物質を含む汚染水を貯蔵している地下貯水槽からの漏洩について、東電は漏洩の可能性を疑い始めてから2日後に公表。批判はさらに強まった。

 (3)6月19日10時開始の臨時会見で、東電は、港湾の護岸付近(タービン建屋東側)に掘ってあった放射性物質観測用井戸の地下水から、50万Bq/リットルのトリチウムが検出されたことを発表した。発電所から排水を放出する際の濃度限度(トリチウム6万Bq/リットル)の9倍近くが地下水から検出されたわけだ。汚染源は、地下トレンチ(観測用井戸の南側)に残っていた汚染水だと説明された。
 フクイチの地下水は、敷地の西から東へ向かって流れ、海に出て行く。汚染源から北方に拡散した、ということは、同時に東側の護岸から海へ流出している可能性があった。
 ところが、会見で東電は、海水に影響していることはない、と説明した。当然、複数の記者から、それならば何故北方向にだけ拡散するのか、と質問が相次いだが、東電はひたすら「海での影響が見られない」と回答し続けた。
 会見では、データ公表が遅かったことにも批判が出た。
  (a)5月24日、東電は観測用井戸から地下水を採取。
  (b)5月30日(公表の約3週間前)、トリチウムの濃度が判明。
  (c)5月31日、6月7日、6月14日、採取。
  (d)6月19日ごろ、ほとんどの分析結果が出揃う。
 その後、観測用井戸のトリチウム濃度はさらに上昇したが、東電は「データを蓄積し、総合的に判断する」として、海洋流出を認めなかった。

 (4)7月10日、定例会議で、原子力規制委員会は「海への拡散が強く疑われる」と、見解をまとめた。同会議では、護岸近くの観測用井戸の水位と、海面の潮位の相関関係を見るべきだ、という意見も出た。
 東電はしかし、1週間経っても水位の観測結果を公表しなかった。
 7月19日、東電は記者の質問に対して、「実際に水位のデータを公表するということではなく、近々、私どもが検討している中身を説明したい」と、すでにデータがあることを推定させる回答を行った。
 7月22日(参議院選挙の翌日)、定例会見で東電は、45ページに及ぶ資料「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇の問題の現状と対策」を配布した。1時間半近くの説明では、海洋流出を明言しなかった。
 質疑応答で、東電はようやく、しかも渋々という態度で、地下水の海洋流出を認めた。
 資料には、公表を渋っていた地下水位のデータ(1月31日から1時間単位で計測)も含まれていた。地下水位は海水面より2m近く高く、海への流出は一目瞭然だった。
 当然、会見では公表遅れについて批判が続出した。
 地元の漁業関係者も批判の声をあげた。
 7月23日、閣議後の会見で、茂木敏充・経済産業相は「データ開示は大変遅くて非常に遺憾」だと批判した。
 7月26日、東電は、廣瀬直己・社長を減給1ヵ月10%などとする幹部5人の処分を発表した。

 (5)8月19日、東電は汚染水貯蔵タンク(ストロンチウムなどが高濃度で含まれる)から漏洩があることを発表した。発表によれば、漏洩量は120リットル。汚染水は拡散防止の堰の外に広がっていた。
 ところが、この日、堰内にどの程度の水溜まりがあるかを「確認する」として公表しなかった。
 この日の深夜、20日1時半、報道関係者に一斉メールが配信された。堰内から4立米の水を回収した、と書かれていた。その水には8万Bqの全ベータ核種(主要核種はストロンチウム90)が含まれていた。
 8月20日昼、臨時会見で東電は、漏洩量は300立米と推計した、と発表。漏洩量は、当初発表の2,500倍に増えた。

 (6)汚染水貯蔵タンクに係る最大の疑問は、タンクのコストが適正であるかどうかだ。急ごしらえのものではないか。
 タンクは、工期が短く、カネもなるべくかけずに作った。長期間耐えられる構造ではない。【協力会社会長】
 1基200万円で、1ヵ月で6基の建造を依頼された下請け業者が、手を抜けないので断った。業者は「そんな調子で発注してできあがったものは、まあもって2年じゃないか」と話した。【増子輝彦・参議院議員(民主党)】
 このため、記者会見では何度も、コストを明らかにするよう要求が出ている。しかし、東電は拒否している。

□木野龍逸(ジャーナリスト)「この期に及んでも 情報をすぐに出さない東京電力の汚染ぐあい」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~
【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~
【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~
【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~

2013年10月04日 | 震災・原発事故
 (1)原発事故はコントロールされている、と安倍晋三・首相が明言したことで、放射性物質拡散を予想したシミュレーションがあらためて注目を集めている。
 それは、ドイツのキール研究所(ヘルムホルツ海洋研究センター・キール)が2012年7月に発表した論文と詳細な動画【注】だ。
 事故後5~6年間で、放射性物質は米国西海岸に達する。10年間で、太平洋全域や日本海などに拡がる。

 【注】動画はこちら。「10年後の太平洋放射能汚染シミュレーション (Future Pacific Ocean Radioactivity SIM) 」。ちなみに、画像の左上の数字は、フクイチから海洋に漏れ出してから経過した日数だ。

 (2)キール研究所の試算では、放射性物質の濃度は海水で薄まるため、事故から2年後で10Bq/トン、10年後では約1Bq/トンとなっている。
 1Bq/トンだと、飲料水基準の1万分の1の量にしか過ぎない。
 ただし、このシミュレーションは3・11後、数週間で海洋に放出されたとされる1京Bqのセシウム137の拡散を予測しただけだ。3・11後の爆発で大気中に放出された放射性物質55京Bqの55分の1に過ぎない。食物連鎖で汚染値が上がり生体濃縮の危険性を考慮しなければならないし、どんな悪影響が出て来るか、不明だ。まして、新たに汚染水が出続けているわけだから、現実の事態はこのシミュレーションよりさらに深刻だ。

 (3)フクイチの汚染水の原因の一つは阿武隈山地(フクイチ西側)からの豊富な地下水だ。
 フクイチは、地盤を掘って建設したため、事故前でも850トン/日の地下水を汲み上げていた。地震被害で、汲み上げ機能がまだ回復していない。このため、300トン/日が原発敷地内を通って海に出ている。
 東電発表によれば、濃度が高い井戸では60万Bq/リットルのトリチウム(三重水素)が観測されている。最悪だと、1,800億Bqのトリチウムが海に出ていることになる。
 トリチウムは、水素と化学的にふるまいが同じなので、体内に入ると前身をめぐって筋肉や臓器などの癌の原因になる。欧州放射線リスク委員会(ECRR)によれば、トリチウムバンドという現象によって体内に蓄積する危険がある。
 しかも東電は、地下水に当然含まれているストロンチウムについて観測結果を発表していない。

 (4)凍土壁の建設は、2年間要するし、建設費は1,500億円。さらに運転には年間数十億円要する。対応がとにかく付け刃で、本当に効果があるか、不透明だ。
 さらに厄介なのが、汚染水貯蔵タンクからの漏洩だ。現在34万トンが「貯蔵」されているが、このなかにはトリチウムだけで、3・11後の爆発で出たのと同じ規模の放射性物質が溜まっている。
 東電は、当初、トリチウム以外の放射性物質を取り除いた後で、海に捨てようとしていた。つまり、爆発で出たのと同じ量のトリチウムを意図的に海に捨てようとしていた。
 
 (5)村田光平・元駐スイス大使は言う。
 国際社会の反応について、政府と東電が信用されていないことが深刻だ。
 福島原発事故は、地球環境上これまで最大の危機である、との認識が広がっている。原発そのものが、核兵器に劣らず危険なものであること、しかも簡単に破局事故を起こしうることが明確になった。だから、米国は5基の原発を廃炉にした。
 米国では、最近2つの動きが出ている。 
  (a)ロサンゼルス在住の女性がオバマ大統領宛の署名をインターネットを通じて集め始めた。福島原発問題を東電・日本政府のみに任せず、米国および国際チームで対応するよう要請する署名で、1億人分を集めたい、としている。
  (b)日本政府と東電が信用できないため、食糧および健康問題に関心を寄せるNGO「ナチュラル・ソリューションズ・ファンデーション」が、各国政府にも国際機関にも依存しないNGOの監視機関を創る動きを始めている、云々。

 (6)村田元大使は、さらに言う。
 キール研究所は、汚染水流出を組み込んだ新しいシミュレーションを準備している。
 汚染水事件は、日本の排他的経済水域(EEZ)にも影響する危険性がある。EEZの200カイリの権利を主張するためには、その国が適切に海洋を管理していることが条件となっている。汚染水をこのままくい止められなければ、適切な管理ができな国と見なされて、EEZの権利を失う可能性もある。
 震度6強の地震が来れば、使用済み核燃料が詰まった4号機が崩壊し、翌日から東京に住めなくなるなど深刻な核被害が想定されているのに、コントロールされていると放言する安倍首相には危機意識が足りない、云々。

 (7)9月13日の「第1回海洋モニタリングに関する検討会」で原子力規制委員会の姿勢と「実力」が典型的に可視化された。事故後2年半のモニタリングは問題だらけであった。
  (a)モニタリング・データについて、「サイエンスとしては何の意味もない」【外部有識者】
  (b)出されたデータは、放射能測定データにも拘わらず“不確かさ”がついていない。学生のレポートなら零点。確認しようと思うと、一個ずつきちんと測れているか、と問うハメになる。【青山道夫・気象庁気象研究所主任研究官】
  (c)中村佳代子・原子力規制委員会委員いわく、「汚染水という言い方は私はあまり好きではない」。
  (d)セシウムの経時変化のグラフにストロンチウム90のデータを加えてほしい。次回からは他の核種についても忘れずに図示してもらいたい。【青山研究官】
  (e)①資料採取の方法を一定にすべき。②フランスやドイツで導入している連続モニタリング装置をなぜ導入しないのか。③補正が間違っていたまま掲載している東電のデータは意味がない。④放射性物質以外による海洋汚染も重要、ホウ酸とヒドラジンがどれだけ投入され、汚染水タンクにどれだけ入っているのか、海にどれだけ漏れ出ている可能性があるのか、データを出してくれ。【外部専門委員】

□伊田浩之(本誌編集部)「終わらない原発汚染水」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~
【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~
【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~

2013年10月03日 | 社会
(1)増税が景気に与える悪影響の程度
 今回の消費増税では、家計や企業は何とかショックを吸収して、「景気腰折れ」までには至らない。
 (a)個人消費減退
   景気に最大のインパクトを与えるのは個人消費(GDPの6割)の減退だ。これは、次の2つによって生じる。
    ①増税前の駆け込み需要の反動・・・・一時的なもの 
    ②物価上昇による実質所得の目減り
 (b)政府の対策
   低所得者向けに「簡素な給付」を行う方針だ。ただし、現在打ち出されている10,000~15,000円/年では、焼け石に水。
 (c)賃金増
   減り続けてきた名目賃金(現金給与総額)が、今年6月以降、前年同期比で増加に転じた。今後も緩やかながら改善の動きは続くと見られている。ただし、賃金増といっても、増えているのは残業代やボーナスであって、家計に最も大きな影響を与える所定内給与(基本給・パート代など)は減少が続いている。他方、次のような指摘もある。
   統計には表れていないが、個人ベースでは定期昇給により1.5~1.6%/年の賃金増加があり、消費増税による負担増をぎりぎり打ち消せる。【是枝俊悟・大和総研研究員】
 (d)雇用増
   7月時点で、失業率は3.8%まで低下している。今後もさらに改善する、と見込まれている。1人当たりの所得では物価上昇に見合うほどの増加は望み薄だが、経済全体を見れば、何とか消費増税による負担増を補う水準となり得る。
 (e)結論
   (a)のように、個人消費の水準は増税前より低下するが、(c)、(d)によって、日本経済全体は改善していく。【斎藤勉・大和総研経済調査部主任】

(2)リスク
 (a)米国の景気動向 ~最大のリスク~
   (1)-(c)、(1)-(d)の改善の見通しは、企業業績の好調が前提となっている。円安基調の持続による輸出企業の好業績が景気全体を牽引する、というシナリオだ。だが、もし米国景気が変調を来せば、このシナリオは瓦解する。
 (b)企業の設備投資
   (1)-(a)以外では、これが重要だ。内需への波及効果が大きいからだ。トレンドとしては増加の方向にあり、4~6月期にはかろうじて前年同期比プラス圏となった。もっとも、古くなった設備の更新投資が主だ。また、牽引しているのは円安で潤う輸出産業ではなく、非製造業だ。製造業は慎重姿勢を崩していない(いまだに前年同期比マイナス)。現在の傾向が続けば、それでも一定の景気下支えにはなるが、増税で消費が落ち込んだ後も非製造業が投資を続けるか、疑問だ。
 (c)政府の対策    
   法人減税が設備投資につながるか、不透明だ【注】。企業がメリットを得ても、それが賃上げという形で家計に波及しなければ意味がない。下手をすれば、単に法人減税による税収減が、消費増税による税収増を打ち消すだけに終わる。
   景気腰折れの回避には、経済対策、わけても即効性の高い公共投資がどの程度の量、出るかによる、という見方も多い。しかし、その規模と内容によっては、かえって財政が悪化する結果となりかねない。規模としては、今年度の税収上ブレ分などを使って(赤字国債の発行をせずに打てる範囲である)3兆円程度、楽観的に見積もっても5兆円程度がギリギリのところ。内容上も、老朽化したインフラの更新など、本当に必要なものに厳しく限定しなければならない。無駄なバラマキが行われたら、何のための消費増税か、ということになる。

(3)財政問題は未解決
 消費増税によって財政問題が解決することはない。
 消費増税だけで財政再建を果たそうとすると、最終的な税率は25~30%になる、という試算も少なくない。 
 経済の「地力」をつけるための成長戦略遂行が極めて重要だ。具体的には、企業の活力を引き出す規制改革、若者や女性の労働参加を促すための政策だ。
 持続的成長のためには、企業業績の改善の恩恵が家計に回ることが必要だ。カギを握るのは、ボーナスではなく所定内給与の増額、パートではなく正規雇用の拡大だ。だが、それには企業が中長期の成長を確信しなければならない。今は、そこまで至っていない。

 【注】
法人税減税が経済成長となる条件 ~「超」整理日記No.518~
法人税減税批判 ~「超」整理日記No.530~
法人税率引き下げは経済を活性化しない ~「超」整理日記No.531~

□記事「消費税アップ! 家計・景気はどうなる?」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月5日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~
【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
【経済】円安による費用増はすでに政治的問題
【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~
【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場
【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~
【経済】円安を止められなくなるリスク
【税】富裕層への増税を支持する富裕層
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~