語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】五輪と北方領土、ロシアの強硬論を変えるには ~セルゲイ・ラブロフ~

2014年02月16日 | ●佐藤優
 (1)ラブロフ・ロシア外相は、典型的な官僚だ。どんな大統領にも忠実に仕えることができる。
 熟練した職業外交官だから、物事を敢えて荒立てるようなことはしない。

 (2)メドベージェフ大統領(当時)が、2010年11月1日、ソ連時代を通じてロシアの元首として初めて国後島(北方領土)に上陸した。その後、日露関係は戦後最悪レベルになった。
 ラブロフ外相は、明らかに「メドベージェフはやり過ぎた。これ以上日本との関係を悪化させるとまずい」と考えた。そこで彼は、2011年2月11日、モスクワを訪問した前原誠司・外相(当時)との会談で、柔軟な姿勢を示した。前原外相が、日本の法的立場を毀損せずに北方領土における日露共同開発の可能性を検討することを提案したのに対して、ラブロフ外相は肯定的な回答をしたのだ。
 今からでも遅くはない。安倍晋三政権が、前原提案を推進し、北方領土での共同経済活動を行えば、
  (a)色丹島、国後島、択捉島に現在居住するロシア系住民の対日感情が大きく好転する。
  (b)日本人が北方領土に常住し、経済活動を行うことになるので、北方領土の日本化が進む。

 (3)残念ながら、最近のラブロフ外相は、対日強硬論に流されている。
 モルグロフ外務次官(日露平和条約(北方領土)交渉におけるロシア側責任者)が、中国専門家で、習近平政権による対日包囲網形成に協力的だからだ。
 2013年12月26日、安部首相が靖国神社に参拝した5時間後に、ロシア外務省は「遺憾の意」を表明した。ロシアが日本首相の靖国参拝を批判するのは、ソ連崩壊後、初めてのことだ。今回の「遺憾の意」表明は、中国や米国の反応を踏まえた上でその尻馬に乗った、というものではない。ロシアが、第二次世界大戦をめぐる認識で、日本を叩く口実を探しており、ちょうどよいタイミングで首相の靖国参拝があったので、それを最大限に活用した、という流れだ。
 ラブロフ外相も、モルグロフ次官の対日強硬外交を止めていない。

 (4)1月31日、外務省飯倉公館(東京都港区麻布台)で、平和条約に係る日露次官級協議が行われた。交渉内容は外部に漏れ出ていない。北方領土の帰属問題に係る歴史的、法的な経緯が協議の俎上に載ったが、平行線だったらしい。
 全般的に極めて率直で真剣な議論を行った。長年にわたって行われてきた交渉であり、1回の交渉で隔たりがなくなった、ということはできない。【杉山晋輔・外務審議官(政務担当)、1月31日NHKニュース】
 双方が論点を整理し、首脳間の政治決断に向けた準備が進んでいる(推定)。

 (5)2月1日、安全保障会議が開催されているミュンヘン(ドイツ)で、岸田文雄・外相とラブロフ外相が会談した。安倍首相が、7日に開幕するソチ冬季五輪の開会式に出席し、翌8日、プーチン大統領と会談することについて合意した。
 外相会議では、かかる事務的事柄を話し合うだけでなく、北方領土問題の実質的内容を話せるレベルの信頼関係を両外相間で構築しなければならない。
 前原・ラブロフ関係から、虚心坦懐に学ぶべきだ。

□佐藤優「五輪と北方領土 ロシアの強硬論を変えるには ~佐藤優の人間観察 第56回~」(「週刊現代」2014年2月22日号)
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【お役所の掟】「二重予算」というからくり

2014年02月15日 | 社会
 (1)2月2日付け朝日新聞朝刊には、「ムダ判定予算 8割復活」という見出しで、2013年度補正予算に関する記事が掲載された。
 幾つかのテレビ番組でも、消費増税するのに、国民の血税がこんな無駄遣いのために消えていくのは許せない、などというコメントが流れた。
 こんなことは毎年の恒例行事で、驚くには当たらない。
 補正予算はムダな事業に使っても仕方ない、というのが霞が関の不文律だ。本予算の査定で認められない二軍、三軍の予算が補正に回るきまりになっているのだ。  

 (2)予算は、規制権限と並んで官僚の力の源泉だ。多額の予算を取れば、それだけ自分の役所の所管業界に恩が売れる。関係団体に回す資金が増え、それらの断愛における天下りポストも増える。
 だから、本予算であろうと補正予算であろうと、官僚は1円でも多くの予算を獲得しようとする。予算は自分の給料になるわけではない。しかし、その省庁の官僚の将来の天下り人生を確実にするのは間違いない。その上、予算を増やせば人事評価で得点になる。
 実際には、どういうことが起こるのか。
 予算の査定は、壮大な政治ショーだ。
 まず、本予算の査定が先に始まる。財務省は、厳しい査定方針を示して、各省の予算を大きく削る素振りを見せる。その姿勢は、各省の会計課を通じて、担当課、族議員、関係業界などに伝えられる。
 厳しいと知った業界団体は、族議員と所管省庁に足繁く通って、予算獲得の陳情を行う。最後につく予算が同じだとすると、最初に厳しく言っておいたほうが、予算がついたときの有難みが大きくなるので、財務省は非常に厳しい情報を流す。
 その上で、最終的にはかなりの予算をつける。最初の相場観が下がっているので、喜びも大きくなる、という仕掛けだ。

 (3)むろん、誰が見ても筋が悪い、という予算要求も多い。そういうものは、最終段階でもゼロ査定、または大幅な減額査定を受ける。
 演技するのは、財務省だけではない。業界や所管の役所では、まあ仕方ないか、と内心思いながら、大げさに「これではとても持ちません」などと嘆いてみせる。

 (4)本予算の査定の途中段階で、財務省と各省会計課は、本予算でダメなものは補正に回そう、という相談をする。そして、本予算でがっかりさせておいて、補正で同じ予算を認めるのだ。一度ダメだと思っていただけに喜びもひとしお、ということになる仕掛けだ。

 (5)本予算と補正予算が別もの、というのは、ただの建前にすぎない。実際には完全に一体のものとして扱われている。
 「15ヵ月予算」とは、今年1月から3月の補正予算と、来年度の12ヶ月の本予算を一体のものとして表す表現だ。
 予算に切れ目をなくす、という意味で使われるが、官僚から見れば要するにどんぶり勘定だ。どちらでも、カネには色が付いていない。二軍予算と言われても、取ってしまえばこっちのもの。

 (6)安部総理が議長となって、行政改革推進会議で、厳しい「ムダ判定」を出した時から、財務省と各省の間では、そのほとんどを補正で認める、ということになっていたはずだ。
 そもそもムダ判定の案そのものを作っているのは財務省だ。
 すべては出来レース。
 官僚が国民のために働く仕組みを作らない限り、このからくりは無くならない。

□古賀茂明「「二重予算」というからくり ~官々愕々第97回~」(「週刊現代」2014年2月22日号)
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【佐藤優】激怒するアメリカ、暗躍する中韓 ~靖国参拝~

2014年02月14日 | ●佐藤優
 春名幹男(早稲田大学大学院客員口授)、宮家邦彦(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)、後藤謙次(政治コラムニスト)、武貞秀士(柘植大学海外事情研究所客員教授)、ヘンリー・S・ストークス(ジャーナリスト)、前原誠司(衆議院議員)、佐藤優・・・・が延べ8時間論じ尽くした。うち、佐藤の発言を抜粋、要約する。

(1)アメリカ>米国知日派も「行くな」
 欧米で靖国問題の本質を知る人が少ないというのは事実だと思う。だからこそ、今回、靖国参拝、そしてその後、日本がとった対応は非常にまずかった。
 特に1月22日、スイスのダボス会議での安倍首相の発言、日中の戦争の可能性について問われ、「第一次世界大戦前のイギリスとドイツの類似の関係である」と発言したと報じられた。通訳のミスもあったというが、大きな失点だった。真意は歴史の教訓に学び、偶発的な軍事衝突は避けるべきだという点にあったとしても、欧米諸国に対して、日本が好戦的であるというイメージを植え付けてしまった。

 「失望」だから軽いとか、「遺憾」だからどうだという議論は、問題の本質を見誤る恐れがあると思う。同盟国であるアメリカがはじめて公に異を唱えたことの重大さをきちんと受け止めないと、対応を誤る。現に参拝当日、アメリカ大使館が声明を発表した際、首相官邸は「非難のトーンは高くない」と受け取って放置してしまった。それがワシントンに伝わり、サキ国務省報道官による声明、すなわち出先の大使館ではなく本省での問題となった。日本政府が自ら傷口を広げてしまったのだ。

 昨年のシリア内戦への関与、対イラン政策においても、アメリカのプレゼンスの低下は明かだ。シリアへの介入を示唆したものの、米議会に委ねるといい、結局、介入を止めてしまった。またイランに対しても、核開発の禁止を認めさせられないまま、経済制裁の緩和に合意してしまっている。

(2)中国・韓国>小泉参拝よりも悪化
 興味深いのは、ロシア人が韓国をどう見ているかだ。外交の専門家の友人によると、「帝国主義的パワーゲームのなかで、韓国は主要なプレーヤーと思っているかもしれないが、韓国が帝国主義的外交を展開できているのは日本に対してだけだ。現在、帝国主義国家の資格があるのは、アメリカ、中国、EU、イギリス、そして日本だけだよ」と語っていた。
 昨年11月、プーチン大統領が韓国を訪れた。会談にプーチンは40分も遅刻した。さらに滞在も予定より1日短くした。「安部や習近平に対して同じことをできると思うか」と。きわめて冷ややかなのだ。

 ただ慰安婦問題について、軍による強制性がどの程度かといった歴史的な事実を検証、議論しても、外交的、政治的にはほとんど意味がないと思う。つまり、日本側がそうした議論にこだわっているうちに、女性の人権を踏みにじる日本というイメージが国際世論に定着してしまう。

(3)北朝鮮・ロシア>金正恩が日本に接近?
 私はこの粛正劇の真の原因は、路線対立だと考える。つまり金正恩体制ではイデオロギー転換が進行している。それは金正日体制の否定でもある。
 最近、金正恩の著書『最後の勝利をめざして』を読んだが、その内容に腰を抜かすほど驚いた。父親の金正日について、「限りなく謙虚な金正日同志は、金正日主義はいくら掘り下げても金日成主義以外のものではないとして、わが党の指導思想を自身の尊名と結びつけることを厳しく差し止めました」としながら、自分は、「金日成・金正日主義を永遠なる指導思想として堅持していくことを求める」と宣言している。これは明確な脱・遺訓政治宣言だ。つまり一見、父の思想を尊重しているように見せて、その実、父の命に公然と逆らっている。

 今回、私が非常に危険だと思っているのは、ソ連崩壊後初めてといっていいほど、ロシア外務省が強烈な声明を発表したことだ。その声明の冒頭には、「安倍晋三首相が極東国際軍事裁判で有罪とされたA級戦犯の魂を祀っているとされる靖国神社を参拝」とある。これはかねてからの中国の主張と同じだ。
 さらに「歴史修正主義で第二次世界大戦の結果をひっくり返そうとする一部の勢力がある。それを背景にして、日本政府の今日のこのような行為に対して遺憾の意を表明せざるを得ない」と重ねている。一部の右寄り勢力を率いるのが安倍首相と言っているのだ。
 (これはロシア側の中国への配慮か否かというと、)そうではないと分析している。というのも、声明がホームページにアップされたのは、靖国参拝の当日のことだった。中国や韓国、アメリカの反応を見ずに、ロシアが独自の判断で安倍首相の靖国参拝を批判したことをいみしている。

 首脳同士の関係は良好なのだが、ロシア外務省が中国寄りにシフトしたのは間違いない。ロシア外務省内の日本重視派が要職から外され、自然と中国重視派が力を持ち始めていた。そんなところに靖国参拝があったため、ロシア外務省は完全に反日に舵を切ったのだ。
 今後、ロシア外務省は北方領土の占拠を正当化する動きを見せるだろう。そのときロシア側が持ち出すのが1945年6月に署名された国連憲章の敵国条項だ。「連合国が敵国に対して、戦争後の過渡的状況において行った占拠などの措置は無効化されない」とあり、同年8月の日ソ中立条約の侵犯は、国連憲章によって認められるという主張をするだろう。しかし、国連憲章の発効は同年10月年だ。筋違いの議論だが、日本の外交当局には注意が必要だ。

 その意味では、安倍首相がソチ五輪の開会式に参加することを決めたことで、日露関係が好転するかもしれない。この開会式が行われるのは2月7日、北方領土の日だ。安倍首相は北方領土返還の式典に出席後、ソチ入りを計画している。そうすると、プーチンが安倍首相の領土返還にかんする発言を新聞で読む前に、二人は顔を合わすことができる。これはよく考えた戦術だと思う。
 (安倍首相の出席が決まった後、すぐさま習近平も対抗して、訪露の意向を発表したが、もし私が外務省の現役だったら、国後または択捉島で日露首脳会談を行うというプランをロシアに持ちかける。色丹や歯舞では二島返還に日本が合意したと誤解を生むが、国後・択捉島のどちらかで首脳会談が実現すれば、プーチン・安部双方が外交実績を作ることができる。プーチンが乗るかどうか分からないが、もし乗ってくれば北方領土問題を進展させようという証拠だ。日本側は失うものはないから、外務省は勝負してみてはどうか。

(4)日本>「右傾化」という妖怪
 たしかに中韓の宣伝戦は脅威だが、欧米諸国で「右傾化する日本」というストーリーが受け入れられる素地が形成されつつあるのは事実だ。マルクスではないが、「日本の右傾化」という妖怪が一人歩きしないように、日本政府は的確な外交対応をとる必要がある。

□会談「靖国参拝 激怒するアメリカ、暗躍する中韓」(「文藝春秋」2014年3月号)
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 【参考】
【佐藤優】米国から「外交指南」を受けた日本 ~チャック・ヘーゲル~
【佐藤優】安部首相の靖国参拝問題 ~「知の武装」レベル~
【政治】安倍晋三首相の「躁状態」 ~暴走を許す民意~



【労働】日本年金機構の職員格差 ~年金が危ない~

2014年02月13日 | 社会
 (1)マルハニチロの子会社が製造した冷凍食品への「農薬混入事件」の余波は、食品業界にとどまることなく、日本中の企業を緊張させている。
 同子会社の、逮捕された契約写真の犯行動機が、給与への不満にあった、と報じられているからだ。
 正規社員と非正規社員の待遇格差が、この種の事件の背景にあったとすれば、同種の事件がまた、何時、どこで起こってもおかしくはない。
 まっとうな組織なら、とうてい安閑としてはいられない。

 (2)唯一、危機意識に乏しいのが、あの日本年金機構だ。
 同一労働、同一賃金をタテマエにしながら、日本年金機構の待遇格差は並みの民間以上にひどい。
 正規職員は安定した身分に安住し、面倒かつ困難な仕事は、立場の弱い非正規職員に押し付ける傾向が強いからだ。
 しかも、日本年金機構の経営陣は、そんな職場実体の是正に努めるどころか、その格差がもたらしかねないリスクに気づいてもいない。

 (3)昨年11月末、上部機関(厚生労働省年金局)が公表した日本年金機構の「次期中期目標の骨子(案)」には、「全国異動を基本」としてきた正規職員のキャリアパターンを、「本人の適性や生活環境等を踏まえた」制度に改める旨、書かれている。何気ない一文だが、この意味するところは大きい。
 今を遡ること4年前、旧・社会保険庁が潰された。
 新たに日本年金機構を立ち上げるに際し、職員の幹部登用に当たっては、さまざまな仕事を経験させ、視野を広げさせる「全国異動を基本」とした。
 前記改正は、その方針の事実上の撤回に当たる。

 (4)「全国異動」が義務づけられていなかった旧・社会保険庁時代には、採用された事務所等でのんびり過ごしながら、組合幹部となった職員の中から事務所長や事務局長の多くが登用されてきた。ために、「組合エゴ」が横行し、地域によっては組合幹部の意向の前に、社会保険庁長官の指示・命令が跳ね返される、というヘンな事態も散見された。
 挙げ句の果ては、年金記録の正確な管理に支障をきたし、持ち主不明の5,000万件もの記録が発生し、放置される仕儀となった。
 「全国異動」は、この種の弊害を取り除き、組織の風通しをよくしようと定められたキャリア・パターンだった。

 (5)むろん、異動に当たっては「本人の適性や生活環境等を踏まえる」のは、人事部門としては必要な措置だろう。
 しかし、そのような内部手続きを、わざわざ厚労大臣名で公表する中期目標に記載する必要はない。
 書くとすれば、正規職員が抱える介護や子育てといった「生活環境」への配慮ではなく、格差是正であり、監査機能の刷新による「不満リスク」の排除であるはずだ。

 (6)日本年金機構は、年金加入者や受給者の膨大な個人情報を管理している組織だ。
 仮に、それら年金記録の一部が不正に持ち出されたからどうなるか。プライバシーの侵害どころか、最悪、犯罪に利用されかねない。
 事実、日本年金機構のホームページには、「不審な電話や訪問にご注意ください」と銘打ったコーナーがある。そこには年金事務所職員を名乗り、「滞納している国民年金保険料を支払わないと差し押さえする」と脅し、加入者から保険料を詐取した実例が示されている。
 これは、すでに未納記録の情報が流出していた可能性を示唆する。ピンポイントで未納者の自宅を訪ね、その未納額を把握していた、ということからすれば。

 (7)(6)のような事態が懸念されるにも拘わらず、日本年金機構の対応は極めて鈍い。
 必要な調査を行うことなく、暢気に他人事を決め込んでいる。
 これで、果たして大丈夫なのか。  
 国民の安心のためにも、情報漏洩の有無を早急に調査し、その結果を包み隠さずに公表すべきだ。

□岩瀬達哉「是正するどころか拡大 日本年金機構の職員格差がもたらす重大リスク ~ジャーナリストの目 第194回~」(「週刊現代」2014年2月22日号)
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 【参考】
【食】半致死量と摂取許容量 ~違いを知らないマルハニチロ~
【食】マルハニチロ農薬事件の背景 ~厳しい労働環境~

【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)

2014年02月12日 | 社会
 (8)長田区の伝統的基幹産業はケミカルシューズだった。震災直前は297社あったが、今は89社に減った。その過程で自殺者も出た。いま、アベノミクスが全部裏目に出ている。円安で材料が高騰した。ケミカルシューズの材料はほとんど石油だ。中国へ進出した店も、一昨年撤退した。
 ピーク時には年間700億円近くあった全社の売り上げは、現在400億円ほどだ。
 震災前は倉庫などもすべて長田区に存在し、仕事のほとんどが地域で完結したから、夜は「一杯やろう」となった。しかし、市は倉庫群を、開発した西神地区(西区)に移させるなどして、賑わいがなくなったのも町の衰退の大きな原因だ。
 震災で散り散りになった神戸市民は、大半が戻ってきたが、長田区だけ唯一、人口が減少している。

 (9)「幸か不幸か燃えた」
 小川卓海・神戸市助役(当時)が、テレビでそう口走った。阪神・淡路大震災で壊滅状態になった長田区について、そう失言した。
 当然、批判の嵐が湧き起こった。
 発言は当時の神戸市幹部の本音だが、小川助役は後日、須磨海岸で焼身自殺した。
 神戸市の三宮、元町に賑わいが集中する中、新長田駅前を「第二の副都心」とする計画は、古くからあった。だが、在日韓国・朝鮮人が多く居住、小さな町工場や長屋、木造モルタルの粗末な「文化住宅」が雑然と並ぶ庶民的な町で、住民を立ち退かせることは困難だった。
 阪神・淡路大震災で地域は炎に包まれた。
 行政担当者や背後に蠢いていたゼネコンにとっては千載一遇の好機となった。
 震災からたった2ヶ月後の3月、市はJR新長田駅前を再開発の拠点として20万平米に30階建てを含む44棟ものビルを建設する「都市計画」を発表した。総事業費2,710億円。笹山市長(当時)は、「全国の再開発のモデルとする」と息巻いた。

 (10)驚いた住民のピケは、警官隊に排除された。住民が避難所に追われている間にひそかに進められた計画に、当時「神戸市職員が火つけたんや」の流言さえ流れた。
 防災名目で道幅を広げて高層ビルを並べた。ビル上階の復興住宅の家賃は高く、震災前は長屋暮らしだった庶民は入居できなかった。住民の多くが入れ替わった。否、市が入れ替えた。
 市は、長屋暮らしのおっちゃん、おばちゃんではない「おしゃれな新住民」が欲しかったのだ。
 市が歓迎したニューカマーたちは、地元では買い物をせず、三宮、元町、大阪などに出てしまう。新長田駅前の唯一のデパートすら昨年撤退し、東京資本のスーパーなどになってしまった。
 バタバタと店が畳まれる商店街。
 だが、市は残るビルも建設する、という。
 結局神戸市は、都市計画で箱モノをつくるだけ。後はどうなろうと、彼らには関係ないのだ。
 復興災害だ。

 (11)大正筋商店街では、震災前には年商1億円あったという果物店も撤退した。
 テナントだったが、老舗のうどん店「福助」も立ちゆかなくなり、撤退した。
 商業スペースの17,600平米のうち、売却できたのは半分にも満たない。だが、3期務め、昨秋退任した矢田立郎・元神戸市長は、「失敗ではない」と嘯いた。
 そもそも、神戸市は住民のニーズで箱モノを作るのではない。中央区にあった市民病院は、反対を押し切り、ポートアイランドに移したが、震災時に橋が通行できなくなり、助かる命も奪った。2011年、さらに沖に移転させ、とポートライナーの駅名まで変更する始末。大半の市民にとって不便になっただけだ。
 要は、人工島の企業誘致が不調で、重要施設を沖に移して人々を引っ張ろうとしたのだ。
 今、須磨区の県立子ども病院までポートアイランドに移そうとしている。

 (12)新長田駅の若松公園には高さ18mの鉄人28号が聳えている。見物客は多いが、アスタに向かう人は少ない。儲けたのはJRだけだ。

 (13)イベント主義の神戸市。
 1981年に宮崎辰雄・元市長が、「神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア)」を成功させ、「株式会社神戸市」と言わしめた。神戸市は、イベントをぶちあげて人を集めるパターンがいまだに強い。
 年末の電飾「ルミナリエ」などを報じ、「復興」の笑顔を発信してきた。
 だが、行政が認めない大失敗を見据えないと、真の復興を見ることができない。
 巨額の税金で箱モノに邁進してきた神戸市。
 行政担当者は、誰ひとり責任をとらないまま、「震災20年目」に突入する。

□「新長田まちづくり株式会社」災害」」(「週刊金曜日」2014年1月17日号)
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 【参考】
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

  

  

【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)

2014年02月11日 | 社会
 (1)JR新長田駅から南へ向かい、国道2号線を渡った先に、南北にアーケードが伸びる。大正筋商店街だ。上階がマンションなど高層ビルに挟まれている。
 一帯は、阪神・淡路大震災後に神戸市が「アスタくにづか」と名付け、大々的にオープンさせた「復興商店街」だ。1番館から6番館まで高層ビルが並ぶ。「アスタ」とは、明日のタウンの謂い。安直きわまる命名だ。

 (2)震災前のにぎわいは、取り戻せていない。
 人影は嘘のように消え、クリスマス前の3連休でも午後7時にはほとんどの店がシャッターを下ろす。11年前に2番館の2階の1室を2,500万円で買った婦人服店「クイーン」も、売り上げは激減する一方だ。なじみ客が高齢化で服を買わなくなったこともあるが、とにかく人が歩いていないのだ。震災前にはイベントで1,000万円を売り上げた時もあったが、最近では月300万円がやっと。
 売り上げ減の中、毎月徴収される管理費が、大きな負担になる。月4,000円/坪、15坪で6万円。少し下がっても月5万円以上、固定資産税と合わせて月8万円も負担する。
 かさむ負担に店を畳んで売却しようとしても、不動産屋は「ここは値段がつかない。2階はまず売れない」と買い取りを拒否する。

 (3)こうした中、市はダンピングしてテナント貸しを始めた。15坪より広い部屋を月1万円で貸し出したりしているのだ。
 市に問い合わせても、「新長田まちづくり株式会社」に聞いてくれ、と市は繰り返すだけ。
 ビル管理会社などで構成する「第三セクター」の同社の社長は、宍戸正行(57歳)・神戸市商工会議所職員。問い合わせても、宍戸社長は応対せず、担当者は「ケースバイケース」とごまかす。

 (4)震災前は、職住同居の商店だったが、今は住居の減額措置がないため固定資産税が高い。
 また、管理費が高い原因の一つは、共有面積が広いからだ。「アスタくにづか」自慢の「三層プロムナード」は3階までビル同士が通路で行き来できる。しかし、ほとんど人が通らない廊下なども煌煌と照明が輝いていて、エスカレーターが動いている。それらの維持費が管理費として商店に請求される。
 共用部分のどこに、どう金が使われているのか、詳細は各商店には知らされていない。

 (5)「新長田まちづくり株式会社」の会計を調べてみると、修理代などの明細によれば、電球代1個に至るまで受注先がすべて同社となっている。発注元と発注先が同じなのだ。これなら好き放題ができる。
 集めた金が彼らの関係者の中で回っている。共用部分の修理内容は商店主らには詳細がわからない。元の領収書を見せろ、と詰め寄っても見せない。かかる不正は、犯罪に近い。
 同社は、さらに電力会社が電力料金を決める際の「総括原価方式」のようなやり方で集金している。水道代でも電気代でも、諸経費などの名目で15%増しにして請求している。被災者を搾取している。
 「新長田まちづくり株式会社」の筆頭株主はイオングループのイオンディライトで、二番手は神戸市。第三セクターがさかんに批判された頃で、市は筆頭にならず、民間の形をとって責任を免れている。以下、関西電力、三井住友銀行など大手銀行が株主に名を連ね、世間の信用を得るには充分だ。しかし、実際は運営しているのは、たった8人だ。
 同じビルでも、住宅より店舗の管理費が数倍高いことも判明した。
 共用部分は商店だけが利用しているわけではないのだが、完成当初、市は商店に、「買い取らなければ入居できない、すべて分譲」と言った。
 その共用部分の固定資産税も、商店の負担となる。
 それでいて、「新長田まちづくり株式会社」は月1万円で部屋を貸し出したりしているのだ。
 「不公平」「売れない物件を買わせた」・・・・2012年1月、店主ら52人は「新長田まちづくり株式会社」を相手に過払い金3億円の返還を求める訴訟を神戸地裁に起こした。しかし、裁判は遅々として進まない。

 (6)管理者を別の民間管理会社に変更しようとする動きがあった。しかし、床面積の多くを所有する神戸市が反対した。区分所有法で決められた4分の3の議決権を得られず、規約改正ができない。
 この問題は2013年3月に市議会の都市防災委員会でも取り上げられ、陳情も行われた。さすがに市もまずいと思ったのか、住民参加のプロジェクトを立ち上げ、収拾を図ろうとしている。しかし、管理会社を換える、とは言わない。

 (7)市民そっちのけの行政で利益を得たのは誰か。
 ゼネコンはもちろんだが、もう一つは市から委託されたコンサルティング会社だ。1億円単位の金をもらっていたはず。その人物Xが少し出資して、現在、「新長田まちづくり株式会社」に居座っている。
 Xは、神戸市職員だったが、若いころに退職して環境再開発研究所を立ち上げ、現在は「新長田まちづくり株式会社」の取締役も兼務している。
 震災前の1989年に就任した笹山幸俊・神戸市長(当時)は、「インナーシティ計画」を出してきた。新長田駅前に高層ビルを建て、地下鉄海岸線を建設するなどを決定。その地下鉄は今、大赤字だ。
 再開発を強力に指導してきた松下綽宏・助役(当時)は、10年前に「空床が出るとは想定していなかった。市が責任をもって対処する」と話していたが、退職している。

□「新長田まちづくり株式会社」災害」」(「週刊金曜日」2014年1月17日号)
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 【参考】
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

   

【佐藤優】の書評 ~知を磨く読書~

2014年02月10日 | ●佐藤優
●藤原智美『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』(文藝春秋、2014.1.28)
 反知性主義が横行するネット社会の本質

 インターネットで情報へのアクセスが容易になっているにもかかわらず反知性主義が横行する現状について深く考察している。話し言葉は話し手に有利で、文は読み手に有利だという指摘にはっとさせられた。<書かれた文章を行きつもどりつしながらも、自分の時間、リズムで内容を把握すること>によって、真の教養が身につくのだと思う。
 具体的なエピソードでは、懲戒免職処分を受けた高校教師の処分取り消し裁判を当時高校生だった著者が傍聴したときの話が面白い。処分理由の一つがこの教師が公費で不適切な書籍を購入したことだった。<検事はどうしたことか、その書籍名を「ハーゲル」全集と述べたのです。(中略)検事が手にした紙に目を落としたまま「ハーゲル」全集と二度、三度声にだすうちに、隣で傍聴していた同級生がぼくの横腹をつつき苦笑している>。
 司法試験、国家公務員試験に合格する能力と教養力はまったく別のカテゴリーに属する。

□佐藤優「知を磨く読書 第38回」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月15日号)

   

    *

●歳川隆雄『安倍政権 365日の激闘』(東洋経済新報社、2014.1.17)
 安倍政権の死角は「驕り」

 歳川隆雄氏は、永田町(政界)、霞が関(官界)を継続的にウオッチしているプロ中のプロだ。在京外交団も歳川氏の情報と分析に一目置いている。日本政治に関する考現学として本書は優れている。
 政治情勢の分析で、神も悪魔も細部に宿るのであるが、去年10月27日の川崎市長選挙で自民、公明、民主党推薦候補が敗北したことに関する歳川氏の考察が鋭い。
 <特に、管官房長官のお膝元である川崎市長選敗北は、自民党選挙対策委員会(川村建夫委員長)調査でも同党支持層の僅か20%しか自民、公明両党公認候補に投票しなかったからだという。公務員制度改革を唱えてきた管官房長官が総務省OBの元市財政局長を擁立したのだ。/やはり安倍政権の死角は、あるとすればだが、「驕り」ではないか>
 安倍政権の「驕り」は、内政だけではなく、首相と閣僚の靖国神社参拝でも可視化された。安倍政権を等身大で見る目を本書が養ってくれる。

□佐藤優「知を磨く読書 第36回」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月1日号)

      

    *

●松田美智子『サムライ 評伝 三船敏郎』(文藝春秋、2014.1.8)
 やり尽くしたパートナーとは上手に疎遠に

 三船敏郎は、「七人のサムライ」「羅生門」などの黒澤明監督映画、また、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンと共演した「レッド・サン」などで国際的に有名な俳優だが、その生涯については、ほとんど知られていない。本書は、丹念な文献解読とインタビュー取材によって、三船の全体像を描くことに成功している。文章もわかりやすく、構成もよくこなれた模範的な第三者ノンフィクションだ。
 黒澤と三船の微妙な関係についての以下の記述が印象的だ。<黒澤本人は、マスコミから不仲説について聞かれるたびに「別に三船君とけんかしたわけじゃありませんよ。ただ、三船君とやれることは全部やってしまったので、もう、やれることがないんですよ」と答えている>。
 仕事のパートナーとの関係では、「やれることは全部やってしまったので、もう、やれることがない」という状況が必ず訪れる。そのとき、上手に疎遠な関係になるのもプロの技法だ。

□佐藤優「知を磨く読書 第38回」(「週刊ダイヤモンド」2014年1月25日号)

   


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【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~

2014年02月09日 | 社会
 (1)2月1日に新しい会社が発足する。
 「三菱日立パワーシステムズ」だ。
 日立製作所と三菱重工業の火力発電システム事業を統合した新会社だ。

 (2)原発推進派の新聞2社が、このニュースを大きく扱った。
 火力発電事業は、日立、三菱の両社にとって、歴史的にも、会社の中で占める地位でも、極めて重要な部門だ。
 火力発電で欧米の大手重電メーカーに大きく遅れをとった日本の重電2社が手を結び、「追撃の狼煙を上げた」のだから、どうしても大きく報道したくなるのだろう(判官びいき)。
 さらに、両者とも、安倍政権の成長戦略(中身が無い)のうちで唯一と言ってよいほど重要な柱(原発輸出)を担う企業であるだけに、応援に力が入るのかもしれない。

 (3)だが、くだんのヨイショ記事に掲載されたグラフが、安倍政権と日本の重電メーカーがいかに世界の潮流から遅れているかを如実に示しているから、笑わせる。
 ①欧米の大手火力発電メーカー3社=GE(米)、シーメンス(独)、アルストム(仏)に加えて、
 ②日本の3社=日立、三菱、東芝の原発、火力、再生可能エネルギー各々売上高が棒グラフで示されている。
   ①が1.5兆円から3兆円弱の総売上であるのに対し、
   ②はいずれも1兆円未満と、大きく離されている。
 火力発電だけとると、3社とも欧米企業の数分の1でしかない。
 だからこのグラフで、三菱が火力部門を統合して、追撃態勢を整えることに意味がある、と言いたいのかもしれない。

 (4)しかし、そのグラフは、そんなことよりも遙かに重要なことを示していた。
  (a)(3)-①の原発の売り上げは、ゼロかほんのわずかでしかなくなっている。日本では、原発は安い、と常識のように語られるが、世界では全く逆だ。<原子力は、高くつきすぎて、正当化するのが非常に難しい>【イメルト・GE会長、2012年】・・・・この見解は、海外メディアで大々的に報道された。レッシャー・シーメンス社長も、2011年に原発事業からの完全撤退を宣言した。昨年11月には、世界銀行総裁が、世銀は原子力への投資を行わない、と宣言している。原子力は時代遅れなのだ。

  (b)(3)-①は、2,000億から6,000億円程度の売り上げを再生可能エネルギーで稼いでいる。かたや、(3)-②は、三菱重工がほんのわずかの売り上げがあるものの、グラフ上からでは見えないくらい少額だ。

 (5)実は、世界では、原発による発電量は2000年代に入ってほぼ頭打ちで、減少傾向さえ見せている。
 他方、再生可能エネルギーの成長は加速度的に伸びていて、原発を発電量でもはるかに上回る状況になっている。日本では考えられない状況に。
 よって、世界の有力メーカーは、将来性のない原発事業から手を引いて、再生可能エネルギーに経営資源を集中している。

 (6)安倍政権はしかし、陳腐化した原発事業に命をかけて、世界への売り込みに精を出している。
 火力発電事業の強化もいいが、最大の成長分野たる再生可能エネルギーへ投資して、今こそ挽回を図らないと、日本は永遠に、エネルギー産業での後進国になってしまうだろう。
 
□古賀茂明「時代遅れな「エネルギー戦略」 ~官々愕々第回~」(「週刊現代」2014年2月15日号)
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【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~

2014年02月08日 | 社会
(1)領土問題
 ①<日本の明確な領土ですから、これを国民にきちっと理解してもらう必要がある。今までで十分かどうかは検証したい。/国際放送は、国内放送とは違う。領土問題については、明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない>

 ①・・・・放送法第4条違反。同条いわく、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」。
 NHKは、公共放送だ。受信料を徴収して成り立っている。視聴者が権力を監視する放送機関だ。そのトップが<政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない>などと言うならば、誰も受信料を払わなくなる。
 国際放送が一部税金で賄われているため国からの要請がある場合があっても、編集権は独立している。「政府の立場を主張する」などということは起こり得ない。

(2)靖国参拝
 ②<総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしいじゃないですか。いいの悪いのという立場にない。/ただ総理は靖国に参拝されましたというだけ。ピリオドでしょ>

 ②・・・・「信念」などと言うから、話がおかしくなる。これでは、明らかに総理の行動を容認するものとなっている。すくなくとも、そう受け止められても仕方ない。

(3)従軍慰安婦
 ③<戦争地域には、どこでもあったと思っています、僕は>
 ④<従軍慰安婦が韓国だけあって、他の国になかったという証拠はありますか? あったはずなんですよ。従軍慰安婦をいいと言っているわけではないですよ。だけど、どう思われますか? 日本だけやっていると言われて。/ドイツにありませんでしたか? フランスにはありませんでしたか? ヨーロッパはどこにでもあった。なぜオランダには今も飾り窓があるんですか? 戦争しえいるところにはだいたい、つきものだったんですよ>
 ⑤<韓国は日本だけが強制連行したみたいなことを言うから話はややこしい。だからお金をよこせ、補償しろと言っているわけですよ。日韓基本条約ですべて解決しているんですよ。それをなぜ蒸す返すんですか>

 ③、④・・・・「どこにでもあった」というが、一般的な性売買と混同している。慰安婦のような制度は、日本とナチス・ドイツだけだった。「みんなやっているから、僕は悪くない」という弁解は、あまりにも子どもっぽい言い訳だ。
 ④・・・・飾り窓は、国が認めた公娼制度。慰安婦とは根本的に違う。
 ⑤・・・・「日韓条約で解決した」は間違い。条約は1965年に締結された。戦時賠償などを取り決めたが、韓国で元慰安婦が最初に名乗りを上げて損害賠償を求めたのは1991年だった。慰安婦問題は、日韓条約の対象になってなかった。

(4)特定秘密保護法
 ⑥<特定秘密法は政府が必要と説明しているので、それはそれで様子を見るしかない。あまりカッカすることはないと思う>

 ⑥・・・・デモが起きたりして問題になっている。問題点や良い点などについて、多面的に議論する番組をつくるべきだ。それなのに、まるで自民党政治家の発言と同じ。ジャーナリスト組織のトップの発言ではない。

 
(5)政権との距離
 略。

(7)編集権
 ⑦<(個人的見解を番組に反映させることは)ありません。放送法と何度も言っているのは、それがあるから距離が保てるということ>

 ⑦・・・・責任感がなさすぎる。会長は、人事や予算配分につじて絶大な力を持つ。こういう発言をしていれば、異動や予算を気にして、現場の記者やディレクターは萎縮してしまう。「個人的見解を反映させない」と言っても、トップ発言が番組制作に影響することをまったく分かっていない。
 1月30日放送の、NHKラジオ番組で、出演者が原発をテーマに話をすることが認められなかったことも明るみに出た。現場はすでに萎縮ムードになったか。

□常冨浩太郎(本誌)「NHK籾井会長の就任会見発言は「間違いだらけ」 専門家が採点!」(「週刊朝日」2014年2月14日号)
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 【参考】
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~


【スペイン】国を借金漬けにし、ツケを国民に回す支配階級 ~公金横領~

2014年02月07日 | 社会
 (1)スペイン国王の二女クリスチーナは、夫のパルマ公イニャーキ・ウルダンガリンとともに、数々の違法な資産運用の嫌疑で予審判事から裁判所への召喚命令を出された。
 王女への嫌疑は、脱税と資金洗浄だ。しかし、本質的には公金横領だ。それは、スペインを未曾有の経済破綻に追い込んだ支配階級の者たちに深く根付く「略奪文化」の一端に過ぎない。

 (2)2000年代初頭、王女の夫イニャーキが代表を務める非営利団体「ノース協会」に、バレンシア州やバレアレス州などの自治体と国内外の多くの企業から、合計1,400万ユーロ(19億7,400万円)もの出資が行われた。その大半は各自治体の公金だったが、「ノース協会」が主催・後援した各種イベントに新たに公金が湯水のようにつぎ込まれた。しかも、その使途は多くの疑惑に包まれている。
 <例>2005年と2006年にマジョルカ島で開催された「ノース協会」主催のスポーツ振興イベントに240万ユーロ(3億3,840万円)の公金が使われた。しかし、最近、バレアレス州がそれと全く同じ内容と規模のイベントを開催したところ、わずか8万ユーロ(1,128万円)で実施できたのだ。
 「ノース協会」主催イベントで、さまざまの名目の「領収書」と引き替えに消えた公金が戻ることはない。
 バレンシアを中心に行われた数多くの豪勢なイベント(F1自動車レースやローマ教皇訪問を含む)において数億ユーロもの公金がでたらめに流用された。こうした一連の浪費活動の起点は、2004年に「ノース協会」が主催したバレンシアサミットなのだ。

 (3)「ノース協会」を通じて王女夫妻が手にした資金の流れも闇に包まれているが、ようやく裁判所がその一部にメスを入れ始めた。
 王女夫妻は、バルセロナ市内に2人の名義で「アイゾーン」という不動産取引の会社を所有している。自治体からかき集められた多額の公金は、「アイゾーン」にも流れ込んでいた。
 裁判所は、「アイゾーン」が全国13カ所で行った不動産取引での脱税と資金洗浄を調べている。

 (4)王家からの支給のほかに、幾つかの形で公式に申告される2人の収入だけでは買えない豪邸は、「アイゾーン」に所有させ、ついで借家として自分自身に貸し出した。税務当局にも借家住まいとして申告していた。
 さらに、王女夫妻は「アイゾーン」のゴールドカードを使って、贅沢三昧を繰り返していた。アフリカで狩りをし豪華な旅行をし、数十万ユーロ分の高級な家具やワインを買い漁った(すでに明らかにされた事実)。これら派手な生活の原資は、要するに国民の税金だ。

 (5)世間知らずのお姫さまと元・有名スポーツ選手にしてにわか貴族のペアは、愚かにも多くの悪事の証拠を残してしまった。
 他方、王族の権威と名声を利用し、隠れ蓑にした伝統的なたかりと略奪のプロたちは、知らぬ顔の半兵衛を決め込み、悪事の証拠を闇の中にかき消している。
 このスペインの中央と地方で絶大な権力を握る者たちこそ、天文学的な額の公金を動かして群がり、国家と自治体を借金漬けにして、そのツケを国民にまわしている本物の巨悪なのだ。

 (6)覚悟を決めた現王室は、王家を守るために「殉教者」が必要だ、と語った。王女は召喚命令に対して控訴しない、と表明した。

□童子丸開(スペイン在住著述家)「違法な資産運用嫌疑でクリスチーナ王女に召喚命令 公金を懐に入れる支配階級にやっとメス」(「週刊金曜日」2014年1月24日号)
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【食】半致死量と摂取許容量 ~違いを知らないマルハニチロ~

2014年02月06日 | 社会
 (1)昨年12月29日のマルハニチロホールディングス事件(冷凍食品から高濃度の農薬マラチオンが検出)について、1月25日、容疑者が逮捕された。
 1月26日、マルハは「お詫びとお知らせ」を発表。今回の問題点として3点を挙げた。
  (a)従業員による農薬混入を許してしまったこと。
  (b)お客の申し出から商品の自主回収決定まで1ヶ月半かかったこと。
  (c)食品安全基準の認識に誤りがあったこと。

 (2)ここでは、(1)-(c)の社内の品質保証体制に係る問題点を指摘しておく。
 こうした回収騒ぎになるたびに、事業者の発表では、「1日に○○個食べないと健康に影響はでません」という但し書きが繰り返される。
 しかし、今回、マルハは影響を過小評価させようとしてとんでもないミスを犯してしまった。
 マルハは当初、記者会見で、急性参照用量ARfD(急性毒性が出ないようにするための基準値)と比較すべきところを半致死量(動物実験ですら半数が死ぬ量)の値を参考に、「20kgの子どもで、1回にコロッケを60個食べないと有害影響は出ない」と説明していた【注】。
 急性参照用量とは、1回の摂取量で有害影響が出ない値だ。動物実験で影響が出ない値の100分の1の値だ。
 12月31日には、マルハも自ら誤りを認め、訂正している。

 (3)問題は、なぜこんな間違いが起きたか、だ。
 12月30日、植田武智・科学ジャーナリストは、マルハの担当窓口に電話取材を行った。
 Q:子どもでコロッケを60個食べても大丈夫という根拠は如何?
 A:動物実験で体重1kg当たり1gのマラチオンを一度に摂取した場合に毒性が出ます。20kgのお子様ですと、20gになります。今回、一番残留濃度が高かった(15,000ppm)コーンクリームコロッケ(22g/個)の場合ですと60個という計算になったわけです。
 Q:今の値は、動物実験で毒性が発生した値なんでしょ? 安全率を掛ける前ですね?
 A:そこはですね・・・・えっと。
 Q:厚生労働省などには報告しているんですね?
 A:報告しております。

 (4)(3)の翌日、12月31二のマルハの記者会見では、佐藤信行・品質保証部長いわく、
 <ARfDを算出すべきところを、半数致死量を計算していた。食の安全にかかわる部署で検討したが、ARfDに関する知識もなかった。保健所に相談するのも忘れていた>
 「食の安全にかかわる部署」が安全基準のイロハも知らなかった、とは。
 間違って一口でも食べたら急性毒性が起きかねない商品が出回っている、という緊急事態において、マルハの体制はあまりにもずさんだ。

 【注】最高濃度(15,000ppm)コーンクリームコロッケは、何個で子ども(体重20kg)に影響がでるか。
  (a)1日許容摂取量(ADI)・・・・6mg 【1/53個分】
  (b)急性参照用量(ARfD)・・・・40mg 【1/8個分】
  (c)半数致死量・・・・20,000mg 【60個分】

□植田武智(科学ジャーナリスト)「半致死量と摂取許容量の違いを知らず? マルハニチロのずさんな認識」(「週刊金曜日」2014年1月31日号)
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 【参考】
【食】マルハニチロ農薬事件の背景 ~厳しい労働環境~


【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~

2014年02月05日 | 社会
 (1)従軍「慰安婦」問題などをめぐる発言で、籾井勝人・NHK会長が批判を浴びた。
 1993年の河野内閣官房長官談話とも抵触する。
 自分からオランダの「飾り窓」を持ち出した。「慰安婦」問題を売春の枠で語るなんて不見識きわまりない。一方で、平時における売春を認めた、とも受け取られかねない。会長発言が外交問題を引き起こすのは空前絶後。公共放送のトップとしてふさわしくないのは明白だ。【永田浩三・武蔵大学教授】

 (2)籾井会長の選出にあたって、安倍政権の意向が強く働いている。
 昨年10月25日、経営委員会(定数12人)委員の国会同意人事案を提示したとき、5人のうち新任の4人が安部総理の「お友だち」だった。
 会長選出に、経営委員9人の同意が必要だ。つまり、政権に忠実な経営委員が4人いれば、政権の路線を了とする人しか選ばれない。
 松本正之・前会長は、まだ1期目で、大きな失政もなかったので続投を希望していたようだが、安部総理から4人送り込まれてきたことで諦めた。官邸周辺には、原発やオスプレイ配備に対するNHKの報道を「サヨク偏向」だとする不満が根強いらしい。

 (3)籾井は、会長に就任する前、「週刊文春」にこう答えている。
 <テレビの報道は皆おかしいですよ。例えば「反対!」っていう人たちばかり映して、「住民が反対している」と。じゃあ何人デモに来ていたか、というのを言わない。僕は言うべきだと思っている。賛成と反対があるならイーブンにやりなさい。安部さんが言っているのはそういうことですよ>(2013年12月26日号)
 <政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない>発言などを踏まえると、籾井会長は「みなさまのNHK」のためにではなく、「あべさまのNHK」のために送り込まれた、というしかない。

 (4)籾井会長が、あっけからんと政府追随を打ち出したことで、安部政権のNHK支配にほころびが生じた。
 ただ、籾井会長が恥も外聞もなく居座る可能性も否定できない。

□伊田宏之(編集部)「計算がずれはじめた安倍晋三政権のNHK支配計画」(「週刊金曜日」2014年1月31日号)
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 【参考】
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~


【労働】働く女性が増加、ただし非正規雇用が中心 ~女性活躍を阻む壁~

2014年02月04日 | 社会
 (1)35~44歳女性の労働力率【注】が初めて70%を超えた。2013年1~11月平均で71.3%となったのだ。【総務省の労働力調査】
 この年齢層は、子育てに伴う離職が多い。
 が、2012年と比べて1.6ポイント、2003年と比べて4.8ポイント上昇し、数字が大きく改善している。
 15~64歳全体で見ても、女性の労働力率は前年から1.5ポイント上昇し、65%となった。伸び幅、水準共に過去最高を記録した。

 (2)働く女性増加の背景に、需要と供給の両面における環境の変化がある。
   (a)需要面・・・・景気回復による求人数の増加。特に、小売業の出店に伴う販売店員などの伸びが貢献している。
   (b)供給面・・・・自治体の待機児童問題への取り組み、NPOによる育児支援など、育児と仕事を両立しやすくする環境整備が促進された。最近、女性管理職増加へ向けた数値目標を掲げる企業が珍しくない。

 (3)(1)の数値改善、(2)の環境改善は、成長戦略の中核としての女性活用を掲げる安部政権への追い風となる・・・・かというと、そうでもない。
 なぜか。1~9月の非正規社員が前年同期と比べて3%増え、他方では、正規社員が1%減ったからだ。
 女性の労働参加自体は上昇傾向にあるのは事実だが、依然として非正規雇用(パートや派遣労働者)が中心なのだ。

 (4)硬直的な制度(専業主婦を前提として設計)が、女性の労働参加の障壁になっている。障壁が、女性の労働意欲を削ぎ、既婚女性が働いて活躍するのを阻害している。
   <例1>配偶者控除の対象者は年収103万円以下。
   <例2>夫の被扶養者として年金制度などで優遇されるのは年収130万円未満。

 (5)海外の主要国と比べると、日本の女性の労働参加や労働環境は、まだ改善の余地がある。
 官民が一体となって、(1)の数値改善、(2)の環境改善をさらに促進していけるかどうかが、中長期的な日本経済の行方を大きく左右する。

 【注】全人口のうち就業者および求職者の締める割合

□安田洋祐(政策研究大学院大学助教授)「働く女性は増加も非正規雇用が中心 女性活躍を阻む“壁”」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月8日号)
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【経済】「JR大阪三越伊勢丹」が失敗した三つの理由 ~激化する大阪の百貨店競争~

2014年02月03日 | 社会
 (1)三越伊勢丹HDとJR西日本が、共同運営するJR大阪三越伊勢丹の再建策を発表した。
 鳴り物入りで大阪に出店し、世間の注目を集めたが、開業からわずか3年で大幅な事業縮小を余儀なくされた。

 (2)いま3万3千平米ある売り場面積の6割を撤去する。衣料品や雑貨は残し、収益性の悪いリビング関連などの売り場は縮小する。空いた場所に専門店を誘致し、同じ施設内にある専門店ビル「ルクア」との一体的な運用を行う。60億円を投じて今夏から改装に乗り出し、2015年春に再開業する。
 百貨店の売り場面積の大幅縮小に伴って、三越伊勢丹の名を取り外す可能性が高い。

 (3)失敗した理由は3つ。
  (a)オーバーストアによる競争の激化・・・・開業は2011年5月。その前月に「大丸梅田店」が増床、2012年11月に「阪急うめだ本店」が増床、2013年4月に「グランフロント大阪」が開業と、大規模な商業施設の増床や新設が相次いだ。1日当たり乗降客数は、新宿駅が計350万人であるのに対して大阪・梅田駅は200万人。一方、百貨店合計の売り場面積は、新宿が20数万平米に対して大阪は30万平米超で、明らかに供給過剰だ。

 (b)有力テナントを集められなかったこと・・・・大阪駅周辺の百貨店としては4番目(最後発)の出店となった結果、集客力のある有名ブランドは阪急や大丸などが押さていた。

 (c)売り場づくりの失敗・・・・三越と伊勢丹の売り場が交じり合ったため、コンセプトが曖昧になり、店舗に魅力を欠いた。
 「JR大阪三越伊勢丹」は、旧・三越時代に決めた案件だ。旧・伊勢丹と経営統合した後、旧・伊勢丹は大阪出店に消極的だったが、事はすでに動き出していて引き返えせなかった。店舗名に「JR」「三越」「伊勢丹」を遺したことが象徴するように、それぞれの都合が優先され、非常に中途半端な店となってしまった。
 加えて、逆風(リーマンショック)もあった。

 (4)年間売上高は、初年度は310億円、昨年度は303億円、今年度は320億円(見込み)と、当初計画の550億円を大幅に下回った。赤字が続いた結果、運営会社は債務超過に陥った。
 今回の再建策によれば、2016年3月期に売上高800億円を達成し、黒字転換する(「JR大阪三越伊勢丹」と「ルクア」の合計)。
 百貨店と専門店を融合することで、専門店だけの集合体とは異なる新しいものができる。【杉江俊彦・三越伊勢丹HD常務執行役員】

 (5)計画の実現は容易ではない。
 昨年度の合計の売上高は660億円だ。目標額までは140億円の上積みが必要だ。
 百貨店は、豊富な品ぞろえが魅力の一つだ。大幅に売り場を縮小する中、集客力を高めるのは困難だ。
 頼みの綱の「ルクア」も、好調とはいえない。昨年7月以降、毎月の売上高は前年割れが続いている。12月が、辛うじて前年とトントンだ(厳しい状況)。
 大阪の百貨店競争は今後ますます、厳しさを増していく。今年3月、近鉄百貨店の「あべのハルカス近鉄本店」(大阪・阿倍野)が全面開業する。今秋、「大丸梅田店」が大型改装を行う(検討中)。今年4月、消費増税が始まり、消費環境が悪化する(必至)。
 再建策が実現できなければ、完全撤退もあり得る。

□松本裕樹(本誌)「“百貨店の雄”三越伊勢丹が大阪で失敗した三つの理由」(「週刊ダイヤモンド」2014年2月8日号)
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【中国】低迷する経済 ~習近平政権の1年~

2014年02月02日 | 社会
 (1)昨年、北京市は1,821億元=約3兆1,500億円(前年の2.8倍)の土地を売って、何とか財政を保った。だが、今年は売る土地は少ない。地方はさらに深刻だ。昨年末に地方債は10兆元=約173兆円にのぼると政府は発表したが、実際は20兆元を超えている。米国の量的緩和(QE3)の縮小に伴い、ホットマネーが中国市場から引き、中国経済が底抜けする懸念が高まっている。【北京の中国要人】

 (2)2010年に日中のGDPは逆転し、世界はG2時代に突入する、と言われた。だが、習近平政権の中国は「のたうち回る傷竜」だ。
 中国は、なぜそれほど凋落してしまったのか。
 1992年に小平の鶴の一声で始めた「社会主義市場経済」というシステムが、システム障害を起こしているからだ。本来は矛盾する2つの概念(社会主義と市場経済)を無理やり合体させ、中国を高度成長に導いた。だが、いまや市場があまりにも巨大化したため、社会主義との矛盾が抜き差しならなくなっているのだ。

 (3)2014年の年明け、世界最悪の大気汚染が首都を蝕み、経済活動を停滞させた。
 北京は数年ぶりの暖冬だというのに、道ゆく人影はまばらだった。通りを5分も歩くと、頭痛がしてくる。いくら高性能の日本製マスクを装着しても、PM2・5の粒子が頭皮に容赦なく舞い落ちるからだ。

 (4)大気汚染の他にも、北京市民を悩ませているものが多々ある。
 例えば、物価の高騰だ。過去1年間で(1元=約17.3円)、
  (a)生鮮食料品・・・・3割以上値上がり。
    ①1リットル入り牛乳:13元 → 22.5元(日本より高い)
    ②ミネラルウォーター:日本の2倍
    ③吉野家の牛丼、スタバのコーヒー:日本より高い
    ④焼き芋:5元 → 18元
  (b)タクシー(初乗り):10元 → 14元
  (c)地下鉄:大幅値上げの噂(1月末の旧正月以降)

 (5)インフレからの脱却は、中国政府としては、すでに解決済みということになっている。昨年の消費者物価指数(CPI)の上昇は2.6%で、極めて平穏だった、とアピールしている。
 公式発表と現実とが大きく異なるのが、習近平時代の中国の特徴だ。

 (6)居住費の高騰も、北京市民を悩ませている。
 不動産バブルは天井知らずで、1立米あたり7万元(50立米で6千万円)もする新築マンションは、庶民はとうの昔に諦めている。
 中古マンションの価格も、昨年、平均して22.1%も上昇した。賃貸しマンションの公式統計はないが、1年間に3割近く上がっているらしい。中国の賃貸し住宅は1年ごとに更新するのが基本なので、毎年「3割アップが嫌なら出て行け」と家主に脅かされるのだ。都市の住民に重圧がかかる。

 (7)市民の所得は、さほど上がっていない。
 北京市は、給与所得を11.5%以上上げるよう勧告しているが、多くの企業経営者は無視している。「嫌なら辞めろ。この国に人間はいくらでもいるのだから」というわけだ。
 こうした事情のため、中国政府は「輸出主導の経済から消費主導の経済への転換」を唱えているが、笛吹けど踊らず。

 (8)938もの世界の著名ブランドが軒を並べる北京最高級デパートの新光天地は、閑古鳥が鳴いている。週末になるとブランド店が入場制限して「北京バブルの象徴」と持て囃されたのは、今は昔。
 上海では、昨年、最大の名所である外灘(バンド)に面したアルマーニ、ブシュロン、ドルチェ&ガッパーナなどの旗艦店が続々撤退に追い込まれた。 
 ちなみに、上海証券取引所では、上海証券総合指数が年間で6.75%も下落して昨年の取引を終えた。GDPが7%以上伸びているのに、株価が7%近くも下落したのだ。
 北京では、高級レストランも軒並みガラガラだ。
 北京郊外の「九朝会」は「皇帝の離宮」を模し、6,000平米もの敷地を持つ。しかし、このバブリーなレストランも、閑散としている。

 (9)中国の消費が激減しているのは、庶民の生活苦から、だけではない。習近平主席の通達(2012年12月)「8条既定」(贅沢禁止令)の影響もきわめて大きい。
 「汚職幹部」のレッテルを貼られて逮捕された省長級幹部は、この1年間で20人以上にのぼる。小役人なら数万人以上。これは、汚職追放の名を借りて習近平が仕掛けている権力闘争だ。国有企業の利権を手放さない江沢民派を一掃しようとしているのだ。
 「トラもハエも一緒に叩く」のキャンペーンによって、「賄賂経済」がほぼ壊滅した。2009年に中国の国民経済研究所が発表したデータによれば、中国のGDPの3割は「賄賂経済」によるもので、富裕層の収入の62%が「賄賂収入」だった。水清ければ魚棲まずで、中国経済はすっかり萎縮してしまった。事実、中国経済の牽引役たる国有企業の利益も、2013年はついに前年を下回った。

□近藤大介(本誌編集部)「現地ルポ 中国要人が漏らした「日中は『再』逆転する--日本経済にはやっぱりかなわない」」(「週刊現代」2014年1月15日・2月1日号)
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