20代のころ、掃除は手のひらでしていた。
ハイハイしながら、床のごみやホコリを集める。
舞い上がりにくく、足腰の運動にもなる。
掃除機よりも時間はかかるかもしれないが、
総合的なメリットは大きい。
さて、そんなある日、珍しくモスバーガーに入店していた。
オレンジジュースを頼み、携帯しているマイ塩を取り出した。
ミネラルによる中和が目的だ。
ところが、塩がつまってよく出ないので
内蓋を外したところ、予想外に多く塩が入ってしまった。
その折に携帯電話が鳴る。
1,2度会ったことのある知人の女性で、ヒーリングを仕事にしているとか。
「はい、もしもし」
「今から功さんに、キリストからメッセージがあります。
左手を胸に当て、右手で携帯電話を耳に当て、
しっかりと聞いてください」
すると突然、ヘブライ語なのか何語か知らない言語が
電話の向こうからまくしたてられる。
(いや、何言ってんのか分からないから…)
謎のメッセージはつづき、たまに「ヒュッ」と
息を吹きかけるかのような音が入る。
なんだかあまりいい感じがしなかった。
そういえば、人を洗脳するときは、おでこに息をかけると
聞いたこともある。
彼女はキリストとチャネリングと言ってるけど、
そうじゃなくて何か変な霊にとり憑かれていまいか。
この電話を聞くのをやめよう、と思った。
じっくり聞くよう念を押されているが、ちょうどそのとき
「自己中にいきる」がテーマだったのと、たとえ不義理なことをしても、
手のひらで毎日ひたむきに掃除している自分に
妙な祟りなど起きるはずがない、という確信があった。
頭で言い聞かせるのではない、手足から湧き出す確信だ。
テーブルに携帯を置き、しょっぱいオレンジジュースを飲んだ。
偶然というか、この塩もまた霊から守ってくれたのかもしれない。
電話を聞いてないことがばれると面倒そうなので、
たまに耳に付けて「うん、」と言ってみた。
そのうちヘブライ語(?)は終わり、こんどは彼女が
キリスト(?)からのメッセージを訳すという。
「功くんはとっても大切な使命がある。それを開花させるためには
私のヒーリングセッションを受ける必要がある、と
キリストが言っている」
そのセッションは7万円かかるという。
僕は逆らわずに「検討します」といって電話を切った。
それ以来何の連絡もなく、安寧に過ごしていたが、
なんと
やはり
他にも彼女からの「キリスト(?)」電話を取った人たちがいたらしい。
そして、それを信じてセッションを受けた人もいて、
彼女は得たお金でブランド品を買っているという。
様子が変と感じ、彼女の友人が本人に問いただしたところ、
全ての電話やメールやSNSから縁を切ってきた。
これはただ事じゃないということで、霊媒士的な人に同席してもらい
他の友人が彼女をそれとなくお茶に誘った。
結果的に、彼女にはキリストではなく「結構なイタチ」が憑いているという。
最終的にどうなったのかまでは知らないが、彼女はお金欲しさの
心の隙をつかれて動物霊に操られていたのだ。
そして、確かにいっときのお金は得られたが、
大切な友人たちを失ったかもしれない。
人はやはり、いい汗をかいて生きていかなければならない。
色んなことをしながら、合うものを探してもよいし、
どんな場であっても静かに自分いろに染めることだって
できるかもしれない。
どうせかくなら、いい汗を。
その塩分が、さ迷える霊からも守ってくれるだろう。
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