漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「牛ギュウ」<うし>「吽ウン」「件ケン」「牢ロウ」「犇ホン」と「牟ボウ・ム」「眸ボウ」「鴾ボウ」「鉾ほこ」

2024年07月10日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ギュウ・グ・ゴ・うし  牛部 niú

解字 牛を正面から見た形の象形。甲骨文・金文は牛の角を強調している。牛は部首となる。
意味 (1)うし(牛)。「牛車ギッシャ」「牛肉ギュウニク」「牛耕ギュウコウ」(牛を使って耕す)「闘牛トウギュウ」(2)星の名。「牽牛星ケンギュウセイ」(ひこぼし)「牛斗ギュウト」(牽牛星と北斗星)
参考 牛は音符としては吽ウン・コウ・ゴウ、にわずか発音が伝わるだけで、ほとんどが会意でできているため、発音はバラバラである。

イメージ 
 「うし」
(牛・件・牢・吽・犇)
音の変化  ギュウ:牛  ウン:吽  ケン:件  ホン:犇  ロウ:牢

うし
 ケン・くだり・くだん  イ部 jiàn
解字 「イ(人)+牛(うし)」の会意。人が牛をひくさま。牛をひいて人は何をしようとしているのか、それぞれの事情がある。転じて、それぞれのことがら、およびことがらの数の意味になる(私見)。
意味 (1)ことがら。ことがらを数える語。「事件ジケン」「物件ブッケン」「条件ジョウケン」「五件の注文」 (2)[国]くだん(件)。例の。くだり(件)。記述の一部分。
 ロウ・ひとや  牛部 láo          

解字 甲骨文・篆文は囲った柵の中に牛を閉じこめている形。犠牲などに用いるため牛を柵で囲って閉じこめている形で、しっかりととじこめる意。転じて、人を閉じこめる牢屋の意。かたい・しっかりとした意も派生する。現代字は、「宀(やね)+牛(うし)」の会意で、同じ意味を表わす。成り立ちからみて牛は柵のなかにいるので、部首は宀(やね)でなく牛になる。
意味 (1)ひとや(牢)。「牢屋ロウヤ」「牢獄ロウゴク」「牢死ロウシ」 (2)かたい。しっかりとした。「堅牢ケンロウ」「牢固ロウコ
 ウン・コウ・ゴウ  口部 ōu・hōng・hǒu
解字 「口(くち)+牛(うし)」の会意形声。牛が口から声を出して鳴くこと。のち、仏教語の音訳に用いられ、口を閉じてだす声の意で、開口音の阿と対で用いられる。発音はウンが通用する。
意味 (1)ほえる。牛などが鳴く。 (2)口を閉じて出す声。「阿吽アウン」(①阿は開口音で吽は唇を閉じて出す音、万物の始めと終りを象徴する。②呼気と吸気)「阿吽の呼吸」(相互の調子や気持ちが一致すること)
 ホン・ひしめく  牛部 bēn
解字 「牛+牛+牛」の会意。牛3頭でたくさんの牛を表し、群れ牛が驚いて走る形を示す。日本では、たくさんの牛がひしめきあう意で用いる。
意味 (1)おどろく。 (2)はしる(犇る)。「犇走ホンソウ」 (3)[国]ひしめく(犇めく)。「犇犇ひしひし」 

部首としての牛 牛は「うし」の意味で部首になる。牛部に属する字は、常用漢字で6字、約14,600字を収録する『新漢語林』では91字が収録されている。主な字は以下のとおり。
常用漢字 6字
 牛ギュウ・うし(部首)  
 犠ギ・いけにえ(牛+音符「義」)
 牲セイ・いけにえ(牛+音符「生セイ」)
 特トク・おうし(牛+音符「寺」)
 物ブツ・もの(牛+音符「勿ブツ」)
 牧ボク・まき(牛+音符「攵ボク」) 
常用漢字以外
 牽ケン・ひく(牛+冖+音符「玄ゲン」)
 犀サイ(「牛+尾」の会意)
 牝ヒン・めす(「牛+音符「ヒ」)
 牡ボ・おす(「牛+土」の会意)
 犇ホン・ひしめく(「牛+牛+牛」の会意)
 犂リ・すき(牛+禾+刀の変形)
 牢ロウ(「牛+宀」の会意)ほか

  ボウ・ム <ムの発音>
 ボウ・ム  牛部 mù・móu

解字 戦国期(秦)は牛の上に一を加え呼気が出ている形。篆文は牛の上がムの原字に変った。[説文解字]は「牛鳴也」とし牛の鳴き声とする。隷書は上部がになり、現代字で⇒ムに変化した牟になった。発音は漢音がボウ、呉音がム。意味はボウ・ムの発音を利用した音訳や同音代替である。日本でも牟の上部を取り出し、発音だけを表すカタカナの「ム」を作った。
意味 (1)梵語の音訳字に用いる。「牟尼ムニ」(梵語muni・寂黙・聖者の意で、修行する者)「釈迦牟尼シャカムニ」(釈尊。仏教の開祖)(2)牛が鳴く声。「牟然ボウゼン」( 牛の鳴く声)(3)暴の代替。「牟利ボウリ」(不当な利益。=暴利)「牟食ボウショク」(=暴食)(4)ひとみ。「牟子ボウシ」(=眸子)(5)多い。大きい。

イメージ 
 「ボウ・ムの音」
(牟・眸・鉾・桙・鴾)
音の変化  ボウ・ム:牟・眸・鉾・桙・鴾  

ボウ・ムの音 
 ボウ・ム・ひとみ  目部 móu
解字 「目(め)+牟(ボウ)」の形声。[説文解字]は「目の童子也(なり)。目に従い牟ボウの聲(声)」とし目の瞳(ひとみ・黒い目玉)をいう。
意味 ひとみ(眸)。眼球の黒い部分。「眸子ボウシ」(ひとみ)「明眸メイボウ」(美しく澄んだひとみ)「明眸皓歯メイボウコウシ」(澄んだひとみと白い歯。美人の形容)「眸睛ボウセイ」(ひとみ。眸も睛も、ひとみの意)
 ボウ・ム  金部 máo
解字 「金(金属)+牟(ム)」の形声。ムは矛ム・ボウ(ほこ)に通じ、金属のほこの意。
意味 (1)ほこ(鉾)。両刃の剣に長い柄をつけた武器。矛とも書く。ほこさき。 (2)[国]「山鉾やまぼこ」(祭りの山車だしの一種で山の形の造物(つくりもの)の上に鉾や薙刀を立てたもの)「玉鉾たまほこ」(玉の飾りのある鉾。鉾の美称=玉矛)

祇園祭の山鉾(「八坂神社のHPから」)
 ボウ・ム・ほこ  木部 yú・móu
解字 「木(き)+牟(ム)」の形声。日本では、鉾(ほこ)に通じ、同じ意味で用いる。
意味 ほこ(桙)。鉾に同じ。
 ボウ・とき  鳥部 mó
解字 「鳥(とり)+牟(ボウ)」の形声。ボウという名の鳥。鶉(うずら)に似た小さな鳥をいう。なお、日本では、トキ(朱鷺)の意味で用いる。
意味 (1)「鴾母ボウボ」に用いられる字。鶉(うずら)に似た小さな鳥をいう。 (2)[国]とき(鴾)。トキ科の鳥。鴇とも書く。「鴾毛つきげ」(=月毛)とは、馬の毛色の一種。葦毛(あしげ)の赤みがかったもの。その色の馬。鴾(つき。トキの古名)の羽の裏の色のような赤みを帯びた白い毛色。また、その馬。
<紫色は常用漢字>

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音符「夌リョウ」と「陵リョウ」「凌リョウ」「稜リョウ」「菱リョウ」「綾レン」「崚レン」「薐レン」

2024年07月08日 | 漢字の音符
 リョウ  夂部 líng   


  上は夌、下は陵リョウ
解字 上の夌は篆文以降にできた音符字。源流は陵リョウで、この字の意味およびイメージを継承する。陵については下記の陵を参照してください。音符イメージは「苦労して登る」「かどだつ」「形声字」です。
意味 (1)おか。広大な丘。(=陵) (2)しのぐ。越える。(=陵・凌)

イメージ 
 「苦労して登る」
(陵・凌)
 丘がけわしく稜線が「かどだつ」(稜・菱・崚・綾)
 「形声字」(薐)

音の変化  リョウ:陵・凌・稜・菱・綾・崚  レン:薐

苦労して登る
 リョウ・みささぎ  阝部 líng

解字 甲骨文・金文とも、はしごを登る人をかたどっている。甲骨文[甲骨文編所収]は片足を地につけ片足を梯子(はしご)にかけている。金文は足をもつれさせながら苦労してはしごを登る姿を斜め二線をつけて描く。陵の甲骨・金文は、いずれも苦労して梯子を登るかたち。篆文にいたり[説文解字]は「大きな阜(おか)なり」とし阝となる字を丘陵の意とし、のち、みささぎ(陵墓)の意ともなった。
 しかし、甲骨文や金文は梯子を必死にのぼる形であり、上がる・のぼる意であることから、「力をこめて高いところに登る」(陵雲の志)「高く登り相手をしのぐ」(陵ぐ=凌ぐ)などの意味も本来持っている。この意味は、のちに凌の字が主に担うことになる。また、「おかす・あなどる」意は、陵が陵墓の意味をもつようになってから、神聖な陵墓に登ることは陵を犯すことであり、はずかしめることであるという意識がでたのではなかろうか。
意味 (1)おか。大きな丘。「丘陵キュウリョウ」(2)みささぎ(陵)。丘の形をした皇帝や君主の墓。「陵墓リョウボ」「御陵ゴリョウ」(3)しのぐ。のぼる。こえる。「陵雲リョウウン」(=凌雲。雲をしのぐ。天にのぼる)(4)おかす(犯)。あなどる。「陵辱リョウジョク」(=凌辱。あなどりはずかしめる)
 リョウ・しのぐ  冫部 líng
解字 「冫(こおり)+夌(=陵。大きな丘)」 の会意形声。大きな丘にある氷室(ひむろ)の意。のち、陵と通用し「しのぐ」「おかす」意味を中心に使われるようになった。
意味 (1)こおり。氷室。「凌室リョウシツ」(2)しのぐ(凌ぐ)。こえる。「凌雲リョウウン」(雲をしのぐ。天にのぼる)「凌駕リョウガ」(他のものをしのいで上に出る)(3)おかす。あなどる。「凌辱リョウジョク」(はずかしめを受ける)

角だつ
稜[棱] リョウ・かど  禾部 léng・líng             

解字 篆文は「木(木材)+夌(角立つ)」 の会意形声。木材の角立った所。かど。楷書は木⇒禾に変化した。稜は棱の異体字であり、棱の原義を継承する。
意味 (1)かど(稜)。すみ。多面体の面と面の交わるところ。「稜角リョウカク」「稜線リョウセン」(山の峰から峰へ続く線)「山稜サンリョウ」(山の尾根)(2)おごそかな威光。「稜威リョウイ」(天子の威光)
 リョウ・ひし  艸部 líng
  ②
①菱の実(「ジャムこばやし」のHPから)、②三菱のマーク
解字 「艸(草)+夌(角立つ)」 の会意形声。実の両端が角立つヒシの実。葉も菱形にちかい。
意味 ひし(菱)。ヒシ科の一年生の水草。池沼・河川に自生する。「菱形ひしがた」「菱花リョウカ」(ヒシの花)「菱餅ひしもち」(ひし形のもち。雛祭りに供える)「三菱みつびし」(菱形を三つ組み合わせたマーク。三菱財閥の流れを汲む企業グループのマーク)
 リョウ・たかい・けわしい  山部 líng・léng
解字 「山(やま)+夌(角立つ)」 の会意形声。峰が角立つ高い山。
意味 たかい(崚い)。けわしい(崚しい)。たかくけわしい山。「崚層リョウソウ」(たかく幾重にも重なるさま)「崚崚リョウリョウ」(けわしくそびえるさま)
 リョウ・リン・あや  糸部 líng
   
解字 「糸(いと)+夌(角立つ部分から下の傾斜)」の会意形声。織り目が傾斜して連続する斜文織をいう。また、綾取りでは角形の模様ができる。
意味  あや(綾)。(1)織り目が斜めに連続する絹織物。「綾織あやおり」「綾子リンズ」(紋織物の一種。=綸子)(2)模様を美しく織り出した絹織物。「綾錦あやにしき」(綾と錦。美しい着物などの形容)「綾羅リョウラ」(あやぎぬと、うすぎぬ。美しい贅沢な着物)(3)紐でつくる角形の模様。「綾取(あやと)り」(輪にした紐を左右の指にかけていろんな角形をつくる遊び)(4)文や言葉の飾り。入り組んだ仕組み。「言葉の綾あや」「事件の綾あや

形声字
 レン・リン  艸部 léng
解字 「艸(くさ)+稜(リン・レン)」 の形声。「菠薐草ホウレンソウ」に使われる字。由来ははっきりしないが、草冠を取った「波稜ハリン・ホウレン(唐音)」は、現在のネパール(経由地)または原産地のペルシャの地名で、ここから伝わった葉物の野菜を表すため、草冠をつけた「菠薐ホウレン」が成立したとされる。
意味 「菠薐草ホウレンソウ」とは、アカザ科の一・二年生葉菜。イラン原産とされる。16世紀頃日本に渡来した。広辞苑によると、菠薐ホウレンは唐音(鎌倉時代以降に中国からはいった字音)。
<紫色は常用漢字>

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音符「土ド・ト」と「徒ト」「吐ト」「肚ト」「杜ト」「社シャ」「圧アツ」「牡ボ」

2024年07月06日 | 漢字の音符
  土に万物を生みだす力があると認め、土をまるめて祀(まつ)る
 ド・ト・つち  土部 tǔ 
        
解字 甲骨文は土をまるめて盛った形の象形。単独では①土地(支配下の領域)②大地の神格、の意味で用いられている[甲骨文字辞典]。金文第一字は甲骨文字を引き継いだ形。第二字はタテ線に肥点のあるかたち。意味は、①祭土(=社やしろ)②地位、③田地。④国土、の意。篆文に至り、現代字とおなじ土になった。後漢の[説文解字]は「地(ち)之(の)万物を吐(は)き生(う)む者(もの)也(なり)」とする。古代人は土に万物を生みだす充実した力があると認めて土を祀った。また、神をまつる社(やしろ)の原字でもある。
意味 (1)つち(土)。「土砂ドシャ」「土地トチ」 (2)領有する土地「領土リョウド」 (3)地方。「土産みやげ」 (4)五行(木・火・土・金・水)のひとつ。五行説とは、万物は火・水・木・金・土の5種類の元素からなるという古代中国に端を発する自然哲学の思想。

イメージ
 「つち」
(土・徒・跿・圧)
 「土地の神」(社)
 「形声字」(杜・吐・肚)
 「同体異字」(牡)

音の変化  ド・ト:土・徒・跿・吐・肚・杜  シャ:社  アツ:圧  ボ:牡

つち
 ト・かち・いたずらに  彳部 tú 
  
解字 金文は「彳(ゆく)+土(つち)+止の変形:あし)」 の会意形声。「彳(ゆく)+止(=龰。あし)」は、足で歩いて行くこと。土は意味と発音トを表している。つまり徒は、土の上を足で歩いてゆくこと。金文は歩兵(徒歩で戦う兵)の意味で用いている[簡明金文詞典]。のち、車に乗るのでなく歩いて行くので、一般庶民・なかま・弟子などの意となる。また、土の上をはだしでぶらぶらする人に当て、役に立たない・いたずらに等の意味になる。※徒の右辺の走は、「走ソウ(はしる)」とは成り立ちが別の字。
意味 (1)かち(徒)。歩いて行く。「徒歩トホ」「徒渉トショウ」(歩いて川を渡る) (2)なかま。ともがら。「徒党トトウ」「学徒ガクト」「生徒セイト」(日本で中学生・高校生)(3)弟子。門人。「徒弟トテイ」「使徒シト」(4)(馬も車もないことから)何ももたない。「徒手トシュ」(手に何ももたない。素手)「徒手空拳トシュクウケン」(徒手をつよめる言葉。空拳はこぶしが空)(5)(はだしでぶらぶらする人から)役にたたない。いたずらに(徒に)。あだ(徒)。むだ(徒)。「徒食トショク」(むだに食べている。仕事をせずぶらぶらとして日々をくらす。)「徒労トロウ」(むだな苦労)「徒言あだごと」(実じつのない言葉。むだな言葉)(6)ただ(徒)。~だけ。「徒者ただもの」(普通の人)「徒者でない」(並みの人でない)
跿 ト・すあし  足部 tú
解字 「足(あし)+徒の略体ト(あるいてゆく)」 の会意形声。徒は土の上を歩いて行く意で、これに足をつけた跿は、はだし・すあしの意味を表す。
意味 すあし(跿)。はだし。はだしで土をふむさま。「跿跔トク」(すあし)。跔は寒さで足が縮こまる意。「跿跔科頭トクカトウ」(すあしで、すあたま。勇気ある兵士のたとえ。科頭とは冠や頭巾をかぶらない頭。科は蝌(おたまじゃくし)に通じ、丸いすあたまの意)
[壓] アツ・おす  土部 yā  
解字 「厂(がけ)+土(つち)」の会意。崖によって下の土が押さえつけられること。旧字は壓アツで、新字体は旧字の厂(がけ)と土(つち)を取りだした形。
意味 (1)おす(圧す)。おさえる。おさえつける。「圧迫アッパク」「圧力アツリョク」「鎮圧チンアツ」 (2)おさえつける力。「気圧キアツ」「血圧ケツアツ
※圧アツ音符「厭エン」にも重出した。

土地の神
 シャ・やしろ  ネ部 shè
解字 「ネ(示:祭壇)+土(土地の神)」の会意形声。土の神を祀(まつ)ること。
意味 (1)土地の神。くにのかみ。「社祠シャシ」(土地神とそれをまつる殿舎)(2)やしろ(社)。「やしろ」は屋代(やしろ)」であり、神の代わりとなる家屋、すなわち神社の意味である。「神社ジンジャ」「社殿シャデン」(3)神社を中心に組織される昔の社会制度。「社会シャカイ」(集落の住民の会合。のち、人の世の中の意) (4)ある目的・事業のための集まり。「結社ケッシャ」「会社カイシャ

形声字
 ト・はく  口部 tǔ・tù
解字 「口(くち)+土(トの音)」 の形声。口から物を吐く音をトで表した。後漢の[説文解字]は「寫シャ(はきだす)也(なり)。口に従い土の聲(声)」とする。
意味 はく(吐く)。「吐血トケツ」「吐瀉トシャ」(吐きくだし)「嘔吐オウト」(食べたものを吐く)
 ト・はら  月部にく dù・dǔ
解字 「月(からだ)+土(=吐の略体)」 の会意形声。吐くものがたまっている体の胃を意味した。のち、腹の意となり、これが主流となった。文語の腹フクに対し、白話(口語)から生まれた字。
意味 (1)はら(肚)。「肚裏トリ」(腹のうち。心のなか)「肚子トシ」(はら。おなか)「肚帯トタイ」(はらおび)「肚痛トツウ」(はらのいたみ)(2)い。いぶくろ。
 ト・ズ・やまなし・ふさぐ・もり  木部 dù
解字 「木(き)+土(ト)」 の形声。トという名の木で、中国では山野に自生する落葉果樹を指し、特に杜梨トリ(やまなし)をいう。また、堵(さえぎる)に通じ、ふさぐ意をあらわす。
杜梨トリ(中国のネット広告から)
意味 (1)やまなし(杜)。小さな実をつける野生の梨の木。杜梨トリ。=棠梨トウリ。(2)とじる。ふさぐ(杜ぐ)。「杜絶トゼツ」(ふさがり絶える=途絶)(3)姓。「杜甫トホ」(唐代の詩人)「杜氏トウジ・トジ」(酒を造る職人。酒を発明したとされる中国の杜康トコウの姓から)「杜撰ズサン」(いいかげんなこと。杜が撰(つく)る。中国の詩人・杜黙トモクの詩が作詩のきまりからはずれたものが多いことから)(4)[国]もり(杜)。神社のもり。「杜(もり)の都」(宮城県仙台市の愛称)

同体異字
 ボ・ボウ・おす・お  牛部 mǔ
    
解字 甲骨文の第一字は「牛+⊥(オスの性器)」で、牡牛(おうし)の意。第二字は羊、第三字は鹿にそれぞれ⊥(オスの性器)が付き、いずれも獣のオスを表す。金文から⊥→土に変化し牛のオスだけが残った。
意味 (1)おす(牡)。鳥獣のおす。対義語は「牝ヒン」。「牡牛おうし」「牝牡ヒンボ」(めすとおす)(2)ボの音。「牡丹ボタン」「牡蠣ボレイ・かき
紫色は常用漢字>

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音符「冬トウ」<ふゆ>と「疼トウ」「終シュウ」「柊シュウ」「螽シュウ」「鮗このしろ」

2024年07月04日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 トウ・ふゆ  冫部 dōng

解字 甲骨文は、糸の両端を結びとめた形の象形。糸の末端を結んで終結の意とするもので終の原字。もと、冬は終わる意味で使われていた。金文は間に日を加えて、太陽が終わりに近づく意(冬至)。篆文は日がはずれたが、下に冫(氷)を加えて氷のはる寒い冬を示す。旧字は、「夂(下向きの足:おりる)+冫(氷)」の会意に変化した。氷が降りてくる冬の意。よくみると、現代字は下が冫でない冬である。これでは冬に氷がこない。意味のない変化をしたものである。
意味 ふゆ(冬)。立冬から立春(2月4日頃)まで。「立冬リットウ」(二十四節季の一。太陽暦の11月8日頃)「冬眠トウミン」「越冬エットウ」「冬至トウジ」(二十四節季の一。昼が最も短い日。12月22日頃。)

イメージ
 「ふゆ」
(冬・鮗)
  もとの意味である「おわる」(終)
 「形声字」(疼・柊・螽)
音の変化 トウ:冬・疼  シュウ:終・柊・螽  このしろ:鮗

ふゆ
<国字> このしろ  魚部 dōng

このしろ(「玉島魚市場 お魚情報」より)
解字 「魚(さかな)+冬(ふゆ)」の会意。冬が旬の時期である魚のこのしろ。
意味 このしろ(鮗)。鰶とも書かれる。ニシン科の海水魚。成魚は全長25センチほど。東アジアの内湾や河口の汽水域に群れで生息する。日本では冬を中心に11月~3月が旬の時期の魚。

おわる
 シュウ・おわる・おえる  糸部 zhōng
解字 「糸(いと)+冬(おわる)」 の会意形声。もと、冬の古音はシュウ。冬は甲骨文字で分かるように糸の両端を結びつけた形で終わる意味であった。それが、太陽が終わる「ふゆ」の意味になったので、そこに糸をつけて元の意味である終わる意を表わす。
意味 (1)おわる(終わる)。おえる(終える)。はてる。しまう。「終結シュウケツ」「終業シュウギョウ」「終幕シュウマク」 (2)おわりまでずっと。「終日シュウジツ」「終生シュウセイ

形声字
 トウ・うずく  疒部 téng
解字 「疒(やまい)+冬(トウ)」の形声。トウは痛トウ・ツウに通じ、痛むことをいう。
意味 うずく(疼く)。いたむ。ずきずきいたむ。「疼痛トウツウ」(うずき痛む)「疼腫トウシュ」(うずきはれる)
 シュウ・ひいらぎ  木部 zhōng

ヒイラギ(ガーデンストーリー「ヒイラギ」より)
解字 葉にトゲのあるヒイラギは日本で、「疼木ひいらぎ」(痛い木の意)と書かれ、触れると痛いヒイラギの木を表した。また「疼木」から疒(やまいだれ)をはずして一字にした「柊」とも書かれ、この字が定着した。しかし、この字は国字かと思いきや中国にもあり、芭蕉に似た木を指すという。「ひいらぎ」の名は、ひりひり痛む意の、ひひらぐ(疼ぐ)木から。
意味 (1)[日]ひいらぎ(柊)。疼木とも書く。モクセイ科の常緑小高木。葉は光沢があり鋭い刺となった鋭鋸歯がある。節分の夜、この葉と鰯の頭を門戸に挿すと悪鬼を払うと言われる。(2)木の名。芭蕉に似た木。
 シュウ・いなご  虫部 zhōng

いなご(「いきものずかん」より)
解字 「虫虫(むし)+冬(シュウ)」の形声。シュウは衆シュウ(数が多い)に通じ、数が多く発生する虫のいなごをいう。[説文解字]は「螽、或いは虫に従い眾(衆)聲(声)。公羊經(春秋時代の儒家の経書)は此(かく)の如く作る」として「虫+衆」の字があることを示している。
意味 (1)いなご(螽)。蝗コウとも書く。いなむし。(2)「阜螽フシュウ」「土螽ドシュウ」は、いなごやバッタの類。(2)きりぎりす。「草螽ソウシュウ」(きりぎりす)「螽斯シュウシ」(きりぎりす。一度に99匹の子を生むとされ子孫繁栄のしるし)「螽斯詵詵シュウシシンシン」(夫婦和合して子孫の多いたとえ。詵詵は和らいで多く集まるさま)
<紫色は常用漢字>

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音符「屈クツ」<獣が身をかがめる>「倔クツ」「掘クツ」「堀クツ」「窟クツ」「崛クツ」

2024年07月02日 | 漢字の音符
 クツ・かがむ  尸部 qū           


腰を下ろしたユキヒョウ(手前)は尾が後ろに出る(旭川市旭山動物園のHPより)

歩くトラは尾が下がる(旭川市旭山動物園のHPより)
解字 金文は「動物の尾+出る(止の古形(あし)が、横向きに描かれている穴から出る形)。篆文も「尾+出(でる)」の会意で同じ形。初期の隷書レイショは、尾は同じ形だが、出は現代字の形になった。現代の字形は尾の略体の尸に出を加えた「尸+出」の屈クツになった。屈は獣などが腰を落として尾が後ろへ出ている形。腰を下ろさない獣の尾は下に垂れる。したがって屈は身をかがめる意となり人に移して用いる。人が身をかがめると相手に屈服する(負けを認めしたがう)意となる。
意味 (1)かがむ(屈む)。まげる。「屈折クッセツ」「屈曲クッキョク」「偏屈ヘンクツ」(性格がかたよりねじける)(2)くじける。したがう。「屈服クップク」「屈辱クツジョク」(3)ゆきづまる。きわまる。「窮屈キュウクツ」「理屈リクツ」(①理がゆきづまる意で、理由をこじつける。②また、道理・ことわりの意味にも使う)(4)つよい(=倔)。「屈強クッキョウ

イメージ  
 「身をかがめる」
(屈・倔・窟・崛)
 「形声字」(掘・堀)
音の変化  クツ:屈・倔・窟・崛・掘・堀

身をかがめる
 クツ・つよい  イ部 juè・jué
解字 「イ(人)+屈(身をかがめる)」の会意形声。獣が身をかがめるさまを人にたとえて言い、強い意となる。
意味 つよい(倔い)。意地がつよい。「倔強クッキョウ」(①きわめて力の強い、②強情で意地をはる)「倔起クッキ」(にわかにおこりたつ=崛起)
 クツ・いわや  穴部 kū
解字 「穴(よこあな)+屈(身をかがめる)」の会意形声。身をかがめて入る横穴。人や動物が入り込む横穴。
意味 (1)いわや(窟)。ほらあな。「石窟セックツ」「岩窟ガンクツ」「洞窟ドウクツ」(2)人の集まる所。すみか。「巣窟ソウクツ
 クツ・そばだつ  山部 jué
解字 「山(やま)+屈(=窟。いわや)」の会意形声。窟(いわや)のある山。窟は切りたった崖のある山にあることから、山の高くそびえるさまをいう。また、窟(いわや)の意ともなる。
意味 (1)そばだつ(崛つ)。たかい。山が高くそびえ立つ。「崛起クッキ」(①山などが高くそびえ立つ。②にわかに起こり立つ)「崛然クツゼン」(そびえ立つさま)(2)山のいわや(窟)。山のほら穴。「崛穴クツケツ

形声字
 クツ・ほる  扌部 jué
解字 「扌(手)+屈(クツ)」の形声。手で道具をもち土をほることを掘クツという。
意味 ほる(掘る)。ほりだす。「発掘ハックツ」「採掘サイクツ」「掘削クッサク
 クツ・ほり  土部 kū
解字 「土+屈(=掘。ほる)」 の会意形声。土を掘ってくぼみを作ること。できたくぼみをいう。日本では土を細長く掘って水を通した「ほり」をいう。
意味 (1)あな。くぼみ。「堀室クッシツ」(地下の部屋)(2)[国]ほり(堀)。「お城の堀ほり」「内堀うちぼり」「外堀そとぼり」(3)ほる。(=掘)
<紫色は常用漢字>

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