クーリエジャパン 9/8(火) 18:00配信
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日本でもリゾート地として人気のグアム。だがそこには豊かな自然があるだけでなく、アンダーセン空軍基地をはじめとする米軍の関連施設が土地の多くを占めている。近年、国際関係におけるグアムの重要性が増し、米軍による島の開発が進む一方で、その環境と人々の暮らしに脅威が迫っている──。
「それがいつだったか、正確に指摘するのは難しいです……大きな策略が進行していることに、いつ気がつき始めたのかを」。ジュリアン・アグオンはそう言い、少し思案してからこう説明した。
「私にとってそれが明確になったのは、アメリカと日本が、何千人もの海兵隊員を沖縄からグアムに移転することで合意した2005年でした。これはただ発表されただけでした。このようなことはそうやって進められます。ただ上から投げつけられるだけなんです。私はすぐに法学部への進学を決めました。法律が、私の民族に対する武器として使われていたからです」
今では弁護士であり、法学の非常勤講師となったアグオンは、太平洋地域を重点的に扱う唯一の人権専門法律事務所「ブルー・オーシャン・ロー」の設立者でもある。太平洋西部に位置するマリアナ諸島の先住民族チャモロ人の一人として、彼は島の古い慣習を引継ぎ、自然界への崇敬を抱いている。
自然と文化の重要地に「射撃訓練場」を建設
10年にわたってアグオンの敵であり続けているのは、アメリカ国防総省の権力だ。国防総省は80億ドルをかけて、5000人の海兵隊員を2025年までに沖縄からグアムに移転するという計画を立てていた。アグオンはこれに抗議した。彼は国家環境政策法にもとづき、2010年に訴訟を起こしたグループの一員だ。
アメリカ海軍に対し、この計画が環境に及ぼす影響について追加のアセスメントを実施させることで、ブルー・オーシャン・ローは計画を数年間遅らせることに成功した。
しかし、グアムに拠点をおく建設会社が、自然保護区といくつかの歴史的・文化的に重要な墓地に、実弾射撃訓練場の複合施設を建設するという7800万ドルの契約を得た。この建設は今年初めに開始された。
この太平洋版ダビデとゴリアテの戦いでは、ゴリアテが優位に立っているようにみえるのだ。
アメリカ国民なのに投票権がないグアムの人々
「この状況に関してとても残念なのは、私たちは、物事が決定されるワシントンD.C.から遠く離れているということです」とアグオンは静かに言った。
人口16万人(そのうち先住民のチャモロ人は37%だけ)、212平方マイルの島グアムは、アメリカ合衆国の最西端の地だ。
「アメリカの1日が始まるところ」というのがグアムの非公式の標語だが、これは寒々しい誤った表現だとアグオンは言う。グアムは自治権のない領土だ。グアムの住民はアメリカ国民であるが、国政選挙での投票権がなく、議員を政府に送ることができない。
グアムと米軍の複雑な関係
グアムは500年間スペインの植民地だったが、1898年にアメリカが奪取した。その後、第二次世界大戦中の日本による過酷な占領を経て、アメリカが奪還した。
アメリカ国防総省は現在、戦後に占有したチャモロ人の先祖伝来の土地を含む、島の30%を所有している。しかし、グアムと軍との関係は複雑で相互依存的なものだ。軍による支出は島の経済における一番の産業であり、軍への入隊者の人口比率が他のどの州よりも高いのがグアムなのだ。
「グアムには、米軍の存在がもたらす影響や結果に対処してきた長い歴史があります」とアグオンは言う。
こうした米軍の存在のために、近年グアムは、アメリカと中国、北朝鮮とのエスカレートする地政学的緊張の渦中にある。2017年、ドナルド・トランプが北朝鮮を「炎と怒りを浴びることになる」と脅したとき、北朝鮮はグアムに対するミサイル攻撃を検討するとした。
「自分たちがミサイル攻撃の的になっていると知るとぞっとします。これは戦争ゲームなんです」とアグオンは言う。
「私たちは、自分がこのゲームのプレーヤーではなく観客であることを知っています。でも危険にさらされているのは、私たちの命であり、私たちの子供の命なのです」
米軍にとって「都合のいい」場所
太平洋における中国の影響力が急激に強まるなか、グアムは世界最大の海洋におけるアメリカの不動産として、今まで以上に重要な部分とみなされるようになった。
グアムが米軍の負担から解放されることは当分ない。沖縄における米軍基地は、もう長い間日本で評判が悪い。とりわけ、米軍関係者によるレイプ、暴行、ひき逃げといった一連の犯罪が、人々の憤りを招いている。
一方、グアムは米軍が「自分たちの望むことが何でもできるうえに、追い出される恐れなしに大規模な投資ができる」場所であると、アンダーセン空軍基地についての報告のなかでデニス・ラーセン少将は述べている。
米軍は、グアムへの移転は、島に住む人々との協議と協力のもとでおこなわれていると主張している。
「グアムのリーダーたちが情報にもとづいた決断ができるよう、彼らと透明かつ事実にもとづいた議論がしたいと、自分としては思っています」とジョン・メノーニ海軍準将は2019年に述べた。
絶滅危惧種の住まう森が「射撃訓練場」に
8月6日、ブルー・オーシャン・ローは国際組織の「代表なき国家民族機構」とともに、国連の先住民族の権利に関する特別報告者にグアム初の申し立てを提出した。この申し立てにおいて、彼らはグアムの先住民族チャモロ人の人権が、アメリカの植民地化と軍事化の下で侵害されていると主張した。
「グアムはアメリカ政府と軍部によって長年にわたって述べられてきたような、『沈むことのない航空母艦』でも、『やりの先端』でもない。…グアムは…豊かで意義のある伝統をもち、サステナビリティ、地域の環境に対する配慮と感謝、そして相互関係についての強い自覚をもって暮らす人々の、先祖伝来の故郷である──そしてこれらの伝統は、現在脅威にさらされている」
この訴えは、射撃訓練場の建設を続けるアメリカの対グアム政策が環境に与える重大な影響について、きわめて詳細に述べている。
米軍はリティディアンとして知られる、島の文化的・環境的にもっとも重要な場所のひとつを支配している。リティディアンは先住民のチャモロ人がそこから移動させられた1963年以来、アメリカの支配下にある。この地域は少なくとも4つの先祖伝来の村とその埋葬場所、そしてチャモロ人の共同体に欠かせない治療師たちが薬草を探す場所が含まれている。
リティディアンの新しい射撃訓練場は古い石灰岩の原生林の真ん中に位置する。この森は、絶滅危惧種のエイトスポット・バタフライやグアム・レイルなど、いくつかの特有種の生息地だ。また、グアムでしか見られない種を含む、珍しい原産植物の自生地でもある。
軍は少なくとも1000エーカーの森を伐採する予定だが、これは現存する森の8%にあたる。
「サンゴが化石化し、これらの木々がその上に育つには、何百万年もの時間がかかりました」と話すのは、グアム出身の自然保護運動家でアイオワ州立大学の博士論文提出志願者であるアン・マリー・ガウルだ。
「建設工事や侵略種、人間による開発のせいで、私たちがこの森を失いつつあるという事実は、とても悲しいものです」
口先だけの軽減政策
リティディアン岬の周辺の海はウミガメと鯨の生息地だが、彼らは射撃訓練と水中音波探知機の活動による、音の影響を受けるかもしれない。地元の猟師たちは、彼らが昔から利用してきた水域から締め出されることになる。
「他のあらゆる開発プロジェクトと同様に、(このプロジェクトは)周囲の環境に影響を与えます」とマリアナ統合司令部は声明で述べた。
「しかしながら、国防総省がとった軽減措置により、グアム海兵隊基地の兵舎を造成する必要とのバランスをとりつつ、環境への影響は削減され、可能な限り相殺されるでしょう」
国防総省の軽減政策は、実際のところ漠然としか守られない。国防総省が射撃訓練場の建設地をパガットからリティディアンの他の場所に移したとき、訓練場は以前の軽減計画の一部として立てられたフェンスを侵食することになった。
「(グアムにおける)国防総省の過去の言動は、不信の種をたくさん撒いてきました」とガウルは話す。「約束を守らないことから、現地の住民の意見をきかずに自分の好きなようにやるといったことに至るまで──こうした行動から生まれる人々の不信感は、他の多くの連邦機関にまで広がっているのです」
https://news.yahoo.co.jp/articles/650b61ddf80b76e15576edd48c0862f065be18ca