毎日新聞 2024/8/26 東京夕刊 有料記事 1866文字
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ブラジルの集団MAHKUが先住民の神話で彩った中央パビリオン
世界で最も長い歴史を持つ国際美術展、ベネチア・ビエンナーレの第60回展がイタリアで開催されている(11月24日まで)。国際企画展には、初のラテンアメリカ人、アドリアーノ・ペドロサをキュレーターに迎え、西洋中心主義からの脱却をいっそう高らかにうたい上げていた。
ペドロサは、先住民や移民が多く住むブラジル生まれで、サンパウロ美術館の芸術監督を務める。国際企画展のタイトル「Foreigners Everywhere」は、「どこにでもいる外国人」「どこにいても(あなたは)外国人」の二つの意味を含み、社会や美術において周縁に置かれた人たちへの共感を示そうとした。
全体として目立ったのは先住民の歴史・文化を扱った展示だった。国際企画展ではニュージーランドの先住民族マオリのマタアホ・コレクティブが、国別展示でも先住民の作家、アーチー・ムーアが参加したオーストラリア館が、それぞれ金獅子賞を受賞。中央パビリオンはより象徴的で、アマゾンの先住民族ヤノマミの作家らが、南米の植民地構造をアーカイブで見せる展示と共に紹介されていた。
オーストラリア館では、先住民族の長い歴史が静謐(せいひつ)な空間で可視化されていた。ムーアは、周囲の壁面に何世代にもわたる自らの家系図をチョークで記し、中央には警察に拘束された先住民の死亡事案報告書を整然と積み上げた。口承の伝統を持ち、「正史」から隠されがちな個々の名前を一人ずつ描き出したことは重い意味がある。
特筆すべきは、展示を主催する組織「クリエーティブ・オーストラリア」が、先住民の文化や知的財産を使用する際の手続きを定め、資金助成の条件としていることだ。組織内には先住民部門も設立予定で、先住民のトップが予算配分もするという。ベネチア・ビエンナーレに限らず、近年は先住民の文化を取り上げることが多いが、ともすれば特権的なアート業界がそれらを利用することにもなりかねない。オーストラリアのような取り組みがあってこそだろう。
オランダ館やブラジル館ではプランテーションと収奪、植民地の歴史とミュージアムの関係に光を当て、米国館も初めて先住民の作家が代表を務めた。エジプト館は英国による植民地化をミュージカル調の映像に仕立てて話題を呼んでいた。
国際企画展では、先住民だけでなく、性的少数者の作家、・・・・・・
【高橋咲子】
「ART」は毎週月曜日に掲載
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