北海道新聞 10/21 10:30、10/21 10:45 更新
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札幌国際短編映画祭の授賞セレモニー。国際審査員と受賞者が一堂に会した=11日、札幌市中央区のホテル
今月7~12日に札幌市内で行われた第10回札幌国際短編映画祭(実行委と札幌市主催)。今年は節目の年とあって、例年以上に多彩な企画が並び、期間中の参加者は過去最多だった昨年の1万6076人を上回る見通しだ。質の高い作品が多数集まり、短編としては世界有数の存在に成長した同映画祭。新しい才能の発掘・育成という役割を果たす一方、市場の開拓や裾野の拡大などには課題も。次の10年に向け、さらなる取り組みが期待される。
2006年に行われた第1回の応募作品数は約1800作だ。その後、国内外での地道な広報活動などが功を奏し、今年は99カ国・地域から3321作が寄せられた。作品の質の高さには開始当初から定評があり、昨年の上映作のうち3作品は米アカデミー賞の短編部門にもノミネート。世界中から秀作が集まる効果で、参加者も年を追うごとに着実に増加している。同映画祭が目指す北海道発の作り手の発掘・育成も進み、今年は全編アイヌ語のアニメ作品も上映された。
ただ、開催目的の「両輪のひとつ」と位置づける、短編映画をコンテンツ産業に育てる、という狙いは停滞気味だ。期間中、作品売買の市場を上映会場付近のイベントスペースに併設し、買い手である映像配信などの関係者が応募作を閲覧できるようにするなどPRに力を入れてきた。こうした取り組みは短編映画祭としては国内唯一で、注目度自体は高い。一方、同実行委は「正確な数は把握していないが、売買数は想定ほど伸びておらず、目標にする産業育成には至っていない」(久保俊哉プロデューサー)と認める。
その理由を「映像文化に対する国家戦略の動きの乏しさ」と分析するのは、ヨーロッパ中に作品を供給する世界最大の短編映画祭・クレルモンフェラン国際短編映画祭(フランス)事務局のロジェ・ゴナン氏だ。札幌を訪れたゴナン氏は「フランスでは国が各テレビ局の短編映画の購入割合を定め、各局が定期的に放送している。それが、将来の映像産業の振興につながるとの共通認識が互いにあるためだ。国の支援もなく、市場を形成するのは至難の業」と指摘する。
こうした状況を打破するため、同実行委は短編映画の作り手と企業の“橋渡し”の役割を強化し始めた。一例が今回初めて実施した、商品ではなく企業ブランドのイメージを伝える映像「ブランデッド・フィルム」を集めたプログラムの上映や、ハリウッド映画とゲーム界で活躍するクリエーター、ウイルソン・J・タン氏による映画とゲームの連携を提言するセミナーの開催だ。
映像や写真などの素材を提供するゲッティイメージズ社(米国)と提携、広告や報道用の素材として作品の活用を促すための模索も始まっている。映画祭を訪れた日本支社の小林正明シニア・アート・ディレクターは「素材としての動画の需要は今後ますます拡大する。この映画祭の作品の質の高さは魅力。今後は会期中にフォーラムを開くなど、交渉の入り口を設けたい」と前向きな姿勢を見せている。
一方、国際審査員を務めた赤平市出身の鈴井貴之監督が「世界的に注目される映画祭。もっと、地元で広く浸透させてほしい」と話すように、地域全体を巻き込む仕組みづくりも課題だ。そこで同実行委が切り札として構想するのが、来年10月に開催予定の音楽、映画、IT技術を軸とする国際的な複合イベント「MIX(ミックス) SAPPORO(サッポロ)」への参加だ。同実行委は「短編映画は音楽、ITと親和性も強く、協力することで映像関係以外の新しい層への発信が期待できる。これまでのノウハウをもとに、より大きなうねりを起こしたい」としている。(中村公美)
■作り手と世界をつなぐ窓口に ショートショートフィルムフェス主宰・別所哲也さんに聞く
アジア最大級の短編映画祭で、札幌国際短編映画祭の誕生のきっかけにもなった映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」(東京などで開催)を主宰する俳優の別所哲也さんに、短編映画の魅力と映画祭の課題などを聞いた。
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短編映画との出合いは1997年。俳優として日米を往復していたとき、米国の友人に誘われ上映会に行ったのですが、見た直後は放心状態になるほどの衝撃でした。作品が驚きと共感、発見に満ちたものだったからです。映画といえば長編という概念が崩れました。
短編の面白さを伝えたいと、99年に「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル」(当時)を東京で開催しました。この時期はちょうど映画の世界の構造が変わる節目。それまで何十億円という資金をかけた大きな産業だったのが、技術革新で個人の単位でも製作が可能になった。それと同時に、取扱説明書、料理のレシピなど幅広く動画化される需要が増え、短編映画のように動画で伝える力が問われる時代になってきました。こうした状況から、21世紀は短編映画界で年間1億円を稼ぐクリエーターが出てくると予想しています。
日本の作家のレベルは低くはないが、世界的な視野が不可欠。映像に国境はないからです。そういう意味で自分の主宰するフェスや札幌国際短編映画祭は、作り手が世界とつながる窓口としての機能を果たしているのでは。今後は作り手と、企業など動画を求める人をつなぐプロデューサーがもっと必要になるでしょう。市場を調べて企業の需要を掘り起こし、クリエーターとのつながりをつくる力を持つ人材です。そういう人はまだまだ少ない。
札幌国際短編映画祭は、地域のクリエーターを発掘してきたこと、地域性を生かした作品を多数生んでいることが大きな特徴。これからは映画祭間でより連携を深め、短編映画のけん引役としてともに存在感を発揮したい。そのためには、質の高い作品を発掘すると同時に、映像産業の担い手を広げる役割を果たすことが大切だと思います。
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<メモ>札幌国際短編映画祭 映像関係の有志が札幌市で開いた「ショートショートフィルムフェスティバルin北海道」(2000~05年)が前身。同フェスの運営組織を軸にしたSAPPOROショートフェスト実行委と札幌市が06年から開催する。対象は30分以内の映像作品で、世界中から寄せられる中からコンペティションの作品部門とフィルムメーカー部門それぞれのグランプリをはじめ、各部門賞を選ぶ。特にフィルムメーカー部門は、1人の監督が自身の複数作品を45分以内に編集して応募する珍しい方式で、毎年注目を集める。今年は応募作3321作から選ばれた100作を含め、計263作が札幌市中央区のプラザ2・5とシアターキノで上映された。
http://dd.hokkaido-np.co.jp/entertainment/culture/culture/1-0192928.html