使えば使うほど段々と真価を発揮してくれるアンプがあるかと思えば、その一方、次第に色褪せてくるアンプもある。
時間という「ものさし」はすべてに対して平等に与えられているが、その一方では冷酷な貌も持ち合わせているようだ。
我が家の9台の真空管アンプのうち、前者に該当するのが「6AR6」シングルアンプである。
2年ほど前に手に入れたアンプだが、当初は名管と謳われる「WE300B」や「PP5/400=PX25」の前で霞んだ存在のまま、まあ3番手くらいの積りだったが、このところ使えば使うほど魅了されている。
このアンプの概要について読者には「またか」とウンザリ(笑)かも知れないが縷々述べてみよう。
出力管(画像中央の2本)が6AR6(初期版:ウェスタン仕様の丸型プレート)だ。
そもそも「6AR6って何?」という方が多いと思う。
出自は軍事用絡みの真空管「WE350」(レーダー用)であり、それを実戦向けに使いやすく小型化したもので、小振りのガラス管の中にプレートがぎっしり詰め込まれている。
「5極管」だが「3極管接続」にして使用すると、周波数曲線があの銘管とされる「PP3/250=PX4」(英国管)とそっくり同じだという。
この件は「北国の真空管博士)のブログ(「球球コレクション」)にも詳しく記載されている。
そして左端の前段管は「ECC35=CV569=6SL7」(英国:STC=ロンドンウェスタン)、整流管は「6BY5」(アメリカ:タングソル)、出力トランスは「PSMプロダクト」(福岡)で個人の手巻きによるもの。
オリジナルに対してボリュームの変更(クラロスタット)、若干の回路の短縮を行っている。
このアンプのどこがいいかといえば「スピード」にある。
当初は所詮GT管の宿命でナス管やST管の中大型管に比べて余韻が乏しいという印象を受けていたのだが、使えば使うほど音声信号に対するレスポンスの速さに魅了されていった。
いわば欠点が長所に変わっていったともいえる。
総じて人間はスピードの「早い・遅い」には敏感で、どちらかといえば早い方に引きづられがちだ。
たとえばベートーヴェンの最後のピアノソナタ「32番」の演奏がそう。
名曲だけあってこれまで幾多のピアニストが挑戦しているが、演奏時間がピアニスト次第で大きく左右される。
たとえば一番短いのが「バックハウス」で、躍動感があってまるで「ジャズのノリ」みたいなところがあるが、この演奏を聴き慣れると他のピアニストの演奏が何だかまどろっこしくて退屈してくるから不思議。
この事例からして人間の耳は押しなべてスピードの速い方に照準を合わせがちとずっと感じてきた。
真空管もそうで、繰り返すようだが中大型管に比べて弱点だと思ってきた「GT管」スタイルがスピードの速さという点では明らかにメリットがある!
しかも、この「6AR6アンプ」は肝心の低音域から高音域までのレンジが広い。
量感は少なめだが引き締まった低音が一番奥深くまで伸びるのもこのアンプの特徴である。
「貴方の真空管アンプ群の中ではこのアンプが一番レンジが広いはずですよ」(博士)
こうなると、例によって「心配性」が頭をもたげてきて、このほど「博士」から新たに「6AR6」(ウェスタン型丸形プレート)を1ペア調達した。1本がたったの6千円だから性能にくらべてコスパは抜群である。
これで3ペア揃ったので命尽きるまでひと安心。
というわけで、オークションの競合の心配もなく”おおらかな”気分でこういう記事が書けようというものだ(笑)。
博士によると世の中にはまだ隠れた性能のいい真空管、それも使い方によっては豹変する真空管が知られることなく(お値段が安いまま)かなり埋もれているそうだ・・。
残念なことに押しなべて世の中の真空管アンプ・ビルダーは「これさえ使っておれば安心」とばかり定評のある真空管に走るきらいがあるように思う。
それはそれでいいのだが、これらの真空管は再生産が利かないので高騰の一途を辿っているのが無念。
何しろ「WE300B」(刻印)の程度のいいものは1ペアで100万円もするんだから~。
今後ますます埋もれていながらも優秀な真空管の発掘が待たれるところだが、この世界はとてつもなく奥が深くて究めるのが難しそうですよ~。
したがって、先駆者の知恵を借りるのがいちばんだ(笑)。
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