去る1月18日に心臓のカテーテル手術を受けてからおよそ2週間あまり、ようやく1時間ほどゆっくりとした歩行ができるようになった。
ただし、調子に乗って運動ジムに立ち寄ってエアロバイクをやったところすぐに息切れしてダウン。
「自転車をこぐ」ことは「歩く」ことに対してこんなに心臓に負担をかけるものかと驚いた。
当分の間は「歩く」ことに専念することにしたが、改めて日頃血液を押し出すポンプの役割を地道に果たしている心臓に感謝する毎日。
それにしてもこんなに寒いと血管が収縮して心臓にたいへん良くない。
ああ、早く暖かい春にならないかなあ~。
「冬来たりなば 春遠からじ」
というわけで専ら読書、オーディオなどの室内活動にいそしんでいるが最近読んだ面白い本を紹介。
☆ 「告白」 湊〔みなと) かなえ著
いやあ、さすがに文庫年間〔2009年)売り上げ「ベスト1」に輝いただけのことはあると思うほど面白かった。
ちなみに、「ジュンク堂書店池袋本店」と「丸善お茶ノ水店」の両店で「ベスト1」なので全国に置き換えても間違いではなかろう。
これだけ売れて有名な本だから既に読んだ方も相当おられるに違いないがそのときは悪しからず~。
全体の構成は六つの章に分かれていて、それぞれ「事件」に関係する者たちの告白という形式をとっている。
その「事件とは何か」がまず第一章で提示される。
舞台は中学校のあるクラスの終業式。告白者は愛児を事故で失って悲嘆にくれる先生〔女性)。
既に退職の意思を固め、生徒に最後の挨拶をする中で「このクラスにわが子を事故に見せかけて殺した生徒が二人いる」と衝撃の告白が行われる。
該当する生徒の氏名も先生には分かっており、その復讐のやり方がいかにも女性的で執念深くてすごい。
種明かしはここまでだが、章ごとに先生、生徒、生徒の母親など告白者が入れ替わることにより、事件の真相〔深層)が次第に明らかにされていく。
また、それぞれの立場からの告白により人間の善と悪の部分が平等に提示され、全体的に登場人物の公平性が計られているところに著者独自のバランスのとれた奥行きのある視点が感じとれる。
さらに事件がらみで「教育とは何か」といった社会問題まで読者に考えさせるところにも著者の並々ならぬ力量が伺える。
日本にはまだまだすごい作家がいるもんです。まだ読んでいない方は是非~。
☆ 「モーツァルトの陰謀」スコット・マリアーニ著
題名からしてすぐに読みたいと、何のためらいもなく図書館の新刊コーナーから手に取った。
「陰謀」とあるがどんな類のものだろうか。
実はミステリー好きが嵩じて才能もないくせにモーツァルトに関するミステリーを書いてみたいと一時期、のぼせ上がったことがある。
天才の名にふさわしいモーツァルトには不可解な死に方を含めて、とにかく人間離れしていて題材にはこと欠かない。
自分勝手に考えたストーリーの底流とは次のとおり。
モーツァルト35歳の死の年に、傑作オペラ「魔笛」が作曲されるが、ほとんど同時並行的に作曲されたオペラ「皇帝ティトスの慈悲」が晩年の作品にしてはまるで信じられないような駄作。
実はこれには深いわけがあって、この「皇帝ティトスの慈悲」はモーツァルを嫉妬した宮廷音楽家サリエリによる贋作で本来の楽譜はある秘密の場所に隠匿されていた。
その”ありか”は最後の作品となった未完の「レクイエム」の楽譜の中に暗号として忍ばせてあり、それを読み解くと死の真相が明らかにされるとともに、最後には「魔笛」を上回る傑作が発見されてメデタシ、メデタシという落ち。
モーツァルトがあと少しでも長生きしてくれたらもっと素晴らしい作品を人類、皆等しく享受できたのにというどうしようもない願望がなせる業だが、まあ他愛もない話。
さて、この「モーツァルトの陰謀」だが期待に胸弾ませて読んだものの実に見当違いの作品であった。
まるで初めから映画化を念頭においたような冒険活劇もので主人公の逃亡シーンがメインになっていて、しょっちゅうドタバタして芸術的な香りがひとかけらも漂ってこないのが残念。殺人シーンの残虐さもかなりのもの。
全体的にどうもあの「ダヴィンチ・コード」(ダン・ブラウン)の受けを狙った二番煎じのような気がしてならない。
肝心の陰謀の正体も「魔笛」に関するフリーメーソンの撲滅を目的としてある組織が暗躍するという筋書きで、ピアノの足に隠されたモーツァルトの最後の手紙がカギを握っているというもの。
ちょっと荒唐無稽すぎてお話にもならず、自分のストーリーのほうが”まだマシかも”とひそかに胸を張った。
「自己満足もいい加減にしろ」とお叱りを受けそうだが、この本は「モーツァルトの陰謀」(「THE MOZART CONSPIRACY])なんて題名をつけてモーツァルトに題材を求めたのが間違いのもと。
少なくとも「ダヴィンチ・コード」はキリストの女性関係について極めて綿密な考証をしていたことがストーリーに信憑性を与えていた。
この著者の場合、ちょっと読めばすぐに「モーツァルト通」ではないことが分かるので小説全体がはじめから絵空事に過ぎず何だか軽くて浅いという印象を受けてしまった。
本書の背表紙に「英国の読者を夢中にさせた」と書いてあったが、単なるアクション物として割り切って読めばそれなりに楽しめる作品かもしれない。