「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

押しつけがましくないフランス音楽

2021年11月20日 | 音楽談義

いつもの運動ジムからの帰途のことだった。

夕食まで時間があったし晩酌にはちょっと早すぎるので(笑)、本屋に立ち寄ったところさりげなく店内に流れていたBGM
がモーツァルトのピアノソナタだった。

「ああ、いいなあ!」と、思わずウットリして立ち尽くしてしまった。

モーツァルトの作品の中では非常に地味な存在だが聴けば聴くほどにモーツァルトの素顔が顕わになる音楽であり、一度ハマってしまうと病み付きになる音楽でもある。

自宅に戻ると関連のCDを引っ張り出した。

      

当時一番耽溺したグールドに始まって、ピリス、内田光子、アラウ、ギーゼキング、シフとサワリの部分を聴いてみたがこの年齢になると自然体の演奏が一番ピッタリくるのだが、その点グールドはあまりに個性が際立っていてちょっと「押しつけがましい」気がしてきた。

当時はグールドでなければ夜も昼も明けなかったのに、年齢によって好みが変わってくる典型的な例ですね。

というか、むしろ長い宮仕えを終えて15年ほど完全な
自由を満喫すると、ことさらに「押しつけがましさ」が気になるのかもしれない。

さて、その一方ピリスはまことに中庸を得ていて、普段着のままの気取ったところが無いし何よりも「音楽心」があってたいへん好ましい。

「音楽は普段の生活の中で味わうものです。何も着飾ってコンサートに行く必要はありません。」が、彼女のモットーだが、この演奏も等身大そのままのモーツァルトを聴かせてくれる。

そして、この「押しつけがましくない音楽」で連想したのが「生きている。ただそれだけでありがたい。」(新井 満著:1988年芥川賞)
の中の一節。

                     

この中でなかなか興味深いことが書いてあった。(61頁)

著者が娘に対して「自分のお葬式の時にはサティのグノシェンヌ第5番をBGMでかけてくれ」と依頼しながらこう続く。

「それにしても、何故私はサティなんかを好きになってしまったのか。サティの作品はどれも似たような曲調だし、盛り上がりにも欠けている。淡々と始まり、淡々と終わり、魂を震わすような感動がない。バッハやマーラーを聴く時とは大違いだ。

だが、心地よい。限りなく心地よい。その心地よさの原因はサティが声高に聴け!と叫ばない音楽表現をしているせいだろう。サティの作品には驚くほど音符が少ない。スカスカだ。音を聴くというよりはむしろ、音と音の間に横たわる沈黙を聴かされているようでもある。

沈黙とは譜面上、空白として表される。つまり白い音楽だ。サティを聴くということは、白い静寂と沈黙の音楽に身をまかせて、時空の海をゆらりゆらりと漂い流れてゆくということ。

毎晩疲れ果てて帰宅し、ステレオの再生ボタンを押す。サティが流れてくる。昼間の喧騒を消しゴムで拭き消すように。静寂の空気があたりに満ちる。この白い壁の中には誰も侵入することができない。白い壁の中でたゆたう白い音楽。」

以上、これこそプロの作家が音楽について語る、まるでお手本のような筆致の文章で、自分のような素人がとても及ぶところではない(苦笑)。

サティ(フランス)の音楽の素晴らしさが充分に伝わってくる文章だが、総じてフランスの音楽には押しつけがましさがない印象を受ける。

たとえば、ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」もしかり。

そこで「フランスとドイツの音楽の違い」についてネットでググってみたらこういう投稿を見つけた。

「私はピアノ弾きですが、(フランス音楽について)ピアノの音質の視点から言えば、透明感ときらめき でしょうか。

また具体的なものより、雰囲気的なものを大事にしていると思います。そこにある空気やオーラです。


ちなみに対照的なドイツなんかは安定・重厚さ・深みといった印象です

よって指のタッチもずいぶん変わってきますが、空気感のあるフランスには さらっとした音を作る為のタッチを追求する必要があるでしょう。」

以上のとおりだが、音楽の3大要素といえば周知のとおり「リズム、メロディ、ハーモニー」に決まっているが、これに「得(え)も言われぬ雰囲気、空気感」を付け加えてもいいような気がするが、ちょっと同列に扱うには異質のような気もするし・・。

皆様はいかがお考えですか?



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