「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

読書コーナー~「濫読」~

2011年01月23日 | 読書コーナー

ここ10日間ほど入退院をはさんで生活環境が激変。

こういうときに「何時でも」「どこでも」「手軽に」対応できる趣味は何といっても「読書」に尽きる。(麻雀ゲームも楽しんでいるが・・)

この機会にと図書館から借りてきて、そのままにしておいた本を読み漁った。ザッと挙げてみると次のとおり。

 「下町ロケット」(新刊:池井戸 潤)  「再会」(横関 大)  「訣別の森」(末浦 広海)  「ミステリーの書き方〔新刊)」  「エッジ(上下巻)」(鈴木 光司)  「ポーツマスの贋作」〔新刊:井上 尚登)  「闇の底」(薬丸 岳)  「島田 荘司全集Ⅲ」  「民宿雪国」(新刊:樋口 毅宏)

やっぱりというかミステリー系が多い中で一番面白かったのは「下町ロケット」。

            

本書のあらすじだが「宇宙科学開発機構」に勤める主人公の「佃 航平」はロケット開発の優秀な技術者だったが、打ち上げの失敗とともに責任を負って退職する羽目となり、父親の後を継いで今では”しがない”下町の工場経営者に転身。

それでもロケット打ち上げの思いは断ちがたく地道に研究を続けて、技術開発の生命線ともいえる「バルブ」の特許を取得。

その特許をめぐって大手メーカーと競合しながらあの手この手で宇宙ロケットの夢の実現にまい進していくというスト-リー。

とにかく中小企業と大企業と取引銀行との虚虚実実の駆け引きが面白く、最後は中小企業が勝つというのが痛快で、読後感がことのほか爽やかで心地よい。

著者の「池井戸 潤」氏は慶応を卒業後、大手銀行に就職するも途中から作家に転身という経歴を持つ。

平成10年に、銀行の内幕を描いた「果つる底なき」〔この作品もとても面白い!)で「江戸川乱歩賞」を受賞している。この賞は「賞金1千万円」の魅力とともに推理作家の登竜門として有名。

過去にも井沢元彦、高橋克彦、東野圭吾といった錚々たる作家たちを輩出している。

池井戸氏はたしか一昨年だったと思うが「直木賞」受賞の最短距離に恵まれたが直前になって選考委員の一人「渡辺淳一」氏が「この作品に賞を与えるなら自分は選考委員を辞退する」と猛反対したため受賞ができなかったというたいへんお気の毒な経緯がある。

実力がある作家なのでそのうち必ず陽の目をみることだろう。

次に
「再会」「訣別の森」はいずれも前述した江戸川乱歩賞の受賞作。前者が平成22年、後者が平成20年といずれも近年の受賞作。

「再会」の著者「横関 大」氏は毎年一作づつ仕上げるという自ら課したノルマのもとに見事8回目で栄冠を獲得。

さすがに8作目ともなると、文章がこなれていて読みやすくストーリーに自然と引き込まれていく。

幼なじみの男女4人に共通の憎むべき人間がいて、その人間がある日射殺される。使用されたのは23年前に殉職した警官の銃で、実は四人がタイムカプセルに隠したものだった。犯人は果たして四人のうちの誰なのかが謎解きのテーマ。

登場人物の心理描写が卓越していてハイレベルの作品といってよいが後半の解決に導かれる大事なポイントで偶然を利用した「ご都合主義」が顔を覗かせるのがちょっと惜しい。難点はここだけ。

「訣別の森」はドクターヘリ、自衛隊、知床の自然環境保護問題などを巧みに絡めたスケールの大きな作品。ミステリーと冒険小説を合わせたような印象。

しかし、残念なことに登場人物の心理描写が浅く、雄大な情景描写に負けている。ミステリーは登場人物の掘り下げがないと話にならない。ストーリーの展開も後半に至ってややダレてくる。

これはまだ経験の乏しい作家によく見られるパターンで同年に同時受賞した「誘拐児」〔以前のブログで紹介)のほうがずっといいと思った。

「ミステリーの書き方」はミステリーファンやこれからミステリー作家になろうとする方は一度目を通しておいたほうがいい極めて有為の書。

功なり名を遂げた作家たちがテーマごとに懇切ていねいにミステリーの書き方を指導してくれる。

鈴木光司さんの「エッジ」は平成20年の作品で、ある日ある時、いきなり「神隠し」のように人間が消えていくというホラーがかったストーリー。

「神隠し」は現実に日本各地で起こっており、永遠の未解決事件として実際にいくつか存在している。

殺人事件なんかよりももっとタチが悪いと思うが、その原因を純粋な科学的アプローチにするのか、人為的な誘拐(北朝鮮による拉致など)にするかで随分と視点が違ってくる。

本書では地球の「磁場」を利用した「神隠し」がテーマだが、読んでいてそれなりにグイグイ引き込まれていく。真偽の程はともかく退屈しない本だった。

「ポーツマスの贋作」は日露戦争を終わらせるために1905年に行われた日露講和会議(アメリカのポーツマス)が舞台となる。

日露ともにこれ以上、戦争を続けられない母国の事情のもと、自国に有利な条件で交渉を締結するために情報戦が展開されスパイが暗躍、葛飾北斎の肉筆画などが小道具として登場して芸術的な香りも漂う。

いわばミステリーとスパイ系が合わさったような内容で小村寿太郎〔全権大使)などの歴史上の人物もそれなりに描かれてかなり引き込まれる。

しかし全体の読後感となると本書の弱点が見えてくる。

主人公がストーリーの途中でいろいろと入れ替わってどうも焦点がつかみづらい


それに国の運命を左右するほどの重々しい歴史上の出来事に対してフィクションの部分があまりにもチャチで軽すぎるという印象を受ける。

両者のバランスがよくない。題名に期待したがその割りに物足りない本だった。

 

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