レコードからCDの時代への移り変わりは30年ほど前からだが、それに伴ってレコードの時には必需品だった「プリアンプ」の役割が徐々に見直されてきたのは周知のとおり。
自分のシステムの場合は特にDAコンバーターにボリューム機能がついているので、ここ10年ほどは本格的にプリアンプを使用したことがない。
とはいえ、やはり人間にはときどき現状打破というかマンネリズムから脱出したいという気持ちがどうしても沸き起こることがある。
基本的に脳は変化を欲している!
一方では「プリアンプ不要論」を展開しつつも、それとは裏腹に「性能のいいプリアンプを導入するともっといい音になるかもしれない」という身勝手な発想をし、ひとたびそういう気持ちになるとなかなか制御しきれなくなるのはオーディオマニアならご承知のはず。
それかといって高価な買い物だし、いきなり購入して「ハイ、駄目よ」ではお金がもったいない。
馴染みの東京のショップのSさんにメールで問い合わせてみたところ次のような返事が返ってきた。
現在弊社の在庫の中でNo.26SLと肩を並べる物としては、Cello ENCORE PRE L2 ぐらいでしょうか。 クレルのプリアンプは、昔から、今一歩です。やはり、パワーアンプが得意のメーカーです。
Sさんによると、ご好意でこのマーク・レヴィンソン「No.26SL」を1週間ほど無料で貸し出してくれるという。
このプリアンプは1991年発売開始の製品で当時の定価がたしか190万円ほどだった。基盤をテフロンにしているせいか「音がいい」と評判で専門誌でも絶賛に次ぐ絶賛。
実を言うとずっと以前、ものすごい誘惑に負けてこのプリアンプ〔中古品)を購入し2年ほど所有していたことがある。
身分不相応の持ち物だったがそれなりにマーク・レヴィンソンという「ブランド」(?)を楽しんだものの、ワディアのDAコンバーター(27ixVer3.0)がどうしても欲しくなり、泣く泣く下取りに出したという思い出がある。
およそ13年ほど前の話。
さて、Sさんのご好意により試聴させていただく「No.26SL」の到着は我が家の「怖い人」が居ないときを見計らって平日の11日〔月)に設定。
実は、まだ試聴していないにもかかわらずもうこの時点でほとんど購入する気持ちに傾いていた。
問題は資金だが手元不如意なものの、不要な機器の「下取り」などで何とか対応する心積もり。
予定通り到着した現物を目の前にしてざっと「取り説」に目を通してシステムに接続。
このプリアンプは電源スイッチが無いのでずっと24時間電源を入れっ放しのタイプ。こういうところはワディアのDAコンバーターと同じ。
省エネに逆行だが、音質のことを考えると仕方がない。当然、本来はエージングが2~3日は必要ということになるのだがそれを割り引いての試聴となる。
試聴盤のトップはつい最近購入した「富田勲の音楽」~新日本紀行~。
テレビのテーマ音楽は数あれど、NHK放映の「新日本紀行」〔昭和38年~57年)は今でも空前絶後のレベルに達していると思う。この曲を聴くと心が生まれ育った故里に還っていきそう。
なお、現在放映中の朝ドラ「てっぱん」のヴァイオリンが奏でるさわやかなテーマ音楽もなかなかのもので、ずっと昔の「あぐり」も良かった・・・。
話は戻って、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲などいろんな曲を試聴した後の第一印象だが「期待したほどではないなあ」というのが正直な感想。どうやら頭の中で美化し過ぎていたらしい。
オーディオ仲間のMさんから「どんなにいいプリアンプを入れても余計な接点〔RCA端子)が増えるので絶対に音の立ち上がりと鮮度は落ちるよ。タンノイあたりのSPだと差が分かりにくいが、センシティブなアキシオム80だとはっきり結果を出すはず。」と警告(?)を受けていたので覚悟の上だったが、やはりいつもの鮮度になれた耳にはちょっと物足りない。
ただし、「上品な雰囲気」は紛れもなく存在するのでこの辺はプラス面とマイナス面との凌ぎあい。
「まだエージングも完全じゃないし結論を出すのは早計、しばらくこの状態で聴いてみようかなあ」と、とりあえず悠長に構えてみた。
後はいつものとおり音質と価格とのバランスを自分なりにどう折り合いをつけていくかということになるが・・。
ところが翌日の12日を境にそれどころではなくなってしまった。
前々回のブログで紹介したように午前中に「心臓CT造影検査」の結果をカミさんと一緒に聞きに行ってそのひどい画像にガックリ。
もう気分的に「オーディオ」どころではなくなってしまった。
しかも「No.26SL」の1週間の貸し出し期間が入院予定期間を含めると軽くオーバーしてSさんにご迷惑をかけることになる。
ほんとうにタイミングが悪すぎた。
12日に病院から帰るとすぐにSさんにメールを送っていさぎよく元箱に納め、期待を裏切って心苦しいので気持ちばかりの「志」を同封して返送した。
折り返し、Sさんからビックリされた様子で「大丈夫ですか?どうかお大事に~」と今度は携帯にかかってきて心理的に救われた。
結局「No.26SL」とは再び縁が無かった、残念!