オーディオの楽しみといえば機器群を縦横に使いこなしながら「いい音、いい音楽」を楽しむことにあるのはもちろんだが、もう一つそれに伴う人的交流も見逃してはならない要素だ。
何の縁もゆかりもない人間同士が大好きな趣味を通じて知り合いになり親睦を深めることはほんとうに素晴らしいことだといつも思う。
去る3月中旬に初めて我が家に試聴にお見えになったKさんとMさんのご両人だが、今度はMさんについて記録しておこう。
「どういうシステムで聴かれているんだろう」と、興味津々で訪問したのが先週の4月12日(水)の午前中のことだった。
別府市内の我が家からは40分ほどのところで、大分市内の中心部からはクルマで10分ほどの閑静な住宅街にあり広大なお庭に恵まれて「お屋敷」にふさわしい佇まいだった。
Mさんはアンプの自作歴が40年以上にもなり、どちらかといえば音楽を聴くことよりも製作の方に力点を置かれた方で、1台出来上がって無事音が出てくるのを確かめると、次にはもう1台の製作に取り掛かるというわけで、オーディオルーム兼作業場にはこれまで作ったプリアンプとパワーアンプが数知れず。
このほかにも倉庫に保管したり他家にも預けてあるというから驚く。
「オークションに出品して処分すればいいじゃないですか」と言ってみたのだが、「いろいろ煩わしくて面倒だし、小銭を稼いでも仕方がないでしょう。」とのことでその気持ちはかなり分かる(笑)。
さて、肝心の音である。
数あるアンプの中で2台のOTLアンプには度胆を抜かれてしまった。左側のアンプは「6C33C」、右側は「6080」と、まったくお馴染みの無い真空管だったが音は素晴らしかった。音場の見通しがいいというか、透明度が抜群。
「OTLアンプってこんなにいい音がするんですか!」
おっと、「OTLアンプって何?」という方がいるかもしれない。ちょっと長くなるがネットから引用させてもらおう。
「Output Trans Less(OTL) とは、増幅特性を悪くする出力トランスを使わず回路の工夫で直接つなぐ回路のことを指します。
トランジスター回路ではトランジスターの内部抵抗であるインピーダンスが低いので、市販のオーディオアンプは、価格にかかわらずこのOTL回路です。
しかし真空管回路では真空管の内部抵抗が高いので、直接スピーカーにつなげることができないので、必ず出力トランスを使用します。また高電圧がスピーカーのボイスコイルに流れて焼損するのを防ぐためにも必需品です。
しかし、出力トランスを使うとそれがフィルターとなり、低い音域や高い音域が再現できなくなり、それが音質にこだわる真空管アンプマニアには不満でした。
そこで真空管をたくさん使って、内部抵抗を低くする回路を自作して、出力トランスを使わないOTL回路の真空管アンプで聞く真空管マニアが増えました。
40年ほど前にはオーディオ雑誌で自作回路がよく紹介されていましたが、高性能半導体が安くなり、真空管アンプが消え、高音質トランジスターオーディオアンプが出現すると、OTL式の真空管アンプは忘れ去られました。
OTL真空管アンプはダンピングファクターという低音の歯切れをよくするためには効果が高いが、回路が複雑で、出力トランスがないので増幅能率が悪いので10ワット程度しかとれず、能率の悪い外国製スピーカーは鳴らせず、このOTL真空管アンプに適合するスピーカーセットが少なく定期的にバイアス電圧を調整する手間もかかるので、市販のOTL回路であるトランジスターアンプに其の役割をバトンタッチしました。」
以上のとおりだが「能率の悪い外国製スピーカー」とか内容的には「?」の点もあるが、ま、自分は回路に関してはズブの素人だし全体的にそういうことにしておきましょう(笑)。
それにつけても真空管アンプには必須とされる出力トランスも「必要悪」だし、コンデンサーだってそうだし、オーディオ機器ってのは全体的に「必要悪」の塊りですねえ~。そもそも電気回路を通じて生の音に近づこうなんて了見そのものに無理があるのだろう(笑)。
じっくりと2時間ほど堪能させてもらってから、あり余るアンプ群からとりあえずプリアンプを3台お借りすることにした。
本命の「OTLアンプ」はいくらなんでも初訪問時から貸してくださいとはとても口に出せなかった。初めから厚かましい人間とは思われたくない(笑)。後日の楽しみに大切にとっておこう。
貸していただいた3台のプリアンプを我が家のオーディオルームに設置してみた。上下の2台がTR式で真ん中の真空管式が1台で「クリスキット」というブランドだった。いずれも40年近く経つ代物のようだが中身は改造してあって、不要な信号回路はすべて遮断してあるとのこと。
3台のアンプを試聴してみたところ、いずれも水準を突き抜けた優れものだったがその中でも「クリスキット」がメチャ凄かった!!!
以下、続く。