私が未だ幼稚園にも行って居ない子供の頃、実家の仕事の関係で家では和舟を持って居ました。其の舟は「かんんどり」と言われる川釣りに使う和舟より大きく横幅が2m強、長さは10m以上有り積載量を稼ぐ為にたらい船の様な構造で船底はフラットな形状をした一風変わった恰好をした船でした。此の舟は常に那賀川に置いて両親は川砂と砂利を採取して販売をして居ましたが当時の輸送手段は荷車か馬車の時代で我が家には牛は飼って居ましたが馬は居なかった為、荷車を使った人力で配達をして居た様です。
この舟が出来上がった時、弁当を持って家族総出で舟を受取りに行った光景は今でも確り憶えていますが此れは私が思い出せる記憶の中でも可成り前の事で多分3~4歳の頃で有った様に思います。舟を受け取った後に数日前のブログに書いた堰堤の所まで(この時は未だ堰堤は無く工事中であった)舟で行った記憶が有り、途中でカミナリ雨に会ったり水深が浅く家族全員が舟から降りて押した事や写真の堰堤も無く可動式のゲートを動かす大きな歯車を取り付ける工事中の情景は確りと記憶の中に有るので我家としては特別な日で有ったのだろうと思います。両親が此の船を利用して仕事をしていた姿は憶えて居ませんが毎年8月の16日に行われる「水神さんの夏祭り」では家族で繰り出し船上の特等席から県南で指折りの花火大会を見た楽しい思い出が有ります。
先回にも書いた様に此の頃に上流に長安口ダムが出来て間も無く那賀川水系で自由に出来て居た「砂、砂利」の採取が出来なくなると此の和舟は其の侭にして置くと台風時や河川の増水時には大変な気配りが必要で特に台風時の雨は3~4時間毎に舟の中に溜まった雨水の「かい出し」と舟が流されないか?確認の為に両親は暴風雨の中、何時も出掛けて管理に苦労していた思い出が有ります。其の内にセメント2次製品の製造の商売を始めたら此の和舟は我家の前の北岸用水に持ち帰られて私達子供の遊び道具と成りました。其の前には我家の50m程上に水門が有ったが私が小学校2年生頃に国の予算が降りて大々的な北岸用水の改修工事が行われ水門の撤去と完全なコンクリート・ブロックによる川幅の有る用水に変わったので此処に舟を浮かべて約800m位は自由に舟を動かす事が出来たが残念ながら舟を回せる程の川幅は無かったので川を上る時は船首を前に下る時は車のバック状態で川の流れに乗って下るだけ、其れでも子供には最高の遊び道具で有った。最初は水竿で動かして居たが其の内に何処からか櫓を手に入れ「手漕ぎ船」と成った。櫓の操作は子供には難しかったが2年生の私でも2週間程度で上手く操船できる様に成り其の後は全く操作して居ないが今でも直ぐに漕ぐ自信は有るし、其の感覚は今でも忘れては居ない。
夏休みに成ると其の前の川は水深が1.3m位に成り流れは速かったが恰好の水泳のコースに成り朝の10時頃から夕方近くまで毎日、船を利用しながら水遊びに耽って居た。そして遊び疲れると川に架かる大きい橋の下に船を進め其の日陰を利用して本を読んだり昼寝をしたりして楽しんでいた。其の時の水面に冷やされた風の心地良さや船が流れにより小さく揺れる感覚や船底に寝そべると船底から聞こえて来る「ピチャピチャ」する水音等が懐かしい。
此の舟は私が小学校6年生頃まで前の川に浮かべて居たが或る日学校から帰ったら舟が無いので父親に「舟を何処に持って行ったん?」と聞いたら気拙そうに何も言わなかったが後で兄から聞かされた話では舟は売ったらしく其の舟は吉井町(那賀川の上流)の料亭に買い取られ屋形舟に改装され御客さんを乗せて居るらしい事を聞いた。此の舟に一番執着していたのは兄で自分で自転車を走らせて確認に行ったらしい。そして兄は次の年に家の前の木工所から板の切端を貰い見様見真似で長さ3mで横幅が0.9m位の二人乗りの舟を作り私も良く乗せて貰ったが難点は何せ素人が作った船なので水仕舞いが悪く常に少し浸水が有り乗せて貰ったのは良いのだが絶えず私は浸水する水をか出すのが役目、ちょっと油断をすると時々途中で沈んで仕舞う事が有り夏以外の季節では使用出来なかったが反面、舟が小型に成ったので二人居れば持ち運びが自由に出来たので行動範囲の制限が無くなったので色んな場所で舟遊びが出来て楽しかった。
その後、兄は社会人に成ると何回か船を買い替えて最後は「シィーレンジャー」と言う長さ33フィート、220馬力のディーゼル・エンジンを搭載したイン・ボートタイプの船にレーダー、魚群探知機、ロラン、衛星を利用した自動航行システムを搭載した可成り気合の入った船を手に入れ楽しんで居た。今思うと最初の和舟の影響が大きかった様に思う。そして私も舟は大好きだが財力が無いので兄の真似は出来ず生前は何時も兄の船に乗せて貰っていた。兄とはアマチュア無線での関りが一番長く大きいが其の次と成ると船に纏わる楽しい思い出が多い。今日は連日の暑い最中、其の様な事を思い出す一日で有った。