昨日ほどではないにしろ、今日もまた茹だるような暑さに見舞われました。台風3号が近づきつつあるということも無関係ではないでしょうが、まだ7月なのに早くも首都圏直撃とは…。
さて、夕食を摂ろうとチェーンの定食屋に立ち寄ったのですが、そこに石焼ビビンバならぬ焼肉ビビンバなどというものがあったので、暑気払いも兼ねて久しぶりに食してみようと思い立ちました。
そこそこ混み合った店内で待つこと暫し、そこに焼肉ビビンバが運ばれてきました。しかし、何だかおかしいのです。というのも、この手のものが来た時に聞こえるはずの、ご飯が焼かれた石鉢で焦げるパチパチという音が全くしないのです。
不審に思いながらも、取りあえずスプーンを使って石鉢の中身を混ぜてみることにしました。しかし、この時点で既に手で触れられるほどに鉢が冷めていて、どんなに混ぜても何の音もしないまま、最終的に
お焦げどころか全体に火の通りが甘い、見るも無惨な『生焼けビビンバ』が完成したのであります。
これでは話にならんな…と思ってホールスタッフに声をかけるも、
「少々お待ち下さ~い…」
とスルーされるばかり。そのうち、空腹なのと出来に納得できないのとで段々とイライラしてきたので、2回スルーしてのけた女性スタッフにキツめに声をかけたら、やっと面倒臭そうに立ち止まりました。
そこで、
「このビビンバの出来は正解ですか?」
と聞いたところ
「はぁ?(ーдー)?」
と実音付きで返してきました。なので、
「お宅のビビンバはお焦げも出来ないような『生焼けビビンバ』が正解なのかと聞いておる。答えなさい(`ヘ´)。」
と、ちょっと張った声で詰問してみたところ、
「確認して来ます。」
と、そのまま立ち去ろうとしたので、
「この実物を持って行かんか!!(゚Д゚#)」
とお盆ごと突き付けて持たせました。
さて、どうなるかと思って待っていると、厨房から何やら
「誰やったの?」
「何分石焼いたの?」
「ちゃんと手順通りにしなかったの?」
という責任のなすりつけ合いの怒号のような言い争うような声が、客席にまで響いてきました。
そして、そこから更に待つこと暫し
「…大変お待だせしました。申し訳ございません。」
という、若干たどたどしい日本語が耳元で聞こえてきたので振り返ると、恐らく彼の国の方と思われる女性のスタッフさんが、真新しいビビンバを持って立っていました。今度はちゃんとご飯が焼かれるパチパチという音がしていて、石鉢も見るだに熱そうです。
とりあえずお礼を述べて掻き回してみたら、今度はちゃんと底にお焦げが出来ていて、何とも香ばしい香りが鼻を突きました。それを別皿によそって頂いていると、先程の女性スタッフさんが、
「今度は大丈夫ですか?」
とわざわざ確認しに来て下さったので
「今度はちゃんとお焦げも出来ていて、大変美味しく頂戴してます。有り難うございます。」
と伝えました。すると、
「良かったです。私もお焦げは大好きなので…」
と仰るので
「お国のお料理ですから、尚更気になりますよね。お気遣い頂いて有り難うございます。」
と伝えると、満面の笑みで
「ごゆっくりどうぞ(^-^)」
と下がって行かれました。
その後は何事も無く最後まで美味しく頂戴することが出来ました。食べ終えて帰ろうとした時、先程の女性スタッフさんが
「有り難うございました。また是非おいで下さい(^-^)。」
とにこやかに挨拶して下さったので、こちらからも
「ご馳走さまでした。また伺います。」
と伝えました。そしてこの間日本人スタッフは、厨房もホールも…特にホールには店長と思しき男性スタッフまでが立ち回っていましたが…とうとう誰一人として詫びにも来なければ様子を伺いにも来ませんでした。
今回の件は恐らく石鉢の火入れが甘かったことが原因かと思われます。忙しい時間帯でもありましたから、恐らく厨房もてんてこ舞いだったことでしょう。ですから、それ故に起きた失敗でもありましょうし、わざとやったわけではないことだって、こちらとしても十分に理解できます。
ただ、社員だろうとバイトだろうと何だろうと、仮にも他人様からお代を頂いて仕事をする限りにおいては、是非ともプロに徹して頂きたいと思うのです。
プロだって人間ですから失敗することだってあるでしょう。ただ失敗したのなら、先ずは何よりもプロとして、そうしたものをお客に提供してしまったことについて誠心誠意謝罪すべきです。でも、彼等は遂にそれをしませんでした。
特に今回一番腹立たしかったのは、彼の国の女性スタッフさんが新しいビビンバを運んで下さっているのを、私がお盆を持たせたのを含めた日本人女性スタッフが遠巻きにヒソヒソしながらジロジロ見ていたことです。恐らく彼女等は、一番嫌な役割をこの女性スタッフさんに押し付けたのでしょう。知らん顔して仕事をしていてくれればまだしもそれをするでもなく、あまつさえこちらの様子を覗き見するなどとは何たる卑怯卑劣な振る舞いでしょうか。
よくネット上で『日本人の礼節は素晴らしい』とか『日本人は世界的にも民度が高い』などと、必要以上に日本人の気質を誉めそやす書き込みや動画が垂れ流されていますが、こうした事象を見るに、その民度とやらも知れたものだな…と自嘲気味に思ってしまいます。こうしたロクな仕事もしない輩が、給料だけは労働の権利としてキッチリともらっているのでしょうから、チャンチャラ可笑しくて聞いていられません。
ちょっと話が逸れますが、昔、とある繁盛しているレストランでバイトをしていた時のことです。
給料日になり、それぞれが給料を受け取って中身を確認していた時、一人のホールの女性スタッフが
「あんなに働かされて、これしかくんないの?」
とボソッと呟いたことがありました。偶然にも聞こえてしまったので、
「貴女、お給料って権利だと思ってる?」
と聞いたところ
「違うんですか?」
と、鼻息荒く突っかかってきました。そこで、
「じゃあ、その給与袋に何て書いてあるか読めます?」
と聞くと
「『きゅうよ』でしょ。それが何か?」
と答えてきました。なので、
「そう、『きゅうよ』ですね。『給与』という字はどういう意味か御存知?漢文を習ったことがあれば分かると思うんだけど、『給与』という字はレ点を付けて『与え給う』と読むことが出来るの。つまり、これはお店側から我々に対して与えられるものなの。」
「それが何なんですか?」
「じゃあ、何に対して『与えられる』と思います?」
「??」
「お店で働いていると、マニュアル通りに動かなければいけなかったり、イレギュラーな仕事を頼まれたり、接客時にも大変なことがあったり、嫌なことがあったりするでしょう?それに対して、貴女が如何にプロに徹して我慢をしたか…ということをお店側が評価したものが給与なの。だから給与は『権利として貰うもの』ではなく、雇用主が『貴女は今月、これだけ我慢しましたね。』と与え給う『我慢料』なわけ。そして、それが足りないというのであれば、それは即ち貴女の就業中の我慢が足りないという自己評価に繋がるのですよ。」
と言ったら目を丸くして固まっていたことがありました。
彼女等からしたら
『何言ってんだ、このオッサン…。』
くらいのことでしょうが、一度失業している私からしてみたら、雨露凌げる住む場所があって、日々の仕事があって、ご飯が食べられて、たまに楽しみとして出掛けられて…といった当たり前の日常を送れることが、まるで奇跡なのではないかと思える時があります。だからこそ、自分に出来ることを誠心誠意務めて対価を頂戴することに、喜びと責任を感じています。
私は基本ヴィオラ奏者ですが、ヴァイオリンも弾けばピアノも弾きますし、アレンジもすれば若干ですが最近は作曲もします。それは、歌舞伎俳優の松本幸四郎さんが
「プロという人間は何でも屋になる必要はないけれど、求めに応じて何でも出来なきゃいけないと思うんですよ。」
と仰っていたことか強烈に印象に残っているからなのですが、仮にも音楽家を名乗るからには、器用貧乏にならない程度に何でも出来た方がいい…という思いは、今でも変わりません。そして、そうしたプロに徹する人が増えていけば、もっといい世の中になるのではないか…と、秘かに思ったりもするのです。
今日の事件を期に、自戒の意味も込めて、改めてそんな思いを強くしたのでありました。