はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

感 謝

2006-08-03 21:57:30 | はがき随筆
 以前80代になったら読書、絵描き、五目並べ。生活の計画を立てながら夢見た。あれから、いよいよ今、80代となった。早朝の散歩が出来る。でも遊ぶ友人たちは皆去って、絵描きも目が疲れる。以前考えた事はあの時の事であった。老は当たって初めてわかる。でも姿勢の良い事はいつもほめられる。それだけは嬉しい。夏は大好き。スイカ、トコロテン。大好きである。食事が一番の楽しみである。勝負に来る友人が1人いて、時々オセロで勝つとうれしい。こんな日々が崩れないで老日を笑って生きたい。やっと書いたはがき。感謝、感謝。
   さつま町 浅山清子(84) 2006/8/3 掲載 特集版-6

蝉しぐれ

2006-08-03 21:47:45 | はがき随筆
 老残の身をいたわりあってきた姉が心臓手術の甲斐なくこの世を旅立った。忌み明けに納骨を終えた遺児たちが佐多岬へ行こうと誘った。心萎えた私は辞退したものの、気を取り直して同行した。佐多岬の短いトンネルを抜けると樹海の中に岬神社への下り坂がある。一向が下り坂へ差し掛かった時、突如電動鋸が作動し始めたようなジャーンという音が鳴り響いた。びっくりして足を止めるとピタリとやんだ。歩き始めるとまたジャーン。まるで指揮者がいるような盛大な蝉しぐれであった。思いがけない天からの声に耳に禊ぎを受けたようだった。
  肝付町 竹之井敏(81) 2006/8/3 掲載 特集版-5

新婚のころ

2006-08-03 21:39:49 | はがき随筆
 夫はトマトが大好きだった。新婚のころ、ひと山幾らの大安売りのトマトを隣町の商店街までよく買いに出かけた。大きくて少しいびつな露地物トマトを冷やして帰りを待った。冷蔵庫と言っても、しばらくは義兄宅からのお下がりの氷の固まりを入れて冷やす形式のものを使っていた。1人で待つ私のために、付き合いもそこそこに会社から飛んで来る夫は、大盛りのトマトや、まだレパートリーの少ない私の料理を何でもおいしいと平らげた。そんな夫が頼もしく、またいとしかった。44年前、夫も私も若く初々しかった。
   霧島市 秋峯いくよ(66) 2006/8/3 掲載 特集版-4

オーシャンブルー

2006-08-03 21:33:19 | はがき随筆
 菜園の傾きかけたビニールハウスにオーシャンブルーが咲き誇っている。数年間、二男の結婚式の後、義姉や妹たちと小旅行をした。彼女らは、近くのアジサイ園でこの花をみかけ、記念にしようと、1鉢ずつ買い求めて、はしゃいでいた。大学生を抱えていた私は、1000円の花を買うのをためらった。子どもたちが自立したら、いっぱい植えよう。その日を待とうと思った。今、母を看ながら草花との毎日である。山で遊ぶ小鳥の声、緑の風に揺れながら、次々に咲く花に囲まれたこの幸せを、いつまでも大切にしたい。
   阿久根市 別枝由井(64) 2006/8/3 掲載 特集版-3

ジャズの夕べ

2006-08-03 21:25:28 | はがき随筆
 待ちに待ったこの日が来た。マンハッタンジャズオーケストラの開演だ。五感のスイッチは入場前からON。心地よい緊張感と同時に天を貫くビッグバンドサウンドはたちまち会場と一つになった。聞き覚えのある曲が次々奏でられ、いつの間にかスイング。アンコールは「A列車で行こう」。ウーン懐かしい。ペットのソロがたまらない。さすが本物。片言の日本語と結成18年という円熟したメンバー16人。はるばるこの町へ。嬉しい。久々に音のシャワーを浴び潤い、癒され、夢のようなひとときをありがとう。
   薩摩川内市 田中由利子(64) 2006/8/3 掲載 特集版-2

絶対負けないぞ

2006-08-03 21:18:27 | はがき随筆
 土地の境界にブロックを積むより心なごむ緑と思いラカンマキを植えた。庭木にはいろんな種類があったが、この木は手入れが簡単で丈夫とすすめられた。今は色濃く茂り新鮮な気分を与えてくれ境界の役目も十分だ。毎年剪定バサミで楽しみ半分庭師のまね事をしていた。が、昨年新芽を食い荒らす幼虫が異状発生。「あっ」という間にやられてしまった。割り箸で取り除き、薬剤散布して食い止めた。今年も昨年見た蛾が飛んでいる。卵を産みにきたぞ。「スワッ」と身構え戦闘モードに突入。今年は絶対食い荒らされないぞ、と己に誓う。
   鹿児島市 鵜家育男(61) 2006/8/3 掲載 特集版-1