さーびす！

　どうせ買うならこの子たちから。カンボジアの遺跡群。行く先々に土産物売りの子ら。一つ買うと次々に……。買いすぎ、財布は空。逃げるように去りしばらく行くと「オネーサン！」の声。「もう買えないの！」。見るとバッグ売りの少女。「オネーサン、フクロ！」。手にレジ袋を持ち、にっこり。私のほおも緩む。足どり軽く歩いていると背後から、また少女。私の左手にかわいい腕輪を。固辞する私に「オカネ、イイ。コレ、『さーびす』！」。彼の国の子どもの頭には神が宿るという。彼女を抱き締めて私は思う。「私のお土産はこれでいい」と。
　　霧島市　福崎康代　2012/2/10　毎日新聞鹿児島版掲載

結婚の成人式

　２月14日、結婚20年になる。もし結婚が子供なら、私たちの結婚は成人式を迎える。
　夫は昨年末に２度目の脳卒中で倒れ入院中だ。脳神経内科からリハビリ科に移った。言語、理学、作業の三つのリハビリを受けている。胃ろうの手術も受けた。口からの食事は難しい。だんだんしべらなくなった。
　「お母ちゃん、愛してるよ。ボクは死にたくない。だってお母ちゃんと結婚したんだから」
　夫が突然口を開いた。夫のその一言、その一言がまだまだ聞きたいと心から願う。神様もう少し……お願いします、と祈る結婚20年目である。
　　鹿児島市　萩原裕子　2012/2/9　毎日新聞鹿児島版掲載