私の働く店では赤飯、餅、おはぎなどを作っている。毎年春にヨモギ摘みがある。急斜面の土手や草やぶに分け入り重労働ではあるが、新芽を摘む快感は疲れを忘れさせる。ウグイスの声を聞き満開の桜の下や、川のせせらぎに添ったり、きらめく海を眺めたりと心弾むのだ。
摘んだヨモギは従業員総出で選別し洗い、ゆで、絞り、茎などを除き臼でつき、さらに細かい繊維を取り、春の香りが冷凍保存される。手間ひまかけたおいしいヨモギ餅ができるのだが、今年で店は閉められる。ふくよかな母の手のような店がなくなるのはとても残念である。
出水市 塩田きぬ子 2012/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載