はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆4月度入選

2012-05-11 20:56:31 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。
▽伊佐市大口原田、清水恒さん(64)の「母の生き甲斐2」(1日)
▽阿久根市大川、的場豊子さん(56)の「南無阿弥陀仏」(4日)
▽垂水市市木、竹之内政子さん(62)の「やっぱり」(28日)

──の3点です。

 投稿なさる方が比較的高齢の方が多いせいか、話題が病気、看病や介護、懐旧の念、それに孫の逸話が目立ちます。興味深いのは50歳になっても60歳になっても、ご両親のことを語られる時は、ご自分は子供になっていることです。当たり前といえば当たり前ですが、70歳の子供というのもほほ笑ましい感じもします。
 清水恒さんの「母の生き甲斐2」は、86歳になって俳句を作り始めた母親への励ましの言葉です。俳句の添削のために、手紙のやりとりが頻繁になったことに感謝されています。老人のスマホがはやっているそうですが、やはり手紙はいいですね。
 的場豊子さんの「南無阿弥陀仏」は、菜園の主がスイカ泥棒に「南無阿弥陀仏……合掌」という立て札を立てたという内容です。見落としがちな立て札ですが、立て札の表現のユーモアの中に、怒りと無念さを読み取った観察の細かさが、優れた文章にしています。
 竹之内政子さんの「やっぱり」は、ラジオで財産残すは銅賞、思い出は銀賞、生き方は金賞という名言を聞き、ご子息にメールで確かめたら「銅賞希望」であったという内容です。ご子息も歳をとると金賞に変わると思います。きっと年齢の問題です。
 入選作のほかに3編を紹介します。
 吉井三男さんの「ぼくはクワガタ」は、知人に事故死され暗い気持ちで過ごしていると、お孫さんが大人たちの血液型の話に割って入り、「僕はクワガタ」と叫んだというほほ笑ましい内容です。無邪気は慰めです。
 秋峯いくよさんの「喪失感」は、亡き御主人の手作りのウッドデッキを、白アリのために壊さざるをえなくなった。形あるものはいつかは滅びると分かっていても、子供さんたちとの思い出が詰まっているので寂しいという内容です。 
 高橋誠さんの「新食感の野菜」は、ヤーコンというものを初めて食べ、コンが着くからダイコンやレンコンの種類かと思っていたら、英語でYACONでした。でも、やはり野菜です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

役割分担

2012-05-11 20:50:47 | はがき随筆
 母の一年祭には春休みだったので次女一家が帰って来てくれた。5月の連休には長女たちが帰って来た。夫亡き後、子どもたちがいてくれて本当に心強い。
 長女と次女は性格が全く違う。ゆえに私に対する役割もおのずと決まっている。毎日のように私に電話を入れて、安否確認と話し相手をしてくれるのは心配性の次女。長女は細々とした処理係。例えば欲しい本やCDなどをネットで注文してくれる。調べものも。
 次女は徹底した断捨離派で私にも片付けを強要する。長女は「思い出もあるし捨てきれないよね」と言ってくれる。
  霧島市 秋峯いくよ 2012/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「心のサプリ」今後も楽しみに

2012-05-11 18:13:25 | 岩国エッセイサロンより
    岩国市  会 員   中村 美奈恵

日曜版に心療内科医の海原純子さんのコラム「心のサプリ」が復活したのがうれしい。以前、彼女の言葉に何度も救われたことがあり、今も切り抜きを保存している。
 3、4月はとても忙しかった。長男が大学卒業と就職に伴い転居し、三男は中学に入学した。仕事も忙しく、息が切れそうだった。そんなとき、ふと居間のピアノに向かおうという気になった。ほんの30分、一人きりで弾いたが、不思議なことに肩の荷がすうっと下りたような気がした。

手元にある切り抜きにこんな趣旨のことが書いてある。「人は誰でもパーソナルタイムがないとイライラしがちになる。一人の時間を持つと、自分の心と向き合えてほっとする。忙しい日が続いた後は、一人の時間も大切ですよ」

ピアノで自分を取り戻した私は、息子に穏やかに接することができた。大切なことに気付かせてくれたり、元気づけて前に進ませてくれる「心のサプリ」を今後も楽しみにしている。

(2012.05.11 毎日新聞「みんなの広場」掲載)岩國エッセイサロンより転載

「首を洗って待つ蘭」

2012-05-11 14:16:11 | 岩国エッセイサロンより
2012年5月11日 (金)

 岩国市  会 員   山本 一

「何と長持ちするねえ! ひょっとしたら丸一年咲いたままだったりして」と妻に言う。しばらくして妻が「葉脈が切れている。造花みたい」と。何ということだ。  

この蘭は昨年10月、妻が手作りパン屋を開店したお祝いに頂いたものだ。たくさん頂いた鉢植えの中でも、とりわけ長持ちする花だと度々話題にした。妻は毎日水やりをし、大切に育てた。届け主には年賀状で「まだ咲いています」と書いて出したとか。

真実が分かった途端、お払い箱では可哀そう。それに、何だかバツが悪い。今も、鉢植えの仲間の中で首を洗って鎮座。

(2012.05.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩國エッセイサロンより転載