はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私も主役?

2012-09-15 18:39:16 | はがき随筆


 長身の花嫁は裾の長い純白のウェディングドレスに身を包みダイヤのように輝いていた。
 大阪での孫娘の結婚式に出席した。披露宴もたけななわ。突然、私の名前が呼ばれ「大好きなおばあちゃん正面においでください」とのアナウンス。
 正面に待つ花嫁と腕を組む。嵐のような拍手を浴びながら、場内を歩くことになった。
 もしかして私も主役? みたいな錯覚に舞い上がっていた。しかし、ドレスの裾が足元にまとわり付き、つんのめりそうになり思わず苦笑する。
 温かい拍手、感動的なサプライズは最高の思い出となった。
  鹿児島市 竹之内美知子 2012/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載

壊れたカメラ

2012-09-15 18:22:26 | はがき随筆


 夏、愛用のカメラが壊れた。フイルムを入れるとジーという巻く音がすぐに止まり、数字が3と出た。「なんで!」。シャッターを押すと3回でジ・エンド。念のため新しいフイルムで試みるが結果は同じ。原因はカメラを落としたせい? 金属疲労? カメラ店で調べてもらうと、フイルムが正常に巻かれず、ネガの被写体もピント外れとのこと。メーカーに修理を頼むと費用がかさむという。やむなく使い続ける事をあきらめた。20年近く喜怒哀楽を記念に残してくれた一眼レフ。6月に孤高の麗花・月下美人を撮ったのが相棒の遺作になった。
  出水市 清田文雄 2012/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度

2012-09-15 17:45:35 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】15日「白いスニーカー」竹之内美知子(78)=鹿児島市
【佳 作】26日「半歩でも前へ」種子田真理(60)=鹿児島市
▽30日「ソウメンカボチャ」年神貞子(76)=出水市


 白いスニーカー 梅雨の晴れ間に、亡夫の残したスニーカーをベランダでほしあげ、陽光を浴びたスニーカーをそっと履いてみた。その瞬間に亡夫の姿がよみがえったという、一瞬の感覚を捉えた優れた文章です。スニーカーの白、太陽を吸った靴の温かさとその感触、それらの感覚が合わさって、夫婦愛を懐かしく漂わせています。
半歩でも前へ 地デジ化以来、テレビ離れし、読書にいそしんでいる。すると、自分の未熟さに気づかされ、その克服に悪戦苦闘している、という内容です。テレビ無しの生活が幸いしました。人は努めている間は迷うものだ、とはゲーテの言葉です。前進していってください。
 ソウメンカボチャ 年神さんの描写力にはいつも感心します。ソウメンカボチャの生育、収穫、食材などの模様が色彩豊かに描写されています。このような文章が書けるのは、観察の細やかさに基づくものに違いありません。
 他に4編を紹介します。
 武田静瞭さんの「撮った!」は、夜しか咲かない月下美人の花の撮影に成功した喜びが書かれています。他人には些細なことかもしれませんが、本人にとってはやはり幸福な瞬間です。
 畠中大喜さんの「裸電球の夏」は、節電騒動につけても、敗戦直後の窮乏生活が思い出され、むしろ懐かしいという内容です。あの頃を体験した人も少なくなってきました。
 内山陽子さんの「ゴーヤー」は、ゴーヤーの苦みに馴れたのが、義母の葬式の弁当を食べた時だったという、意外性で読ませる文章です。「人は悲しい時にもおなかがすくものだ」という感慨はリアルな発見ですね。
 高野幸祐さんの「身勝手な男」は、その飄逸さが素晴らしいと感じました。アパートの1人暮らしの無聊を慰めようと買って来たグアバの鉢植えが伸び過ぎてしまい、グアバからどうするつもりだと問われて、困惑している心境が書かれています。

(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

懐かしの母校

2012-09-15 17:37:36 | はがき随筆
 母校の静岡県立磐田南高校(旧見付中学)の正門を45年ぶりにくぐった。壮年期は仕事に追われ、青春を懐かしむ気などなかったが、老いの兆しが見え始めて気持が変わったのだ。土曜日の午後とあって後輩たちは校庭狭しと、スポーツ練習に励んでいる。女子生徒はまるでモデルのような容姿。「あの土手に整列して応援練習をしたんだよ。『覇気あるか?』『オーッ』てね」と妻に話して聞かせる。バスケ部の女子に思いを告白した体育館もそのままだ。「こんにちはっ!」。男子生徒のすがすがしいあいさつに心を満たされて、母校を後にした。
  霧島市 久野茂樹 2012/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

花火大会

2012-09-15 17:09:38 | はがき随筆


 今年は雨の日が多く、花火大会はお盆過ぎに延期された。
 夜空に「ドーン」と爆発する豪華な花火絵巻。感動する大観衆。炎の精はご先祖の送り火となり、現世の人々は心の憂さを晴らす。
 お盆のさなか急死され、霊界へ旅立ちの知人。病気、入院宣告で手術を指摘され、その深刻さに立ち向かった人たちのことを思うと胸が痛む。訃報は順番を待つかのごとく次々と。この避けられない現実。宿命はいかんともしがたい。
 間断なく打ち上げられる花火。フィナーレ。夜の静寂。余韻は夢の中へ。
  肝付町 鳥取部京子 2012/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

音楽祭

2012-09-15 16:54:48 | はがき随筆


 この夏、甑島での「甑の風音楽祭」は深く心に残った。
 甑島への船中で、うれしいことに「ルヴール」という関東の大学の混成音楽グループの音楽祭に誘われた。
 里公民館で、まず小中学生の演奏。緊張していたが見事。ひときわ大きい拍手が鳴った。ルヴールの混声合唱・オーケストラの「明日があるさ」などの演奏は、若々しく澄んだ音でさすがに素晴らしい。
 約200人の一般の人も交えた聴衆は、音楽と交流の喜びに惜しみない拍手を送っていた。
 カノコユリが咲く甑島の音楽祭、甑の希望の風よ強く吹け。
  出水市 小村忍 2012/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載