岩国市 会 員 吉岡 賢一
酒のさかなになるおかずが並ぶと、うれしそうに冷や酒とおちょこをそろえチョコンと目の前に座る母。「あんたもおやりんかー」と相手を求めてくる。晩酌の習慣が全くなかったその頃の私は、付き合うこともなかった。息子と酒を酌み交わすという、老いた母のささやかな楽しみを心ならずも奪っていた。
晩酌の心地よさを覚え、歯にしみとおる酒の味を楽しんでいる今、ちょこの向こうに母の笑顔が見え隠れ。「すまんかったねー」と今更ながらわびの言葉が頭をよぎる。「遅いよ」などとは決して言わない母。間もなく祥月命日。
(2012.11.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載
酒のさかなになるおかずが並ぶと、うれしそうに冷や酒とおちょこをそろえチョコンと目の前に座る母。「あんたもおやりんかー」と相手を求めてくる。晩酌の習慣が全くなかったその頃の私は、付き合うこともなかった。息子と酒を酌み交わすという、老いた母のささやかな楽しみを心ならずも奪っていた。
晩酌の心地よさを覚え、歯にしみとおる酒の味を楽しんでいる今、ちょこの向こうに母の笑顔が見え隠れ。「すまんかったねー」と今更ながらわびの言葉が頭をよぎる。「遅いよ」などとは決して言わない母。間もなく祥月命日。
(2012.11.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載