はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

どこにも居る顔

2014-07-06 23:35:59 | 岩国エッセイサロンより
2014年7月 6日 (日)


岩国市  会 員   金森 靖子

 園芸店で胡瓜の苗を選んでいる時、「こんにちは」と知らない女性に声を掛けられた。ニコニコと笑っている。私も笑顔で軽く頭を下げたが、誰だか思い出せない。しばらく顔を見つめ合っていたが「ごめんなさい。知っている方と間違えました」と、深く頭を下げ帰って行かれた。ふと笑いが込み上げる。
 今まで何人の人に間違って声を掛けられたことだろう。よく行く郵便局では、ガラス越しに話しかけるような笑顔をしてくれる男性局員さんがいた。また、病院の待合室で。信号を待つ間の向こう側で。挟いこの街に、私は何人も居るようだ。
 (2014.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

希望の星

2014-07-06 06:37:22 | はがき随筆


 僕は2歳半の男の子。朝は誰よりも早く起きて、パパやママの枕元をチョコチョコ歩き台所へ。食べ物はここだと思うが、何も見つからない。おなかがグウグウ鳴る。流し台には顔も届かず、冷蔵庫はしっかり閉じられている。じいじが僕を見に来た。「何しているの、もう夕べの食べ物は残ってないよ」。「あーあ、つまらない」
 今のところ、食べることしか頭にない。「それにしてもママもグウグウ寝てるな」
 起きていても何も出来ないから、また布団の中へ潜り込もうっと。それでも、僕は皆にとって希望の星であるらしい。
  肝付町 鳥取部京子 2014/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載


私のサポーター

2014-07-06 06:17:30 | はがき随筆


 6月のある朝。腹部手術後間もない私はリハビリのため、じとじとと降る雨の中を傘を差して散歩に出た。
 雨はますます強くなってくる。雨の音で重たくなった傘を握り締め歩く私の足が止まった。「もう駄目だ」と先の方を見ると、紫色の大きなアジサイの花が五つばかり雨にたたかれて揺れていた。よく見ると、そのアジサイが「頑張れ、頑張れ」と首を振っているではないか。
 そうだ、アジサイの花言葉は「耐える愛」だったはずだ。私は背中を押されたような気がして、手術の後を手で押さえながら、一歩前に進んだ。
  鹿児島市 紫原 野幸祐 2014/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載