はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

竹取物語

2014-07-26 20:56:22 | はがき随筆
 4月に竹の子を食べ、5月にちまきを食べ、さて6月も過ぎた。
 7月は、竹のメイン行事である七夕さんだ。
 幼い頃、長い真竹を庭先に立てた。
 七夕には願いを書いてつるしたものである。
 最近は幼稚園などに七夕さんが立っている風景はほほ笑ましいくもある。
 さて、自分は竹林に入り、孫のために竹馬の竹、園芸用の苗立てなどに利用している。
 ここは風流に、竹の筒に花を生ける竹取じいさんに変身したい。
  鹿児島市 下内幸一 2014/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載 

ヤモリ

2014-07-26 20:45:10 | はがき随筆
 湯船につかりほっとしていた時、窓ガラスに白い腹、四肢、5本の葉状の指がぴったり張り付いた1匹のヤモリに気付いた。「あら、来たね。今年は遅かったね」とつぶやく。灯に虫が寄ってくるのを待ち伏せてのことだろう。梅雨になると毎年来るので、旧知でも会うような気持ちになる。いつも白い腹側から見ているが、人の話では敏捷で驚くとキーと鳴いて逃げるという。「守宮」の字画からその昔、何だか特別のおぼしめしのあった爬虫類かなと想像した。小鳥や昆虫など、毎年目にしていたものが見えないと気になる。今年もヤモリに会えた。
  出水市 年神貞子 2014/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

夢幻

2014-07-26 20:38:45 | はがき随筆
 潮騒が聞こえてくる。川面一面に潮と共に銀輪が遡上する。下ってくる時はもう色を失っていた。何の稚魚か成魚か知らないが、庭先の数多くのむしろの上で天日干しされた。
 朝はいつも鉄路の響きで目覚めた。蒸気機関車の汽笛が、いつも一定の音で決まった時間に飛び込んでくる。薄墨色の絵の中に田んぼの草いきれの匂いがしてくる。肩が痛い。背中が痛い。妹を負ぶって母を待つ。土手に腹ばいになって涙を隠した。プチプチと頭の中で泡がはじける音がする。今日も数㌔先の新港に入港するフェリーの汽笛が定刻に耳に届く。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

梅ちぎり

2014-07-26 15:55:50 | はがき随筆


 子供の頃、夏になると、よくおなかを壊した。祖母は自家製の梅肉エキスをなめさせたが、酸っぱい味は今も忘れない。
 今年も友人の梅林に呼ばれた。畑は40年前、和歌山から取り寄せた苗木が50本の梅林と変わり、枝もたわわに実をつけている。夢中で梅をちぎると、すぐバケツ3杯ほどになる。持ち帰ると妻が梅干し、梅酒、ジャム用にと手際よく仕分ける。
 「桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿」という。毎年梅を収穫するには枝の切り込みは欠かせず、友人は手入れが大変である。昨年仕込んだ梅酒が熟成した。今夜は氷で割って乾杯しよう。
  鹿児島市 田中健一郎 2014/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載 

梅雨の晴れ間

2014-07-26 15:49:49 | はがき随筆
 雨空の下、高速道路を北上する。かねてよりの計画で、娘との2人旅。実家の母親に会いに行く。1年ぶりの母は白髪で、足腰もすっかり弱っていた。重ねた手を離さず涙があふれ、「よく来たね」と何度も。病に倒れた弟を案じ、気弱になっている。弟嫁は自然に振る舞う。「できることは何でもしてもらっています」と笑顔。「食欲もあり、作りがいもあるんですよ」と手料理での接待にも、心がこもっている。聡明で見事なお嫁さんに頭が下がる。弟を見舞い、その日のうちにUターン。翌日は雲が切れ、青空がのぞき、梅雨の晴れ間が広がった。
  出水市 伊尻清子 214/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

掌編小説

2014-07-26 15:42:45 | はがき随筆
 「掌編小説」という言葉を知った。ごく短い小説という。
 第13回毎日はがき随筆大賞受賞作品「葦笛」がそれで、直木賞作家の古川薫さんが審査で絶賛された。
 パソコンで掌編小説を調べたら、字数に制限がある。単独の物語として完結する、とある。そう知ればなるほどと思う。葦笛は私の好きな作品だ。
 枯れ葦の荒野に80余年の生きざまを重ね、悲しいまでの無欲の境地。「春が来れば土を起こし、また新しい種をまくのだ」と希望を持つ。
 涙さえにじんで何度も声を出して読んだ。
  鹿児島市 内山陽子 2014/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

この子らの未来に

2014-07-26 15:35:56 | はがき随筆
 毎日新聞の社説「集団的自衛権 閣議決定に反対する」(7月1日付)。そして、「歯止めは国民がかける」(同2日付)の力強い言葉、集団的自衛権行使容認に対しての。
 子や孫、そしてこれから生まれてくる子供たちに、私たちは何を手渡せるのだろう。
 週末に鹿児島から電車で来る小4と小1の孫たちとサイクリングをしたり、原っぱでおにぎりを食べたりする。先週など、庭の大木の上で宿題を広げていた。2人とも眠って、終点まで行ったことも。
 この子たちが大人になってもかわらない日本を願う。
  薩摩川内市 馬場園征子 2014/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載