はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ああ7月

2015-07-14 21:40:04 | はがき随筆


 カレンダーをめくった。7月だ。6月半ばから時に逆らわず、雨の中パイナップルセージがぼつぼつワインレッドの花をつけはじめた。14日は娘の誕生日。あの年も梅雨が永羽島崎の山々は雨きりがかかり続けた。 
彼女は昨年から緊急にアルバイトを始め、3年目を迎えた。長男を大学に、次男を高校に毎朝三つの弁当を作り続けて何年になるのかしら。夫の分もずっとわが家製のものである。そのうえ昨今は私の昼のおかずも届けくれる。元気にこれからも日々過ごすことができますように祈念のはじまり、今年はバラをおくろうかな。
  鹿児島市 東郷久子 2015/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

紙風船

2015-07-14 21:38:54 | はがき随筆


 愛用のペンシルが見あたらず、机の引き出しを捜す。奥に折り畳んだ紙風船を見つけた。
 少年の頃、行商の薬売りから宮下に紙風船をもらったことを思い出す。弟とポーンと打ち合って遊んだ。遊び飽きたら、紙風船を手でたたく。パーンと鳴り破れた。弟もまねしてパーンとならす。間髪を入れず、母にもったいないと叱られた。
 今、庭に出て紙風船を膨らませ、手のひらでポーンと宙に浮かす。赤、青、白、黄の色柄は薫風に揺れ下りてくる。手で受けてたたく。パーンと破った。もう一度母に叱られたくて。音は空に吸い込まれた。
  出水市 宮路量温 2015/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載