はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

忘れ得ぬ人

2015-07-17 23:03:25 | はがき随筆
 50年ほど前になるだろうか。
 狭い田舎道でバス同士が鉢合わせしてしまった。女声乗務員が笛で誘導、バックして無事にすれ違うことができた。
 その直後、美しい小浮いょ目にした。 
 運転手が女性乗務員の乗車したことを確かめてバスを発車させただけのことだけれど、彼女を気づかう彼のさりげない支線の奥にやさしさが透けて見え、「これぞ男!」と心打たれた。
 男らしさは、やさしさに裏打ちされてこそ輝く。
 ハンドルを握る運転手さんの頼もしい後ろ姿がいまも心の目に焼き付いている。
  鹿屋市 伊地知咲子 2015/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載


ネジバナ

2015-07-17 22:38:31 | はがき随筆


 母の祥月命日に墓参した折、水場付近でネジバナを見つけた。そぼ降る雨に、ピンクの花列も鮮やかに咲いている。辺りの風景を損ねない程度に摘んで帰った。
 山野草図鑑によると「ラン科ネジバナ属の多年草、別名モジズリ」とある」小花をよく見ると、確かにランの花に煮て優雅である。
 モジズリから百人一首の「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆえにみだれむと思う我ならなくに」という歌が思い浮かび調べてみた。すると源氏物語の光源氏のモデルとされる河原左大臣の歌と知り、学生時代を思い出した。
  鹿児島市 斉藤三千代 2015/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載


大山木

2015-07-17 22:37:51 | はがき随筆


 「泰山木(大山木)モクレン科の常緑高木、高さ10㍍以上になる。初夏枝先に強い芳香のある白い大輪の花が咲く」と辞書にある。この花を知る人は少ない。高い木の上で空に向かって咲くため、地上からはわかりにくい。
 初夏になると会いに行っていた。去年、知人の庭にあるとのことで〝懇願〟し、今年も届けて下さった。ゆっくりと大輪の花びらが開いていく。息をひそめてみつめる。大輪の花もミゴトだけど、私は、この花の香りに魅せられている。今日一日、部屋中香りに満たされ、私は私服の世界に入っていく。
  鹿児島市 永野町子 2015/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

動 く

2015-07-17 16:13:36 | 岩国エッセイサロンより
2015年7月17日 (金)

  岩国市  会 員   樽本 久美

 両親の介護をしている私が、父に「病気には音楽療法がいいよ」と先生がいっていたよと話した翌日、父がアコーディオンを引っぱりだしてきた。デイサービスに行きたがらない父がとった行動は、特技のアコーディオンで、指の体操をして、デイサービスで演奏をするとのこと。一石二鳥だ。「やったあ」。今まで何度もデイサービスに行ってと頼んでもウンともいわなかった父が、自分から動き出した。83歳まだまだ大丈夫。何度も三途の川を渡りかけた父。もう少し時間がありそうだ。「私のできることは何でもするね。お父さん」。楽しみができたね。

   (2015.07.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

届いてますか

2015-07-17 16:12:37 | 岩国エッセイサロンより
2015年7月16日 (木)

岩国市  会 員   森重 和枝


 私の一日は、手紙を書くことで終わる。400字びっしりが2枚になる時もある。
 61歳で急逝した夫宛てに、書きだして18年になる。定年を前にUターンし、義母と同居した直後だった。想定外の状況になった後は、お互いを思いやる余裕はなく、不安と寂しさで泣きながら書いた日もあった。息子を先に送った母の悲しみは、私以上だと思えるようになったのは、隨分後になる。
 残された者同士、仲よく暮らそうと頑張ってきた私の記録でもある。義母も、夫の分まで生きてくれるようで、100歳になる。今夜も、彼岸の人に出す。
   (2015.07.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載