はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

うまく巻けない

2016-06-10 05:45:52 | はがき随筆
 娘とランチに出掛ける。お店の2階はおしゃれなたたずまいでリッチな気分になる。運ばれてきて前菜、ピザとたっぷりチーズのパスタ。「うわー」と、私は少々興奮気味なのにパスタがうまく巻けない、もどかしく思いながら娘の方をチラッ。いとも簡単にくるくると……。
 おぼつかない手付きで巻きながら、なんとか口へ運ぶ。濃厚になっていく胃袋はもう限界。「無理しなくてもいいのよ」と、娘は会計をすませてくれた。感謝の気持ちで2人は店を出た。
つつじ咲く母娘のランチ盛り上がり
 鹿児島市 竹之内美知子 2016/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度

2016-06-10 05:38:13 | はがき随筆
 はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)

【優秀賞】12日「ミルク」塩田幸弘=出水市下知識
【佳作】21日「贅沢日和」堀美代子=姶良市加治木町
▽24日「地震と夫婦の会話」本村守=湧水町木場


 「ミルク」は、孫がかわいくてたまらない。熊本地震のときも、孫のためにミルクの買い出しに走り、4本だけ残っていたのを買い占めようとして、ハタと気づいて2本だけにし、どこかの赤ちゃんのために2本残した、という心温まる内容です。このような優しい思いやりが、私たちの社会の秩序を守っていると、つくづく感じます。
 「贅沢日和」は、華やかにキラキラ光っている文章です。贅沢日和と書かれた卵形の弁当箱を食器棚から見つけた。早速、料理をつめて花見に出かけ、夜桜の下で、仲間たちと交歓の宴を楽しんだ。弁当箱の形状と色合い、料理のとりあわせと色模様、夜桜の淡い香りなどが、文章の効果を引きたてています。
 「地震と夫婦の会話」は、熊本の震災は鹿児島でも心配で、とくに老夫婦には不安が高まります。壊れた場合、立て替えなどできないと、嘆かれる奥様に「タッゴランの家」で暮らせばよいと慰めたという内容です。方言で、藁葺き、丸太柱、竹の床造りの家をいうようですが、考えれば終戦後はそのような生活でした。まずは、生き残ることだというのは実感です。
 この他に3編を紹介します。
 竹之内政子さんの「孫台風」は、お孫さんは、遊びに来たときに留守だと機嫌が悪い。元気そのもので、台風のようにやってくる。遊びの相手で疲れ果ててしまうのも、台風襲来に似ている。孫の話題は多いのですが、台風への見立てがいいですね。
 武田静瞭さんの「サル年はクル年?」は、色彩のある夢を見るが、正夢はほとんど見ない。それが、娘さんが里帰りする夢が実現しそうで、来るのが待ち遠しい。語呂合わせが洒落ている文章です。
 山下秀雄さんの「図書館」は、図書館の話題は珍しく、それだけ利用者が減ったのでしょうか。充実した清潔な施設も満足できるが、それ以上に係の人たちのあいさつが快い。図書館が文化の向上の役割だけでなく、あいさつを通して人の和を保つことにも効果を上げているという内容です。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦