はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

日々楽しむ友

2017-10-04 15:56:54 | 岩国エッセイサロンより
2017年10月 4日 (水)
   岩国市   会 員   林 治子

 百日草が生き生きと描かれた絵手紙が届いた。どなたから、と思わず差出人を確かめる。しかし、名前だけでは顔が浮かんでこない。
  「あなたの絵手紙を新聞で拝見しました。この頃、同窓会にはお出掛けではないのですね」。添え書きがあった。それで分かった。高校時代、仲が良かった友だちだ。
 声を聞きたくなった。急いで受話器を握り、電話をかける。呼び出し音が長い間続く。なかなか出てくれない。大きなお屋敷かも、と想像をたくましくしながら待つ。もう切ろうかと諦めかけた時、「もしもし」と細く優しい声がした。「あなたの絵手紙を偶然、新聞で見つけたのよ」から始まって、しばらく思い出話が続いた。
 今は1人暮らしで、24時間全部が自分の時間だという。 「お金も自由にたくさん使えれば、なおいいのだけど」 
 ふふふ、と笑って彼女は言葉を続ける。
  「1人で何でもするのよ。洗濯、掃除、買い物、料理。時間はかかるけれど、とても楽しいのよ」
 聞いていて、うらやましかった。―人で身の回りのことをこなす方は多いが、楽しんでしているとなると、どうだろう。嫌々、あるいは仕方なくしている人も少なくないのではなかろうか。
 日々、楽しんでいるなんて最高だ。見習わなくては。

       (2017.10.04 中国新聞「こだま」掲載)

風も街の景色

2017-10-04 15:52:49 | はがき随筆
 鹿児島では真夏日に近い日が続く8月下旬、新潟に出張した。仕事先の会場から、夕食場所の繁華街まで通りを散策。
 今は全国どこもおなじような街並みになっているが、よく見ると南国鹿児島にはない景色が。車両用信号機は、欧米風の縦型。豪雪に備えてだろう。外国人旅行者用に米・中国・ハングルの案内板を目にするが、新潟はそれに加えロシア語も。
 夕方の涼しい風を受けて、30分ほど歩いた。汗かきの私なのに湿気がなく、ほとんど汗をかいていない。時間の関係で観光に行けなかったが、一足早く秋の「風」を満喫できた。
  高橋誠 鹿児島市 2017/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

ハンセン病患者に

2017-10-04 15:45:57 | はがき随筆
 ハンセン病のNHKドキュメンタリーを視聴した。80代の患者は穏やかな風貌。歩みも不自由ない。左目が少しつぶれかけ、やけどの痕のように感じた。ハンセン病にかかったのは生後と言う。世の偏見や根拠のない差別に苦しみ、長期間奈落の底に沈んだ。日々のありのままをつづり、原稿用紙に好きな小説を執筆した。日ごろの趣味の随筆に興味津々と感慨無量。夜の晩酌では一匹の子犬が戯れる。天岩戸の扉に一筋の神々しい光が差す。生命のある限り一日一秒の今を生きよう。人の心を温め支える犬。砂漠にみなぎる力の泉が湧く心情だ。
  姶良市 堀美代子  2017/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

約束

2017-10-04 15:38:59 | はがき随筆
 母が「お茶にしよう」と私の好物の芋テンプラを持って縁側にきた。出水駅の発車ベルが聞こえ、上りの汽車が黒煙を出して動き出している。汽車を目で追う母が、高校卒業したばかりの私に「たばこは吸わないこと。百害あって一利なしだ」と。「分かっている」と軽い返事に母は間髪いれず「体に悪いし、お前が吸ったら弟もまねをする」と言う。母の茶わんに私の茶わんを当てる。カチッと約束の音がした。以来、母は逝き、汽車から電車へ、禁煙から受動喫煙対策へと時代は流れたが、私は一本もたばこを吸っていない。弟は禁煙に成功している。
  出水市 宮路量温  2017/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

わが街

2017-10-04 15:31:51 | はがき随筆
 わが街は、霊峰・紫尾山と矢筈山それに阿久根市との境・三笠山に囲まれた、鶴も来る街。
 パラオから引き揚げ、独立して終の住み家を建てた街。小・中・高と学び、高校卒業まで、父母に育ててもらった街。
 弟妹と背比べして古い傷のついた柱もあった、今は亡き父母の廃屋のあった街。
 子どもも2人育ち、妻と生涯を暮らす街。
 作詞曲「ふるさと出水」を教え子に歌ってもらった街。
 うなぎ獲りをして遊んだ米ノ津川が流れる街。
 数え切れぬほどの恩愛を受けた街。あぁーわが街、出水市。
  小村忍  出水市  2017/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載