はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

言えなかった言葉

2018-04-03 18:39:42 | はがき随筆
 お隣に時々赤ちゃんがやってくる。ママが用事のある日におばあちゃんに預けられるのだが、毎回決まって大泣きする。それは10分、20分と続き「まるで虐待しているみたいだよね」とおばあちゃんは困惑顔で言う。
 私も子育て中は母によく応援を頼んだ。夜泣きする息子の面倒も母がみてくれた。当たり前のように甘えていたが、母は大変だったんだなと今になって思う。
 お隣から「お世話になりました。ありがとうございました」とママの声が聞こえた。胸が痛んだ。私は母にお礼の言葉も感謝の気持ちも伝えなかった。
  熊本県天草市  岡田八千代  2018/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載

ナデナデ儀式

2018-04-03 18:19:33 | はがき随筆


 猫のイークンが帰宅、取り付けたばかりの猫用出入り口にもすっかり慣れた。食事を済ませてから、パソコンに向かっている私の横に来て、背中をこちらに向けて横になる。耳の後ろあたりの後頭部を撫でてもらうのがお気に入りなのだ。これがイークンと私の主なスキンシップとなった。これまでは朝4時ごろ私がトイレに起きるのを待って、ガラス戸を開けさせて外に出ていたのだが、最近は起きると既に外出している。それがなくなってみると何となく物足りない。この日のナデナデ儀式が終わったイークン、自分のベッドに入って寝息を立てている。
  西之表市  武田静瞭  2018/4/2  毎日新聞鹿児島版掲載

桜花

2018-04-03 17:57:56 | はがき随筆
 真っ青な空に貼りつくように咲いた綾馬事公苑の満開桜。木の上での役目を終えた一輪一輪は、そのままの姿で下の芝生に落花。その花たちがいとおしくて、たくさん集めて家へ連れ帰った。
 緑色の大鉢に水を張り、一輪ずつそーっと水面いっぱいに浮かべる。新芽のアイビー数本を加えると、水に実を委ねた花たちは、気持ち良さそうに左右にリズムを取り始め、うす紅色の花芯が際だってくる。
 短い命の間に、私たちの暮らしに彩りを添えてくれる桜。その花たちに来年の春も会いたい。
  宮崎市 四位久美子  2018/4/1  毎日新聞鹿児島版掲載