私が小学6年の昼下がりだった。町内のサイレンが鳴った。車庫から消防車が出る。3分もすると団員が7人駆け付けた。消防車が走り出したそのとき、1台の自転車が猛スピードでやって来た。
「父ちゃん、そんボロ雨靴ではよか仕事がでけん。こん新品を履いて行っきゃい」と母ちゃんは、消防車の荷台の父ちゃんに、新品の雨靴を投げ上げた。そのとき、集まった人々の中から「持つべき者は母ちゃんじゃねー」と、褒めたたえる声がした。その声が終わると同時に、サイレンの音までかき消す拍手が沸き起こった。
出水市 道田道範 2018/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載
「父ちゃん、そんボロ雨靴ではよか仕事がでけん。こん新品を履いて行っきゃい」と母ちゃんは、消防車の荷台の父ちゃんに、新品の雨靴を投げ上げた。そのとき、集まった人々の中から「持つべき者は母ちゃんじゃねー」と、褒めたたえる声がした。その声が終わると同時に、サイレンの音までかき消す拍手が沸き起こった。
出水市 道田道範 2018/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載