はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ヒツジと散歩

2018-04-23 23:49:29 | はがき随筆


 春休み、孫と阿蘇ミルク牧場へ。ヒツジとお散歩体験ができるという。
 やってきたのは先ほどの「わくわくレース」でビリだったこうめちゃん。安心した孫娘2人で綱を引くが、こうめちゃんは草を見つけては、もぐもぐタイムの始まりで歩こうとしない。
 「ばあちゃん! 動かない」。ここは腕の見せどころと、首の近くを持って「おいで」と強く引くと歩き出した。歩きながらフンをしたり、おしっこをかけられそうになったりしながらも無事に終える。
 犬を飼いたがっててる2人によい経験になったようだ。
  熊本県宇土市  岩本俊子  2018/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

閉校記念式

2018-04-23 23:43:49 | はがき随筆
 3月に母校の閉校記念式に参列した。式典はまず全校児童43名の合唱から始まり、児童2人が切々と感謝とお別れのことばを述べて、会場の涙を誘った。
 午後のお別れ会では、高校生の和太鼓の演奏と、卒業生の歌う書道家・内村明日香さんが登場した。彼女は舞台で大きな紙に梅の花と「翔」の文字を大書し、子供たちの門出と成長を願うパフォーマンスを披露した。
 村や町や市に変わり、統廃合によって147年の歴史ある母校が消えてしまうのは寂しい。参列者の顔にも無念さが表れており、雨の中を何度も振り返りながら母校を後にした。
  鹿児島市 田中健一郎  2018/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

旅情

2018-04-23 23:32:37 | はがき随筆


 十数年前、義妹夫婦の招待で草津白根バスツアーの旅へ出掛けた。
 大阪から新幹線で名古屋まで駅前で出迎えてくれたバスに乗り、一路目的地へ向かう。信濃路に入ると、南アルプスの山脈が彩りを添える。街中から山へ抜ける雑木林の白樺が目に留まった。草津の小学校に通っていた頃の心に残る白樺林が浮かんだ。亡夫は、初めて見るこの木に目を輝かせていた。
 道中、八ケ岳が見える白樺湖で、ひとときのティータイム。清んだ青空に白樺の木立が似合う。この風景に、遠い日の花言葉を思い出させてくれた。
  宮崎県延岡市 島田葉子 2018/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載

村祭り

2018-04-23 23:23:50 | はがき随筆
 春はあちこちの神社で祭りがある。朝から笛や太鼓が鳴り、のぼりがはためいてウキウキした。
 子供の頃、親から小銭をもらい、ぎゅうっと握りしめて走った。参道の両側に露店が並んで、どの店からも威勢のいい呼び込みの声がしていた。何を買うか値段と品物を比べるが、なかなかない。人ごみの仲をくぐり抜け、行き来して探した。やっと探し当てたときは足が棒になったが喜んで帰った。
 祭りは子供の頃の唯一の楽しみだった。暦をめくって祭りの日を見つけると、遠い遠い昔がしのばれてきた。
  鹿児島県出水市  畠中大喜  2018/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

つくしんぼ

2018-04-23 23:15:09 | はがき随筆


 暖かい日差しに誘われるように、夫と日課のウオーキングに出かけた。近くの畑を30分かけて一周する。畔に目を凝らしながら歩いていた夫が「あった!」と声を弾ませる。ぽつぽつと、つくしんぼの細い茎が3本顔をのぞかせていた。
 土筆はスギナの地下茎から胞子茎で伸びる。毎年同じ場所に出てくるのもそのためだという。子どもの頃は、摘んで帰ると母が袴を外し、油で炒めて砂糖と醤油で味付けしてくれた。ほろ苦く、早春の味だった。
 今は農薬が心配で摘まない。風に揺れるつくしが私たちを憐れんでいるようにも見えた。
  宮崎市 河上久子 2018/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

雑草とり

2018-04-23 22:50:18 | はがき随筆
 


大して広くない庭だが、一面に雑草が生い茂って繁殖力のすごさに驚かされる。
 天気は良いし、爽快な気分にかられて草とりを始めた。ハコベやスギナなどは分かるがハート形の草や黄色い花は何という草だろうか。どこからか種が飛んできて定着したのだろう。ホウレン草やカラシ菜などの野菜だったら歓迎するが、ただの雑草は迷惑至極だ。
 30分ばかり取っていたら腰や太ももの痛みに耐えきれなくなって中止した。翌朝階段を上り下りするのに太ももが痛かった。気分は若くても寄る年波には勝てないなあ。
 熊本市東区  竹本伸二 2018/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな包み母へ

2018-04-23 22:44:13 | はがき随筆
 結婚して間もない頃、母から小さな茶色の小包が郵便で届いた。開封すると、なんと愛らしい前掛け(エプロン)だった。きっと特技のない母が縫ったんだろう。早速身につけて姿見を見ると、まるでお穣さんみたい。新婚奥様気分に浸った。家事全般に熱中し、いっときの遊びもない母の心づかい。時間を費やして縫ってくれた。感慨無量。「お母さん、永遠に長寿でいてね」と短文だが母の元へはがきをしたためた。縫い目が不ぞろいでも上等。小さな包みでも愛は夢いっぱい宇宙いっぱい、みちあふれている。
  鹿児島県姶良市 堀美代子  2018/4819 毎日新聞鹿児島版掲載

舞台

2018-04-23 22:38:06 | はがき随筆
 音楽が終わり暗転、そして照明が当たると同時に私の登場により物語が始まる。
 参加している市民劇団の公演。何回挑戦しても足は小刻みに震えるが気付かれないように演じる。小劇場式なので観客席がかなり近い。知り合いと目でも合おうものなら頭の中が真っ白になる。集中あるのみ。
 相手役の役者さんのおかげでテンションが上がって来た。今までいつも緊張ばかりで納得できないまま終わっていたのだが、今回は違う。何だか楽しくなって来た。
 うーん、もう少し続けられそうかな……。
  宮崎県角川町 黒木和子  2018/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

花のあとに

2018-04-23 22:20:03 | はがき随筆


 雨上がりの木々の若葉は、心まで洗われるようにみずみずしく美しい。
 「わあ、可愛い」。どなたか種をまいてくだったであろうタンポポロードに出会えた。
 バス停横の歩道のアスファルト脇に鮮やかな黄色のタンポポがパーっと手のひらを広げたようにどこまでも続く。足元に目がいってなかなか進まない。
 バスの運転手さんが時間調整のため外に出て一服。
 老いのノルマと思ってやっと腰を上げた今回も、元気と素晴らしい風景をいっぱいいっぱいもらって「ただいまー」。
  熊本市東区  黒田あや子  2018/4/19  毎日新聞鹿児島掲載

断捨離

2018-04-23 22:14:26 | はがき随筆
 5年日記の4月の予定欄に昨年「断捨離」と今年の申し送りとして書いていた。
 69歳で急死した義母は、料理、掃除、編み物など何でもできるスーパー主婦であった。中でも片付けはすごかった。部屋にはテレビ、テープル、椅子だけ。他は全部押し入れにきれいに収納されていた。一番驚いたのは南側にビルが建ち日当たりが悪くなると、自分の嫁入りたんすを惜しげもなく処分し、押し入れをつぶし硝子戸に替え、光を取り入れたことである。
 さあて、私は70歳を前に早めに断捨離に取りかかったが、少しはスッキリなるかな。
  熊本県八代市  今福和歌子  2018/4/19  毎日新聞鹿児島版掲載

脚力

2018-04-23 22:07:40 | はがき随筆
 先だった70過ぎの友人と歩くことがあった。彼と歩調を合わせるのに息切れがしそうだった。彼は何度も待っていてくれた。脚力の差は歴然、情けない。しかし年のせいばかりでもなさそう。幼い頃から膝が悪かった。中学時代教練強行軍があり、痛い足をひきずって難渋したのだった。定期的に卓球をしているが、仲間は私の足には接着剤が付いていると言う。
 しかし同年配の人がおぼつかなく歩いているのを見ると、俺はまだいけるとかすかな優越を感じることもある。
 ともあれ天国へは歩いて行きたいものである。
  鹿児島市 野崎正昭  2018/4/17  毎日新聞鹿児島版掲載

ビロードの手提げ

2018-04-23 21:58:08 | はがき随筆
 春風にさそわれ、書店へ行く。買い物を済ませ、外に出るが握っていた手提げがない。
 嫁からもらったビロードの手提げで、通帳、保険証、財布全てを入れていた。私自身を証明するものを全て無くした。一瞬たじろぐが気を取り直し交番へ駆け込む。銀行に紛失届に行くが私を証明するものがなく、手続きは難儀したが受け付けてもらえた。ああ、奈落の底へ落ちると言うことはこのことか……。ふと忘れ物の文字が浮かんだ。藁をもつかむ思いで店へ戻った。
 「これですか」。「あった」と叫んだ。手提げは忘れ物預かり室で私を待っていた。
  宮崎市 田原雅子  2018/4817  毎日新聞鹿児島版掲載

桜花らんまん

2018-04-23 21:48:39 | はがき随筆

 マスコミは各地の桜の開花を知らせ心をウキウキさせます。デイケア施設の花見は3月26日、宇土市の立岡自然公園でした。広いため池を活用し二つに分けた公園で周囲の岩に並んだ桜は満開でした。幼稚園の遠足や多くの人でにぎわっていました。私は車椅子に乗り300㍍もあろう池の中央の散歩道に。花のトンネルのなか、介護士の方は汗を流しながら説明してくれて有難さでいっぱいです。
 近くの庭で甘党花見のうたげでした。幸せ最高。快晴、暖かく、花の園、農村の春風に触れ、深い奉仕に感謝して満喫した桜花らんまんの花見でした。
  熊本市中央区 田尻五助  2018/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

霊前に告げる春

2018-04-23 20:59:01 | はがき随筆


 午後2時、足腰を鍛えに散歩する。外は嵐が吹き、高台へ続く階段を、注意して登る。
 広い野原は草木が茂り寒桜の花が満開。つい背のびし、小枝を折り、家に飾りたいと心が弾む。まぶしい日差しを受けて日光浴。その一角にある納骨堂を掃除し、礼拝。墓碑には数十名の命日が刻まれ、現在の私より若い方や幼児数人。天命はいかんともしがたい。78歳、今日ある命に感謝する。落葉樹のこずえに仲むつまじく2羽の山バトが寄り添い、鈴を鳴らすようなウグイスの声に心洗われ帰宅。
 霊前に桜を手向け、春の到来を報告して合掌する。
  鹿児島県肝付町  鳥取部京子  2018/4/15  毎日新聞鹿児島版掲載

心の中の桜

2018-04-23 20:46:27 | はがき随筆


 桜開花が報じられると、冬の厳しい寒さから解放され、穏やかな気分になる。
 子供の頃、熊本城へ花見に行くのが、我家の恒例であった。城内で、母の手作り弁当を頬張り、体中に春の陽光を浴びながら桜を見上げる。桜は輝き、広い芝生も植物も生きる事を謳歌していた。
 現在、天守閣は震災の影響で工事中。熊本の復興が気になる春だ。母は震災前に他界していた。震災を知ったら、腰を抜かして悲しむであろう……。
 今、我が家近くの公園の桜を眺めながら、心の中のふる里の桜と重ねる。
  宮崎県延岡市  源島啓子  2018/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載