はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蛍狩り

2018-07-06 14:28:18 | はがき随筆


 「お母さんが歩ける内に」と最近娘たちが仕事の合間にあれこれ計画をたててくれる。今回は蛍狩り。行き先は古里、田野町の八重という集落。案内して下さるのは何と都会から移住されたというSさん。私より古里のことに詳しくて恐れ入った。
 辺りが暗闇に包まれ、かじかの合唱が響き渡る頃小川の岸辺でピカッと光った。「来た!」と大声を挙げた私。それを合図に黄色の光の乱舞である。古来人の魂にもなぞらえられる蛍の光。古里にこんな蛍狩りのスポットがあったとは……。日常を忘れ幻想の世界を愉しんだ。
 娘たちに感謝の蛍狩りの夜。
 宮崎市 松尾順子(86) 2018/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

雷様

2018-07-06 14:21:07 | はがき随筆


 「ピカッ、ごろごろごろ、ドッカーン」
 けたたましい雷音で目が覚めた。雷様が、ごろごろごろと音をたてておられる。昔から「地震、雷、火事、おやじ」とはよく言ったものだ。
 おいやめいがまだ小さい頃、雷様をとてもこわがっていた。
 「ぴカッ、ごろごろごろ」と音がすると、耳をふさいで走り寄って来て、こわいこわいと言うので、周りの大人たちはにこにこしながら「大丈夫、くわばらくわばら」とおまじないを唱えながら、おさまるのを待った。なつかしく思い出し、その幸せを祈った。
 鹿児島県出水市 山岡淳子(60)2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

夏の自家菜園

2018-07-06 14:08:49 | はがき随筆


 夫の退職後、甘藷の小さな専業農家となった我が家。5月で植え終わり、収穫までの約2ヵ月間はしばしの農閑期となる。その間、菜園作りに精を出す。
 まずは、甘藷畑の隅の空き地には落花生や里芋を植え今年はこんにゃく芋まで植えた。
 夫が小さな畑を菜園用に耕してくれた。西瓜、ナス、オクラ、百日草等々、毎日の成長を見るのが何よりの楽しみだ。
 大好物の西瓜の太る様は、目を見張る。朝晩見ていても飽きない。カラスが狙っている。雑草が次々に出て来る。困難も多いが、収穫や喜びの大きい夏の菜園におのずと足がむく。
 宮崎県串間市 島田さつき(64) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載



じきたくり

2018-07-06 13:55:38 | はがき随筆
 肥後狂句の8月の笠に「じきたくり」が出た。意味がわからないので、体操教室のSさんに尋ねた。「じ・き・た・く・り」とはっきり、ゆっくり言った。Sさんはわからなかった。
 次にAさんにも聞いてみた。Aさんはしばらく考えて「じかにということだろう」と。泥付きのイモを人にやる時「じきたくりばってん」と言ったりするとか。それを聞いていた先ほどのSさんが「立石さんが言うとわからんかったけど、Aさんが言ったらわかった」とひとり大笑いしていた。
 方言は、その言い方が大事らしい。
 熊本県玉名市 立石史子(64) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

きれいですね

2018-07-06 13:48:55 | はがき随筆
 めいのKちゃんとランチの席で「おばちゃんの肌きれいですね」「あら! うれしいわ」店内の照明は怪しげに光っている。もしかしてライトのせい?
 つかの間の喜びもあわと消え、ここは笑うしかなかった。
 潤いのない肌がきれいなわけはない。心優しいK子ちゃんの気遣いに感謝する。ミセスの彼女は美意識が高くていつも輝いている。「きれいですね」の言葉にぴったり。「私のはお金がかかっているのよ、ウフフ……」。ありがたいことに彼女愛用の美肌パックを頂いた。若い人に刺激を貰い心も弾む。さて効果のほどは。
  鹿児島市 竹之内美知子(84) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

雨の日の一杯

2018-07-06 11:40:16 | はがき随筆


 ギュイーン、トントン、シャポシャポ。待つこと数分。「お待たせしました。ブラジルです」。カップを手に目を閉じ、まずは香りを。豊かな芳しさに脳細胞がふわりと ゆるむ。次にひと口。一瞬鳥肌がたち、雑味のない軽やかな苦みが広がる。そして舌に残るのはほのかなフルーツの味。日常から離れるため、時折、珈琲店に身を置く。一杯だけのために豆を挽き、丁寧にドリップされる珈琲。プロが淹れるとこんなにも味わい深くなるものなのだ。飲み終える頃には背筋がスッと伸びる。
 外に出ると雨も上がり、薄日がさしてきた。
 宮崎市 四位久美子  2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな背中

2018-07-06 11:32:35 | はがき随筆
 久しぶりに恩師宅を訪ねる。デイサービスやリハビリなどスケジュール一杯だからおられるとうれしいがとおもいながら。
 案の定玄関も窓も施錠してある。「あぁ今日も会えなかった」と言いながら奥の仏間をのぞくと背中が見えた。お昼寝なら声をかけられない。師の小さな背中が寂しいなと胸がせつない。
 1人暮らしをされて何年のなるのか。気ままだろうがきっと寂しいはず。女の子でもそばにいたらと思わずにはいられない。
 いずれ誰でも一人になるが、その時自分はどうしているか。ケセラセラ? むずかしい。
 熊本県八代市 鍬本恵子(72)2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

熊本大空襲

2018-07-06 11:25:08 | はがき随筆
 けたたましいサイレンの音。空襲警報だ。数分とおかずに「ドドン」「ドドン」と爆発音。西の空が真っ赤に染まる。突然、間近でボーンと激しい火炎が上がり、隣家が一瞬の間に炎上し、燃え崩れる。私の家も飛散した油脂が屋根や壁に付着して青白い炎を発する。火たたきで消火し、延焼は免れる。
 火災のせいか明るくなった夜空にB29の大編隊。さほど高くない高度で次々と通過していく。そして、ひらひらと青白い布をひいた小型焼夷弾が無数に落下するありさまが望見される。翌朝、市街地の広域、近くの歩兵連隊兵舎大半の焼失を知る。
 熊本市中央区木村壽昭(85) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

老いの人生

2018-07-06 11:16:16 | はがき随筆
 ピンピンコロリ。この言葉、一時老人たちの間でよく言われておりました。まあ私も何となく聞いてはいましたが、自身が86という年になり、身体のあちこちにガタがきて、ほんとにころりとこの世におさらばできたらよいだろうと時々思うようになりました。介護保険は適用がむずかしく、自分の事は自身でと考えてはいますが、なかなかです。
 実際、AI、第4次産業革命とかいわれますから、少子化も進み、若いころ抱いた生活設計も考え直すところにきており、世間に迷惑かけず、残り少ない人生をどうするか考えます。
  鹿児島市 津田康子 2018/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載