2018年7月19日 (木)
岩国市 会 員 片山清勝
岩国市の錦帯橋近くにある吉香公園には、山口県天然記念物「エンジュの木」があった。高さ22㍍、幹回り最大3・6㍍の大樹。野鳥が飛来して、市民に親しまれてきた。
その大樹の根本付近に大きな空洞の所在が分かり、数年以内に枯れ死すると診断され、今春、惜しまれながら地上から3㍍ほどを残して伐採された。
すぐ横には、国指定重要文化財の吉香神社や園内通路がある。多くの観光客や散策の人が行き交うところだ。安全上の観点から伐採は仕方ない。そう思いながらも、うっそうとした大樹のこずえが消え、その後にばっかり開いた大きな空間はもの寂しい。
散策するたび見上げていたら、ある時、大きな変化に気付いた。切り口近くに、柔らかそうな新緑の葉を付けた何本かの小枝が、青空に向かって手を振るように揺れていたのだ。
セレクト「ひといき」で山村智賀子さんの投稿「ツバキよ」を拝読したのは、ちょうどその頃である。
「生き物は子孫を残すため、最期は力を振り絞って頑張るものだ」との一文が胸に響いた。余命を知り自然のおきて通りに新しい枝葉を芽生えさせたエンジュの木の姿を示唆するようだった。私は、命を全うしようとする樹勢に改めて敬意と喜びを覚えずにはおれなかった。
小枝はこの大樹の遺伝子を引き継いでいる。これを2代目「エンジュの木」として育てることを関係者に望みたい。
(2018.07.19 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)