はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

免許証

2018-07-23 06:58:08 | はがき随筆
 


車の運転どうしよう、と悩んでいると「やめてもいいのよ」と妻はつれない。そうあっさり返事されると、未練が残る。教習所に通い始めたのは、確か40代。若い教習生に交じり、何度も憂き目を見た。坂道発進が苦手で、「もう、明日から行かない」と妻にグチッた日もあった。やっとの思いで手にした悲願の免許証なのだ。今日までなんとなく持ち続けられたのは、鬼教官のおかげかも。そう簡単には手放せないなあ。
 近年、高齢者のうっかりミスが多い。妻に「ダメと気づいたら教えて」と頼むと、「なら今返納して」と厳しい。あ~あ。
  宮崎市 原田靖(78)2018/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

エンジュの木

2018-07-23 06:45:48 | 岩国エッセイサロンより


2018年7月19日 (木)
   岩国市   会 員   片山清勝

 岩国市の錦帯橋近くにある吉香公園には、山口県天然記念物「エンジュの木」があった。高さ22㍍、幹回り最大3・6㍍の大樹。野鳥が飛来して、市民に親しまれてきた。
 その大樹の根本付近に大きな空洞の所在が分かり、数年以内に枯れ死すると診断され、今春、惜しまれながら地上から3㍍ほどを残して伐採された。
 すぐ横には、国指定重要文化財の吉香神社や園内通路がある。多くの観光客や散策の人が行き交うところだ。安全上の観点から伐採は仕方ない。そう思いながらも、うっそうとした大樹のこずえが消え、その後にばっかり開いた大きな空間はもの寂しい。
 散策するたび見上げていたら、ある時、大きな変化に気付いた。切り口近くに、柔らかそうな新緑の葉を付けた何本かの小枝が、青空に向かって手を振るように揺れていたのだ。
 セレクト「ひといき」で山村智賀子さんの投稿「ツバキよ」を拝読したのは、ちょうどその頃である。
 「生き物は子孫を残すため、最期は力を振り絞って頑張るものだ」との一文が胸に響いた。余命を知り自然のおきて通りに新しい枝葉を芽生えさせたエンジュの木の姿を示唆するようだった。私は、命を全うしようとする樹勢に改めて敬意と喜びを覚えずにはおれなかった。
 小枝はこの大樹の遺伝子を引き継いでいる。これを2代目「エンジュの木」として育てることを関係者に望みたい。

      (2018.07.19 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

願わくば

2018-07-23 06:39:14 | はがき随筆
 78歳になった。よくぞ今日まで無事に来られたものだと思う。ひとえに亡き母が、食が細くて育てにくかった私を懸命に育ててくれたお陰であり、戦死した父が陰ながら守ってくれたのだろう。結婚してからは夫が支えてくれたし、子供たちを育てていく過程で心身共に鍛えられた。いくつかの手術もしたが、今は何の気になるところもない。
 夫が亡くなってからは、庭木の剪定、庭の草取り、畑仕事と大忙しの日々を送っている。
 私の寿命まで、あと何年残されているのかわからないが、願わくばその日まで晴耕雨読の今の生活が続きますように。
  鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(78)2018/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載