はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

命の洗濯

2018-07-16 22:11:41 | はがき随筆
 爽やかな母さん日和が続いて何かと家事が忙しい。
 あれもこれもと欲深に働いて「疲れたー」と思った頃、熊本在住の長女から電話が入った。「華道展があります。お父さんと見にこない?」あな、嬉し。「命の洗濯に出かけるわ」と言うと「命の洗濯? どおーゆうこと?」と聞く。あれ、初耳? 
「きれいな物を見て気ままに過ごすの」とざーっとした私なりの解釈を伝える。すると娘が噴きだした。「命を洗う? でも、お母さん、そりゃ、大ごとや。慎重にね」と笑い転げている。私はつと耳を澄ませた。ふふ。いいもんだな、娘の笑い声。
  宮崎県延岡市 柳田慧子(73)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

柿の赤ちゃん

2018-07-16 21:45:46 | はがき随筆


 朝柿の小さな実がびっしり落ちている。4枚のヘタの真ん中に四角い先のとがった実がついたままだ。実の先端には黒い毛が少し伸び、二つに分かれて曲がっている。ヘタは4枚ともハート形で、真中が盛り上がって四方に広げて身を包んでいる。実もヘタも黄緑で柿の赤ちゃんだ。こんな小さな命のまま終わるって哀れだ。風雨があるとさらに落ちる。落ちる瞬間も見たいが……。毎朝自然淘汰されて、残った少ない実が柿右衛門が極めたきれいな色になるのだ。自然の営みにただおどめくばかりの朝である。
 鹿児島県出水市 畠中大喜(81)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

おくればせながら

2018-07-16 21:22:18 | はがき随筆


 真夏の太陽背にうけて……。
 歌の文句じゃないけれど、遺影の中の貴男はダイビングスーツ姿で笑ってる。海が大好きでいつも誘ってくれていたのに、私の答えはいつだってノー!
 4年前突然の難病という宣告にどうして? と心がついていけず2人して落ち込みましたね。でも貴男は精一杯頑張りましたね。1人になって7ヶ月、今はまだ心細さに震えています。
 梅雨が過ぎれば暑い暑い夏! 新盆の頃には魚になって、おもいっきり泳いでいるのかな。この夏は海に言ってみようかな。言えなかった〝ビメンナサイ〟そしてありがとう! を伝えに。
 宮崎市 山下弥栄子(75)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

岸井さんをしのぶ

2018-07-16 21:14:04 | はがき随筆
 今朝も「サンデーモーニング」の時間にスイッチを入れたが、岸井成格さんのお姿はもう見られない。知識も記憶も薄れるばかりの私にも、岸井さんの解説は分かりやすかった。森友、加計、そしてアメリカ、北朝鮮。こんな難題いっぱいの時、岸井さんはどんな解説をしてくださったことだろう。飾らない人柄と風ぼうが思い出される。
 初任地が熊本で水俣病のことにも関わったと聞いて一層の親しみがあつた。まだまだお元気でこの世の中が明るくなるよう尽力してくださればと、惜しむ気持ちでいっぱいだ。心からご冥福を祈りつつ。
 熊本市中央区 川口紋子(90) 2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

新たな戦い

2018-07-16 20:54:01 | はがき随筆
 左の背筋から腹筋にかけて激しく痛む。夜になって我慢できずに夜間救急へ駆け込んだ。CTを撮ったあとイケメンの青年医師の丁寧な説明。「どうやら『結石』ですね」。画像には白く小さな点がくっきりと一つ。
 こいつとの出会いは20歳の頃。友人宅に泊った日の朝、訳のわからない激痛に襲われたのだった。あまりの痛みに死ぬかと思った。あれから何度もこいつにやられた。そのたびに私は暴れ、家族や病院に迷惑をかけたのだ。痛み止めの座薬にすがりながら、こいつとの新たな戦いが今始まろうとしている。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(68)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

6歳の優しさ

2018-07-16 20:46:40 | はがき随筆
 法事の日、我が家に皆が集まった。私は何かと忙しく、席を立つ事が多かった。台所にいた時、チョン、チョンと誰かが背中を突っついた。6歳の孫・りょう君だ。「ばあば、お口明けて」と言うと、後手に隠し持っていたチョコを、ポンと私の口に入れた。柔らかくなったチョコが、口いっぱいに広がった。「おいしい」と言うとうれしそうに飛び跳ねた。6歳の優しさが真っすぐに伝わってきた。
 得意げにスキップする後ろ姿がジワーッとぼやけていった。
 りょう君の優しさは、元気の糧となり、「ばあばばか」はまだまだ続きそうである。
  宮崎県延岡市 橋本京子(74)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

幼語

2018-07-16 20:31:37 | はがき随筆


 子育ての途中、子どもが作りだした、的を射た楽しいことばに出会うことが度々あった。
 縄跳びを習い始めたころは「ニワトビ」。縄をくぐることなんかできない。庭に出てピョンピョン跳ぶことが精一杯だった。夏のキャンプでよく遊んだアスレチック公園は「アソビチック」。体を鍛えるより遊びが優先だ。大好きなイチゴは「イチゴベリー」。日本語と英語の単純な組み合わせだが、妙に語感が良い。我が家では今でも使い続けすっかり定着している。
 孫の世話をする年になった。孫の口から新しいことばが飛び出すのを待つ昨今である。
 熊本市北区 西洋史(68)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

政治は最高の道徳

2018-07-16 20:24:09 | はがき随筆
 六十余年前「造船疑獄」と呼ばれた事件があった。当時の自由党、佐藤栄作氏が逮捕されそうになった時、吉田茂首相は法相に指示して指揮権を発動させ、佐藤氏の逮捕を免れた。
 最近の森友学園問題に関する佐川元国税庁長官の不起訴処分を聞いた時、なぜかあの時の指揮権発動という言葉が浮かんだ。安倍、麻生両氏の下で起きた森友・加計学園問題報道に接しながら、政治家が役人を盾として逃げ隠れしているようで見苦しいと感じている。
 「政治は最高の道徳」であるべきとか。同感。
 熊本市北区 園川賢一(83)2018/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

アマリリス

2018-07-16 16:14:00 | はがき随筆







 狭い庭ではあるが日当たりのいいのが取りえ、早々とアマリリスが咲き始めた。
 「きれいですね。いつもここを通るのを楽しみにしています」。買い物帰りの奥さんが足を止める。「ありがとうございます」カミさんは喜色満面だ。
 スーパーは通りの反対側にあるのだが、わざわざこちら側に渡ってきて眺めて行く奥さんも多い。島の人は気さくだ。さっさと庭の中に入って見て行く人もいる。そんなときカミさんの鼻はますます高くなる。
 柔らかい夕日を浴びるアマリリスも、春風を全身に受けて小躍りしているようだった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(81)2018/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

沙羅の木

2018-07-16 15:54:30 | はがき随筆


 雨上がりの裏庭、沙羅の白い花が咲いている。清楚で気品があるが少し寂しい。弟を思う。
 弟は20代、夢を抱き上京、懸命に働いた。45歳で家を建てた時、どこの部屋からも見える庭の中央に沙羅を植えた。どんな思いで選んだのか私は知らない。
 入居して半年、弟は病に倒れ逝ってしまった。それは2月だった。沙羅は枯れてしまっているかのように灰褐色の姿で立っていた。だが、春が来ると芽吹き、葉を茂らせ、白い花を一面につけた。弟の写真のある部屋から義妹と無言で眺めた。
 あれから25年。弟の沙羅は今年も静かに咲いているだろう。
  宮崎市 堀柾子(73) 2018/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

気になった出会い

2018-07-16 15:43:38 | はがき随筆
 病院のエレベーターに乗ったら、包帯をぐるぐる巻きにして車椅子に乗った、高校生くらいの女の子が近づいてきた。私は「急がなくていいよ」と言って待った。
 降りる階を確認して「大変だったね」と声をかけたら、消え入るような声で「事故で……」と言った。見上げた瞳がハッとするくらい澄みきっていた。「お父さんお母さんに心配かけないようにしなさい」と言ったら、素直に「はい」と言って降りていった。
 母親が待っているに違いない。
 私との会話を母親に話しただろうか、ちょっと気になった。
  熊本市北区 岡田政雄(70)2018/7/8  毎日新聞鹿児島版掲載