はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

移れば変わる

2018-09-21 18:19:20 | はがき随筆


 休日の早朝、仮り払い機と耕運機の音。作物を植えるためではなく土をかえし除草の作業なのだ。元気だった耕作者も年をとり畑に手間をかける体力をなくす。休耕地には瞬く間に雑草が茂り、油断すると背丈ほどに伸び厄介。若い者には耕作の時間も気持ちもなかろうし、考えれば買う方が安い。
 低くうなる機械音は何ともいらいらしく耳についていたが、新聞を読むうちに忘れ、いつしか作業は終わっていた。新鮮な土と青草の匂いがたち、かすかに農作業着の父の姿や畑の隣人の元気な声が脳裏をよぎる。「刈草の清しく匂う夏さかり」
 熊本県阿蘇市 北窓和代(63) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

トキソプラズマ

2018-09-21 18:03:22 | はがき随筆


 先ごろの毎日新聞鹿児島版掲載「余禄」を呼んで驚いた。ネコを宿主とするトキソプラズマ原虫に感染したネズミは、天敵であるネコを好きになる。さらに世界的には人類の3人に1人が感染者というこの原虫、もしや人の心も操るのか……という内容だ。つまり人類の3分のⅠは猫好きになるということではないか。最近の異常なまでのネコブームもうなずけるというものだ。カミさんのいとこは種子島に4人いるがいずれもネコ大好き人間だ。
 我が家でも老夫婦の心はイークンに完全に奪われている。島の中もノラクンが闊歩、将来地球を制覇するのはネコかも?
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(81) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載





君の名は

2018-09-21 17:56:07 | はがき随筆
 犬を連れた老夫婦とよくすれ違う。犬の名前など知るよしもなかったのだが、休日に散歩していると偶然にもその犬を見つけた。彼の小屋には「あんこ」と書かれていた。こげ茶色の毛の色にぴったりの名前だった。
 ある日久しぶりに彼に出会ったので「あんこ」と声を掛けてみた。するとなんで知らないおっさんが俺の名前を知っているんだと言わんばかりに、私の顔を胡散臭そう睨みながら、ワンと一声吠えたかと思うと、主人の背後に隠れてしまった。よほど意外だったらしい。
 以来、会ったときに声を掛けても、あんこはつれない。
 宮崎市 福島洋一(63) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鹿児島旅行

2018-09-21 17:44:57 | はがき随筆
 


鹿児島旅行をしてきた人にお土産にかるかんをいただいた。賞味するとかつて旅行した鹿児島の情景がよみがえった。
 70代のころ、小学校の旧友3人で薩摩半島の西南部、坊津までのバスツアーに参加した。坊津は中国から渡来して奈良に唐招提寺を創建した鑑真が上陸した所である。
 城山からの桜島も素晴らしかったし、江戸時代に全国を測量して日本地図を作製した伊能忠敬が、番所浜海岸を日本三景に勝るとも劣らない絶景と称賛したことなどを思い出した。枕崎で食べたカツオのビンタ(頭のこと)煮は美味しかったなあ。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

言葉と風習

2018-09-21 17:37:40 | はがき随筆
 5月上旬の「はがき随筆」に八代市の方が、上棟式の話を書いていた。読み始めて「しとぎ餅」の言葉に目が止まった。北九州生れの私は「餅まき」しか知らない。「しとぎ」についてインターネットで調べてみた。上棟式でまく紅白の餅を熊本・大分では「しとぎ」と呼ぶ。東北地方では、今も「しとぎ餅」が売られている。「しとぎ」とは餅が「もち」という言葉になる以前の言葉らしい。
 自宅付近にも新しい家が建っているが、最近は上棟式をほとんど見ない。「しとぎ」どころか「餅まき」という言葉も消えていくのだろうか。
  鹿児島市 高橋誠(67) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

地籍調査

2018-09-21 17:27:51 | はがき随筆
 梅雨の晴れ間、実家の山の地籍調査に立ち会った。家、田畑、他の山は以前に済んでいた。
 集合場所で調査係の2台の車に分乗した。変わり果てた道を揺られて向かった。行き止まりで降り、虫よけ帽をかぶり完全装備で目的地へ進んだ。辛うじて通れる道は係員が前日までに草や木を払い準備をしたのだ。
 見覚えもない道を奥へと、橋が崩れた川を渡り、谷を上り、急傾斜地に着いた。昔の人たちは、こんな遠くまで通い、山を守り育てたのかと感慨深かった。
 墓に寄り、残りは一カ所だけと父に報告。うれしそうに山の事を語る顔が浮かぶ。
  宮崎県串間市 武田ゆきえ(64) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

蝉の一泊

2018-09-21 17:18:27 | はがき随筆


 なかなか涼しくならなかったこの夏のある夜、網戸をちょっと開けてみた。突然、アブラゼミが「ミーン、ミーン」と大声をあげて飛び込んできた。びっくりして眠気も吹き飛んだ。
 カーテンにとまったので手で捕まえようとしたが、ビクビク逃げ腰の私の手から飛び去り、姿は見えない。しばらく探したがどこに隠れたのか。「1泊させてください」かも知れない。翌朝早起きしてみると、台所にいた。戸を開けてやると「ありがとう」とも言わないで飛んでいった。今日も「暑い、暑い」と鳴いているのだろうか。夢のような熱帯夜の出来事だった。
 熊本市中央 川口紋子(90) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

なんにも

2018-09-21 17:11:49 | はがき随筆
 朝、水で洗顔、外出から帰宅すると洗顔、と一日4、5回洗顔。それも水道水だけで汗と脂肪をよく洗って流す。この夏は特に汗だらだらだった。以前、日焼け止めを塗ったが、それと汗が混ざって目に入り大変だったので、以後は全然。それにしても化粧品の数多いこと。みんなそれなりの効能があるのだろうが。
 半袖を着て通勤していたころ、覆われていない部分にしみができて久しく残っていたが、老いの年々、薄れているのに気づく(ないよりは存在感あるが)。だんだん皮膚も生れたときに戻るのかな。
  鹿児島市 東郷久子(84) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鶴が折れた

2018-09-21 16:57:45 | はがき随筆


 友人から折り紙の鶴をもらったことがある。それもまね出来そうにない見事な作品だった。先日チョコレートの奇麗な包装紙に促されるように鶴の事を思い出したので、記憶をたどりながら挑戦してみたが、どうしても鶴の形にはならない。目も疲れて集中できなくなり諦めた。
 が、腑に落ちずにいた私は、改めて挑戦した。去るをイメージして折るがやはりうまくいかず、半ばやけくそに繰り返したらいつの間にか鶴の羽の形が出来ていた。「出来た」とひと声が飛び出す。記憶がよみがえった喜びと安堵が。今回の格闘で脳もかなり活性化したに違いない。
 宮崎市 日高達男(76) 2018/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

お歯黒カゲロウ

2018-09-21 16:39:19 | はがき随筆


 我が家の近くでハグロトンボを見た。どこから来たのか気になり探索開始。まず健軍川を長嶺中学校側から下流2㌔を捜したが見つからない。熊本水遺産に登録されている「鐙田湧水地」へ。今日湧水地は埋め立てられ公園化されているが、その一画の藻器堀川の源流は今でも湧水し小川となっている。その川面の雑草の間を黒いものが飛び交っている。ハグロトンボです。熊本市内にもこんな自然が残っているのに感動すると共に環境保全の大切さを痛感しました。
 熊本市東区 岩屋悦二郎(71) 2018/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

待合室

2018-09-21 16:27:37 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月20日 (木)
岩国市  会 員   林 治子



理容室のドアを押した。先客が座っていた。散髪の真っ最中。迷いに迷って染めることをやめる決断をした時「カットだけならここ」と決めた。

どうやら終わったらしい。「いくらかの~」という。「○○よ」と返事。一生懸命お金を数えている。「うちの嫁さん、きっちりしか金くれんな~。1枚くらい余分に入れたろうとは思わんのかいな。帰りに遊ぶこともできんわ」とボヤきながら支払っている。「でもの~帰ると、やっぱり散髪しんさると、またほれ直したわと言いよる」とノロけた。居合わせたお客が思わずごちそうさまの大合唱。

 (2018.09.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


直したけれど

2018-09-21 16:26:34 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月19日 (水)
 山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 娘婿は大工さん。困ったときにすぐ駆けつけてくれる我が家の救世主。今回は劣化による流し台の水漏れSOS。思い切って台所のリフォーム工事を依頼。キッチンセットを新設し土壁を耐火ボードに変えたら、明るくきれいなキッチンに大変身。
 これを機会にルンルン気分でメジャー片手に家具を移動させ、いろいろ部屋の模様替え。これで当分大丈夫と思っていたら孫が「僕はパパにどうしても言っておきたいことがある」と婿さんをどこかへ連れて行った。「壁紙にひびが入ってるじゃない。僕は早く直してあげた方がいいと思うよ」だって。
  (2018.09.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)