はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

金は神の恵み

2018-11-22 21:28:16 | はがき随筆
 過ぎ去った日々が懐かしく夕食時、夫に話す。すると「昔話は嫌い」と。出された料理を当然の態度で食べる。準備に忙しい私を気遣う様子はない。さらに好き嫌いを言い、会話も途切れ気分落ち。明朝、夫に一言。「人生は慰め、励まし相手を盛り上げてこそよ」と言うと、「金も必要だね」だって。「金は神の恵みだし、あんたにも助けられた」と諭す。心に通じたか、笑顔になり機嫌が良い。8月、盆が近づき、実家の草刈りを依頼され、草刈り機持参で出発する夫に「仕事ができることに感謝して猛暑に気をつけて」と見送ると「わかった」と潔い。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(78) 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

9から2に

2018-11-22 21:19:22 | はがき随筆
 「下校途中転んで左ひじを骨折。手術を受けます」。小2の孫娘が入院したとのメール。
 大変だ。すぐにでも駆け付けたいけど大阪じゃ無理。詳しい様子も気になるが、今は待つことにする。でも何かしたい。
 そうだ、退院時のサプライズに孫の好きな「星の王子さま」の本を送ろう。
 退院2日後。「まだ痛い?」「う~ん。死にそうに痛かったのが9で、今は2ぐらいかな」「よかった。少しは痛みが引いたんだね。その表現はすご~くわかりやすいよ」。ライン上で彼女がふっと笑顔をみせた。
 はやくゼロになるといいね。
 宮崎市 四位久美子(69) 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

身ぎれい

2018-11-22 21:11:01 | はがき随筆
 「年寄りは身ぎれいにしとらんば」。これは義母が義父に口癖のように言っていた言葉である。その言葉通り義父はシャツのボタンは一番上だけ外し、裾はズボンに入れ、ベルトをきちんと閉めていた。
 今、同じ言葉を私が夫に言っている。義母の言葉だと夫の耳にはよく届く。服装はまずTPOを考え、清潔、季節、天候、色合いが合っていれば高価でなくてもOK。このごろは「これでよかか」と夫も私に尋ね、私のチェックの後出かける。
 最近は更に安全を考え、夫婦共に遠くからでも目立つ白や明るい色を着るようにしている。
 熊本県八代市 今福和歌子(68) 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

好奇心

2018-11-22 21:03:20 | はがき随筆
 ホラー映画のたぐいはお金を払ってまで見る気はしないが、この映画は話題が多くて見ることにした。平日にもかかわらず長い行列で、立見席でもよいかと聞かれてOKを出して「カメラを止めるな!」のチケットを買う。館内には若者、カップル、OL、そしてバリバリの会社人風もおり、昼間3時ごろとは考えられない様相である。映画の内容は見てのお楽しみであり、詳細は言えないが、何故こんなにまで人気、話題になったかを考えること自体が、好奇心の固まりである自分への挑戦であり、認知症予防への一つのかけ橋であると思う。
 鹿児島市 下内幸一(69) 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

生きる力

2018-11-22 20:54:32 | はがき随筆
 朝、身仕舞をして店に立つ。一日が始まり一仕事の後、朝ドラ「半分青い。」を見る。ドラマの女性は左耳が聞こえない。私も難聴で苦労している。
 半世紀前、地元の鉱山が閉山し夫も他界した。鉱山頼りの商いであった。15歳の独り息子と助けあって暮らした。
 ドラマの中で師匠が「物語には人を癒す力がある」と言った。読者は癒されるが作者自身も癒されるのだろうか。息子は独立し私は「はがき随筆」と出会った。思いを吐露するだけで癒され勇気も出た。夫の50回忌もすませた。随筆と小さな雑貨店が生きる力になった。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(91) 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

日赤発祥の地

2018-11-22 20:45:01 | はがき随筆
 私の教師生活は1953年4月、白梅学園玉名家政高校(現玉名女子高)から始まった。校門を入ると右側の塀際に日本赤十字発祥の地と書いた標柱が立っていた。
 明治10年、我が国最後の内乱となった西南戦争で、薩摩軍が高瀬町(生なし高瀬)に進攻し、政府軍と戦闘した時、負傷した政府軍の兵士を前述の場所に運び入れて救護したそうだ。政府軍の救援隊が到着してから優勢に転じ、薩摩軍は玉東村の田原坂方面に後退したという。
 現在の玉名女子高には看護科が設けてあるそうだが、日赤発祥にふさわしい気がするなあ。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2018/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

病院の玄関

2018-11-22 20:38:14 | はがき随筆
 先日、行きつけの総合病院を訪れたとき、病院の玄関にタクシーがとまっていて、ドアが開き、車椅子が横付けされていた。車からは、高齢で立派な体躯の男性が、右手につえを持ち、必死の思いで降りようとされていた。そばに女性がいて、険しい顔つきで「さっさとしなさい」と声をかけていた。男性は足が弱っていてなかなか一歩が出せず、せかされる様子だった。
 男性は「今までの人生は何だったんだろう、こんなはずではなかった」と思われているのではないだろうか。とても悲しそうな目がそんなことを物語っていた。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2018/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

トンボ

2018-11-22 20:31:34 | はがき随筆
 窓ガラスのところに大きなトンボがいる。夕方職場から出ようとしたときにバタバタと騒いでいる。すぐそばが開いているから青空へ飛んでいけるのに、ずっとぶつかりつづけている。別の窓も開いているから、するりと出ていくだろう。そう思ってそのまま帰った。翌朝出勤すると、玄関に大きな二枚羽が静かに転がっていた。アリがたくさんたかっている。出られなかったのか。面倒がらずにちょっと窓を開けてやればよかったのかな。私にしてやれることは本当になかったのか。あの人にも。気付けばもう突き刺すような暑さのない季節となっていた。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(49) 2018/11/8 枚町新聞鹿児島版掲載