はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花と母

2019-01-11 20:21:04 | はがき随筆
 


リビングルームに冬の陽が差し込んでいる。真っ赤なカニサボテン花が6.7輪咲いている。母からもらったものだ。
 母は園芸の得意な人だった。春にはポピー、夏にかけてルピナス、しょうぶ、秋には聞く、冬には葉ボタン、スイセンと花の絶えない庭をつくっていた。そして花を人にやるのが好きだった。喜んでもらえるのがうれしい。花は道路沿いにあって、ある時、たくさんの花を盗まれた。「言ってくれればやるのに。花泥棒も泥棒」と言って残念がっていた。花を愛した人だった。その母の一周忌をもうすぐ迎える。
 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度

2019-01-11 19:42:56 | 受賞作品
 月間賞に今福さん(熊本)
佳作は貞原さん(宮崎)、田尻さん(熊本)、秋峯さん(鹿児島)

はがき随筆の12月度受賞者は次の皆さんでした。


 【月間賞】6日「安田さんと情報」今福和歌子=熊本県八代市
 【佳作】5日「ポチからタマに」貞原信義=宮崎市
 ▽11日「今年の漢字」田尻五助=熊本市中央区
 ▽13日「ツワブキの花」=鹿児島県霧島市


 あけましておめでとうございます。亥年にちなんでこんな言葉を見つけました。「亥(猪)を抱いてその臭気を忘る」。自分の欠点や醜さは自分ではなかなか気付かない。という意味。気をつけねば。皆さんの新年のモットーにはいかがですか?
 今福和歌子さんはシリアで捕えられたジャーナリストの安田純平さんを取り上げ「自己責任」について考えています。保身のため他人をおとしめるという情けない風潮が蔓延する今の日本。これでいいのだろうか、と疑問を投げかけます。偽情報を与えられていた大戦中を思います。正しい判断は真の情報から。安田さんの行動、そして無事に帰国は本当に良かったですね。
 貞原信義さんのユーモアあふれるお話。ご主人の健康を案じて歩け歩けと急き立てる奥様。これから歩きますよ。ポチも一緒よ、と言われつい「ワン」と返事。ホントに? でもそこが貞原さんの真骨頂。2㌔を歩き切ると、知らぬ間に猫背になってしまって「ニャーン」なんて。思いつきませんね。ご夫婦の日ごろの愉快で明るい会話や駆け引きがほうふつとしてきます。
 田尻五助さんは恒例の今年(平成30年)の漢字に興味津々。自分では改竄の「竄」が一番ふさわしい、いかに今の政治が国民を欺いているか、と。実際は「災」でした。しかし「災」も味方によっては国民に災いが降りかかったと考えれば納得できなくもないですよね。
 秋峯いくよさん。庭いっぱいに咲き乱れるツワブキの花から母に思いを馳せるという内容です。この花が好きだった母は戦争未亡人になっても強く働き抜いた。いつも他人を立てて控えめだった。実はこの花の花言葉は「謙譲」「困難に負けない」だとか。まさに母親そのものであると心を振るわせます。温かい随筆です。
 ほかに宮崎の品矢洋子さん、金丸洋子さんが印象的でした。
 熊本文化協会理事 和田正隆

レオタード

2019-01-11 18:56:02 | はがき随筆
 人生最後まで自分の足で歩きたいと思い、ある体操教室を見学に行った。そこは全員はつらつとしたレオタード姿で、とても驚いた。レオタードには違和感があったがすぐに入会した。嫌だったレオタードも自分の体を正しく知り、また一番動きやすいことからすぐに着用した。ぽっこりおなかのレオタード姿は恥ずかしいが、不思議な解放感がある。子供は自立し親をみとり、肩の荷は下ろしたが、人生苦悩は尽きない。髪も眉も白くなった体に花柄のレオタードをまとい、少女のように心解き放ち、深みゆく老いへの道を歩いてゆきたい。
 鹿児島県出水市 塩田きぬ子(68) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

友達になりたい

2019-01-11 18:48:35 | はがき随筆
 カアカア。烏の鳴く声に上空を見上げた。屋根の間に伸びた電線に烏が一羽とまっている。
 「カアカアカア」と間髪をいれずに鳴いてみるが、烏は頭を右に左に向けるだけ。おかしいなあ。私を見ているはずなのに、応えてくれない。
 そこへ、近所のNさんが新聞を届けに来た。声を聞かれたかも、ちょっと恥ずかしい。「烏に声をかけたけど、こっちを見てくれないわ」――Nさんは微笑んでいるだけだった。
 家の前の大きなモチの木にかかる巣で、あの烏は生れたはずと、勝手に決め付けている。
 友達にしてよお。

 宮崎県延岡市 佐藤桂子(70) 2019/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷さあ

2019-01-11 18:39:15 | はがき随筆
 70年ほど前になろうか、小学校5年生、本棚をあさり心ひかれた「肚の人」。誰のこと? 「西郷さあ」のことらしい。おおらかで、ふところの深い人間西郷のことを母が話してくれた。成人して、まさに肚の人と西郷への敬愛の情は深まった。
 巨人に見えて人間的弱さをのぞかせる旧約聖書中のモーセとエリヤが大好き。この2人に西郷はどこか似ている気がする。
 いま西南の役前後の2人、幼少期からの腹心の友同士西郷と大久保のことを思うと切ない。
 共に日本の将来を思い、私情を捨てての決別だったであろうことを思えはなお更に……。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(82) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

胸騒ぎ

2019-01-11 18:10:59 | はがき随筆
 私は、71歳の誕生日を元気に迎えたが、ここ数カ月の間に友や知人が次々と病に伏した。
 日課のように会っていた友もその一人。見舞いに行くと笑顔で「病気になっても幸せ」と何度も言う。私は「すごいね!」と相づちを打ちながら、前向きな友の姿勢が心底うれしかった。
 元気な時には、見えなかった人の優しさや、思いやりにたくさんふれたのかな。
 数日後、抗ガン剤で、免疫が落ちたと言う友へ「根菜のスープ」を届けると、少し色白で細くなった気がした。
 帰り道、急に寒くなった冬の風に身震いし、胸騒ぎがした。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(71) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ほっこり

2019-01-11 18:03:17 | はがき随筆
 雨も2日続けば少々うんざりする。用事を見つけての帰りのこと。しばらく小降りだった雨がまた降り出した。先にバスを降りられた年輩の女性が「どうぞ」と笑顔で開いた傘を差しかけて下さった。「まぁ、すみません」と傘の中へ。「有難うございます」。改めて自分の傘を開いての帰り道、何ともうれしい気持ちになった。
 あの時、自分なら多分さっさと歩き出していたはずだ。ほんの数秒間のできごとに、人に親切にすることを教えられた。近所にこんな優しい方がおられる。心がほっこりして頬がゆるんだ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

時の流れに

2019-01-11 17:55:56 | はがき随筆
 平成が終わる。ぼくにはもう一つ70代が終了する。人生50年という時代に物心がついて、サラリーマン時代には60歳に定年が延びた。この人生を振り返ると早さに驚く。今、人生100年時代という。過ぎた20年は、楽しい思い出しか浮かばない。この先20年を考えても仕方がないが、時は流れ、必ず明日は来る。その日その日を重ねてゆくしかない。日の出前のジョギング、どんどん腕が落ちるゴルフ、四季折々の庭木の手入れ、ロスへ行って大谷の応援だってある。やること、やれることを考えだしたら楽しみばかり。時間が足りないかも……。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(79) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

シックスティーズ

2019-01-11 17:48:15 | はがき随筆
 山陰の山里と宮崎の二重生活を始め、期待と不安で迎えた私のシックスティーズ(60歳代)は今年で終わろうとしている。
 振り返れば、いろいろな出会いや体験に満ち、新しい発見の日々。両親を90歳代で見送り、子どもの結婚、孫の誕生と記憶に残る出来事の連続だった。
 ペンの会に入り日ごろの思いをペンに託し、投稿した拙い文が活字化される喜び。恥ずかしながらもわずかな満足感。10年間に書き連ねた文章は貴重な我が家の歴史となり、時折読み返しては思い出にふけっている。
 迎える70代。果たしてどんな色にそまるのだろうか。
 宮崎市 高橋厚子(69) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

lリンゴ

2019-01-11 17:39:07 | はがき随筆
 数年前レンタカーで津軽平野を走った時、道中の鈴なりのリンゴに目を奪われ収穫中の見ず知らずのリンゴ園に立ち寄り、農園の案内や作業の苦労話など丁寧な対応に長居をした。以来注文して毎年蜜入りのおいしいリンゴを味わっている。
 熊本地震の年はお見舞いの言葉が添えられ、いつもより多めに送られたきた。今年は台風や猛暑の被害で表面に傷が多く贈答用の発送は取りやめたと連絡があった。多少の傷でも味に代わりなくおいしくいただいているが、温暖化の波が農作物に被害を与えている事実は極めて深刻だと受け止めている。
 熊本市北区 西洋史(69) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載