はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

百人一首と友人と

2019-01-29 17:38:14 | はがき随筆
 にぎやかに過ごした子どもたち一家が帰って一人になった。過日、読み人いらずという百人一首を購入。自動読み取り機で過ごすことにした。テープで詠まれ和歌が流れる。「めぐりあいて見しやそれともわかぬ間に」と上の句。「雲隠れにし夜半の月かな」と口ずさみながらカードを取る。この歌は福岡の友人がよく口にしていた紫式部の歌。気の合う大切な方だった。短歌教室も机を共にした。ある日「今度はあなたから電話くださいね」との言葉を最後にこの世で再び会えない人となった。百人一首を聞きながら懐かしい友をしのぶ一日となった。
 熊本県荒尾市 平田清子(91) 2019/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載

消えたジャガ

2019-01-29 16:37:45 | はがき随筆
 本コラムに家庭菜園の極意がありました。そんないつくしみ育てられている菜園で、時折哀しい出来事がおこります。グラウンドゴルフ仲間のささやかな農園でのこと。葉繁る豊かな畝に、そっとくわを入れたとき、何か異なかんじ。思わず手を入れると、中は空っぽ。探ると育っているはずのジャガイモなし。葉をそのままに横から実を取り出し、あとに土を盛り畝を修復。まさしく「知能犯」。感服? 以前からスイカなどの被害にあっている知人は、あきれながらも事件とはせず、犯人? の良心と境遇に心を寄せている。人それぞれ!
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/1/28 毎日新聞鹿児島版掲載

風邪対策

2019-01-29 16:31:35 | はがき随筆
 テレビで見たことがあるし、医者から言われたこともある。
 風邪引きのとき、いつも喉から痛みが出る私はこの予防を実行している。こまめに「お茶でうがい」をすることだ。
 仏壇におさまっている両親に毎朝お茶をあげ、その後私も一服。そして、残った茶殻にお湯を注いで一日分のうがい用お茶の出来上がりだ。小さなペッボトルに入れ洗面台に置いてガラガラガラ……。結果、万病のもとと縁遠くなればしめたものだ。
 歩行器を使い始めた姉の看護もあるし、元気な70代でいなくちゃ、と思っている。
 宮崎市 藤田悦子(70) 2019/1/27 毎日新聞鹿児島版掲載

寒晴の立田山

2019-01-29 16:21:42 | はがき随筆
 「こんちは」。高校生の一団が駆け上がっていく。体育の授業らしく、半袖短パン姿だが、首筋に汗が光っている。私も汗ばんできたので羽織っていたものを脱ぎ、脇道の下り坂に入った。立田山は道が縦横に走っており、気の向くままコース変更は容易だ。ステックを手に二人連れのご婦人が登ってこられた。「毎日ですか」「はい、ほとんど。空気が違いますものね」「上まで行かれますか」「いえ、その先から下ります」といいながら上着を脱がれる。顔なじみらしい男性があいさつして通り過ぎた。寒晴の立田山は老若男女を優しく迎え入れる。
 熊本市中央区 渡邉布威(80) 2019/1/26 毎日新聞鹿児島版掲載

インフルエンザ

2019-01-29 16:14:52 | はがき随筆
 ふた昔も前になるだろうか。金曜日に想い人の車に乗せてもらったとき「風邪引いたみたいで熱っぽい」と言われた。
 週末、体の節々が痛くなり病院でインフルエンザと診断され、翌週2日ほど仕事を休んだ。出勤してから電話したら、先方も寝込んで同じ日に出てきたと。ウイルスをもらったらしい。薩摩半島と大隅半島で休んだ人間が2人。私は看病人もなく一人寝ていたが、それでも同時にというのがうれしくもあった。
 そんな気持ちは私だけだったみたい。あちらさんは全く無関心で、後日「笑い話だったね」と言ったが知らん顔された。
 鹿児島市 本山るみ子(66) 2019/1/25 毎日新聞鹿児島版掲載

私のお節

2019-01-29 16:05:48 | はがき随筆
 昨年まで母に会いに正月には必ず帰省した妹夫婦から、「正月は福岡で迎えて、一周忌に帰るから」と連絡があった。初めての一人の正月に少し迷ったが今年もおせち料理を作ることにした。鮭の昆布巻き、数の子。レンコン、ゴボウ、鶏肉など出煮しめをこしらえ、買った蒲鉾と年末にもらった餅、黒豆、ローストビーフを合わせ、正月を料理することなく過ごした。
 5年前の正月、妻が亡くなって半年後、大阪へ出向いて2人の娘のために料理本を片手に初めてお節料理を作った。今ではそれが゜我が家の正月の定番になっている。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(67) 2019/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

桜が咲いた

2019-01-29 15:58:32 | はがき随筆




 墓のシババナの様子を見に出かけた。なんと隣接している桜並木がこぞって咲いていた。シババナも枯れかかっていたので、百均を回ってみようと車で岳之田地区の方まで出かけたのだが、カミサンは「ここも咲いている」と桜を見かける度に歓声。夏の間に何らかの事情で葉が落ちてしまうと、涼しい日を冬と勘違い。温かい日が来たら「春が来た」と思いこんで開花までのサイクルを早め、秋に咲かせてしまうのだそうだ。そういえば台風で島の桜の葉は落とされてしまったのだった。春本番が来たとき、もう一度咲くことができるだろうか……。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

妻の凡事徹底

2019-01-29 15:50:13 | はがき随筆
 毎年正月は県外の息子家族と娘家族が集まる。孫は2歳から8歳までのやんちゃ4人。
 妻は暮れから「おせちは……」とか「子供歯ブラシと紙パンツは……」とか準備に忙しい。
 全員そろえば楽しい食事だが、男どもは酒でいい気分。孫たちはやがてドタバタと騒ぎだす。
 大晦日の夜も更けて歯磨きに行くと洗濯機はフル稼働。「ははあん、子や孫の洗濯ものがどっさりだもんな」と今更気付く。未明に水飲みに台所に行くと、炊飯器が朝6時に炊きあがりの表示ょしっかり示している。
 正月の凡時徹底の妻に浮かれ夫は既に水をあけられていた。
 宮崎市 杉田茂延(67) 2019/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

認知症ケア

2019-01-29 15:44:30 | はがき随筆
 認知症医療の第一人者、長谷川和夫先生の話を聴き感銘を受けた。中でも、認知症患者は「一人の人」として尊重し、その人の視点や立場に立って支えていかなければならないという「パーソン・センタード・ケア」という考え方。長谷川先生は「認知症になっても、人としては発症前と何ら変わらない。ただ暮らしに支障が出るようになったのである」とも言われていた。
 翻って、私は認知症になった友人を「発症前とは違う人」として見ている。長谷川先生の話を肝に銘ずる必要があるようだ。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/1/24 毎日新聞

それから

2019-01-29 15:37:11 | はがき随筆
 それからすでに4カ月がたった。4.5日も過ぎたら、すっかり我が家の愛猫になった。手のひらで包み込むぐらいだった子猫はだんだん大人びてきた。名前は孫娘が「まりん」と付けた。初めは部屋で飼うか外で飼うか迷ったが、結局、縁側に「まりんハウス」を準備して、中に毛布を敷き詰め、夜はハウスで寝てもらうことにした。
 飼い始めてからの2.3カ月は好奇心旺盛で、部屋中のいたる所を探検し、時にはゴミだらけになって出てくる。
 年老いてからの猫との同居だが、話題が増えて「まりん」中心の生活になってしまった。
 鹿児島県志布志市 一木法明(83) 2019/1924 毎日新聞

くじゅうの山で

2019-01-29 15:29:30 | はがき随筆
 昨秋、ゆく年の締めくくりに夫とくじゅう連山を歩いた。結婚50年の日々を振り返り、祝しながらの小さな山旅だった
 途中、稜線上の小高いピークを越えた先に下りの鉄バシゴがあった。何度か歩いた道なので容易に通過のはずだった。だがその日は、霜柱で濡れた靴底が滑り、ふいに不安になり動けない。するとハシゴの下の方から若い女性の声が届いた。
 「ストックを持ちましょう」と私に手を差しのべている。
 見知らぬ人のきっぱりとした助けの言葉に思わずストックを預けた。優しい人と握手を交わし別れたが今でも胸が温かい。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(74) 2019/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

Tさんと蠟梅

2019-01-29 15:22:18 | はがき随筆
 気が付いたら庭の蠟梅が満開になっていた。いつも黄色く色づいた大きな葉の陰に隠れるように咲いている。でも、どんなに控えめに咲いていても、その甘くかぐわしい香りに誘われて黄色い花を見つけることになる。ここ数日、その上品な香りさえも哀しく思えて、涙ぐんでしまう。この正月突然旅立ってしまったお隣のTさんは、わたくしにとって友人であり、優しい姉のような存在の人でもあった。狼狽の花ことばは慈愛。真っ白な百合の花のような、たおやかな女性だったけれど、慈愛に満ちた生き方は蠟梅そのものにも感じられて、寂しさが募る。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(71) 2019/1/24 毎日新聞籠浜版掲載