古都サンクトペテルブルクでは3連泊。ホテルと池の間には長い真っすぐな遊歩道が通っていた。早朝に娘と散策していると、初老の大柄の婦人が大地を踏みしめるように、本当にゆっくりと歩いてきた。お互いに会釈した。翌日もまた会ったが、夫人は立ち止まってしゃべり出した。一気にしゃべるとほほ笑みを残してゆっくりと去っていった。「ここはロマノフ王朝の宮殿も庭園も素晴らしいし、誇りよ。でも寒さが厳しくてこの池も凍るわ。親子なの? いい旅をね」。きっとこう言ったのだ。こんな出会いがあるから旅はいい。
鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(79) 2019/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載