はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

岩国の歴史学ぶ連載

2019-12-25 19:50:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月24日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝
 私は10年ほど前、岩国の「ご当地検定」実現に関わった。検定は5年前に終了したが、郷土の歴史に強い興味を持つようになり、防長路版に月1回掲載される「岩国史探訪」を楽しみにしている。12月は20回目「広家築城の横山」。これからも続いてほしいと切り抜きしながら思った。
 連載は、関ケ原合戦の後、岩国へ移された吉川広家が手掛け、現在の岩国の原型となった干拓事業から始まった。統治、通商、交通など岩国の成り立ちを知る貴重な資料になった。また、キリシタン弾圧、農民の名字、足軽や鉄砲組の悲哀、祭礼など歴史読み物としても面白く読んだ。
 14回目は、岩国という地名の由来が書かれ、市民として必須の内容と思う。
 少子高齢化などで市の人口は減少し、活力の低下を感じている。取り戻すには自ら生み出すものを持ち、定着させなければならない。連載には、岩国藩が城下町を繁栄させた工夫が多々示してあった。市勢回復のヒントになるかもしれないと思う。
     (2019.12.24 中国新聞「広場」掲載)   




枯れない花

2019-12-25 19:48:58 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月22日 (日)
   岩国市   会 員   横山恵子 
 今もはっきりと目に浮かぶ光景がある。それは枯れない花だった。話は胸に刻まれた日々をさかのぼる。
 夫は63歳の時、脳梗塞を発症した。その後の闘病生活は10年に及んだ。特に最後の1年は坂道を転がるがごとく悪化の一途をたどった。一緒に闘う私は心が折れそうだった。それでも奇跡を信じ、細い望みの糸を必死で手繰っていた。
 しかし、平成26(2014)年4月29日未明、最期の時を迎えた。夫の顔をなでながら私は自然と言葉がこぼれていた。
 「お父さん、ありがとう、ありがとう、つらかったね、よう頑張ったね・・・」
 一瞬、夫の唇がわずかに開いた。笑みを浮かべるように見えた。「まあ気が付いたの。心配したよ」と思っても言葉に詰まった。必死で体をさすった。だが目を開けることはなかった。
 幻だったのかー。われに返ると、看護師の方が何も言わず、私の背中をさすり続けてくれていた。
 通夜、葬式を終えて四十九日法要を迎えた。まだ墓はなく納骨できなかった。少しでも長く家にいたいという夫の意思のような気がした。
 供える花も暑さのため、すぐに枯れてしまった。その中で、1輪のアジサイだけは生き生きとしていた。何とも不思議だった。
 そして9月11日、納骨の時が来た。枯れないアジサイを挿し木にしようとして驚いた。昨日まで元気だった花がしおれていた。まるで役目を
終えたかのようだった。
   (2019.12.22 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




モグラ捜し

2019-12-25 19:31:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月21日 (土)
   岩国市  会 員   片山 清勝
 
 5歳くらいの女の子とその両親が花壇周りで作業している。「花植えですか」と声を掛けると「モグラが見つからない」と悔しそうに子どもが答える。
 「いないのは分かっているんですが、娘が捜すというのでお付き合いです」と母親がそっと説明し、うれしそうに笑う。花壇にあったモグラのトンネルを掘り返しているところだった。
 何でもネット検索で解決する世代だが、子どもが抱いた疑問や好奇心のため、一緒になって掘り返す若い両親に感心した。この体験は成長につれて必ず身について花が咲く。かわいい移植ごてを見ながら思った。
  (2019.12.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




 「これからは菌よ、菌」

2019-12-25 19:30:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月19日 (木)
70代の挑戦
   岩国市  会 員   沖 洋子

 若いころ刺しゅうを習っていた仲間の集まりでのことである。その時のメンバーの一人の発言が心に響いた。
 数年ぶりに会う友は、クルミなど自然の食物から、自分で作った酵母菌を、パン種や石鹸などの物作りに活かしているという。大好きでつい食べ過ぎてしまうパン作りを、ここ数年ダイエットのために封じていた。
 友を見習い、自分が育てた酵母菌で作ったパンを食べてみたい。パン作りに再挑戦しよう。
 うまくできるかどうかは分からない。でも、取り掛かろうと体が動いてきた。
  (2019.12.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




欲まみれの貢献

2019-12-25 19:28:50 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月18日 (水)
  岩国市  会 員   沖 義照

 「年末ジャンボ宝くじは1等の前後賞を合わせて10億円と超豪華賞金が魅力の宝くじです」と大きな広告が載っている。
 何度か買い求めたが、当たったこともかすったこともない。広告の隅には小さな字で「収益金は街の公共事業等に役立てられています」と書いてある。今どこの町も台所事情は火の車。公共事業も削られ続けている。
 私といえば高齢者に位置づけられ、国の厄介者に甘んじている。たとえ当たらなくても宝くじを買って少しは国のお役に立ってみたい。こんな殊勝な気持ちが億万長者への夢を現実にしてくれ……ないだろうなぁ。
  (2019.12.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




年賀状

2019-12-25 19:27:43 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月 7日 (土)
   岩国市  会 員   横山 恵子
 そろそろ年賀状を書く時季となってきた。この7年間に父、夫、姑、母を次々と亡くし、年賀状のない正月を何度か迎えた。喪中はがきを出すと電話やはがきをいただき、情けが身に染みた。
 夫を亡くした年の師走、教え子からお供えと手紙。「休み時間にはドッジボールや鬼ごっこをして遊んでもらった……」等の思い出話に思わず号泣。晩年の闘病生活の辛さを涙が洗い流した。「元気出してやれよ」と夫が背中を押してくれたようにも思えた。
 この1年もいろいろあった。年賀状が書けることは幸せと思う。
  (2019.12.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




冬の波紋

2019-12-25 19:19:21 | はがき随筆
 年末迫る椎葉村。仕事で扇山の中腹へ車を走らせた。気温計はひとあし先にと、零へ向けてカウントダウン。くもりがかった、窓と山なみ。
 眼前の頂は妙に白く見えた。最大ズームしたカメラ越し、樹氷だと気付く。周囲を見渡しても、他の山々にはまだ見えず。吹き下ろす風は、辺りに一層冷えた空気のおすそわけ。次第に周りへ広がる冬の波紋。はじめの一滴をこの山が落とす、
 「やうやう白くなりゆく山ぎわは……冬でもか」。別な意味で当てはまった枕草子の一文に感心し、心だけは温まった。
 宮崎県日向市 梅田浩之(27) 2019/12/25 毎日新聞鹿児島版

一円切手

2019-12-25 19:12:45 | はがき随筆
 62円のはがきを投函するため郵便局の窓口で「1円切手を一枚だけですみません」と言うと「かまいませんよ」と若い女性が切手とポケットティッシュを渡してくれた。
 「たった1円でティッシュはいただけません」と言うと笑顔で「どうぞお使いください」と言う。私は心の中からホワーッと温かくなった。彼女にとっては1円切手もティッシュも仕事にすぎないのかもしれないが笑顔は人の気持ちを幸せにする。
 帰り道、なんで新しいハガキを買わなかったかと後悔した。その日の家計簿には「切手1円」と心を込めて記入した。
 熊本県天草市 岡田千代子(69) 2019/12/24 毎日新聞鹿児島版

センテナリアン

2019-12-25 19:03:43 | はがき随筆
 我が家の姑は介護施設にお世話になっており、7月で100歳だった。本紙にも100歳をセンテナリアン、百寿者とも表現するとあった。教職の道を歩んだ義父は97歳で天寿を全う、夫は最強の長寿遺伝子を受け継いでいる。その暮らしぶりは当然、食事に気を配り、運動といえば田畑でコメや野菜を作り、作業小屋の囲炉裏で干物を焼き、昼寝も欠かさず、文芸誌を愛読しては、夫婦、時に親子で政治討論会が始まるのが常だった。現在、姑は元気な頃と違い、笑顔が可愛い。どのような生き方が健康かつ長寿につながるのかを身をもって示してくれた。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/12/23 毎日新聞鹿児島版

カッターナイフ

2019-12-25 18:56:19 | はがき随筆
 カッターナイフの存在を教えてくれたのは、中学校の美術の先生だった。薄い刃には線が入っていて、切れ味が悪くなったら折ることができる。それは本当に新鮮だった。以来、私の筆箱には便利な文房具としてカッターナイフが入っていた。
 しかし、世の中は変わった。10年程前飛行機に乗るとき、それは一時預かりとなり、到着した際に返ってきた。そしてついに昨年飛行機に乗る時没収され返って来なかった。職場でも「何でナイフを持ち歩いていると?」と聞かれた。こうなるともはや危険人物である。私の筆箱からカッターナイフは消えた。
 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(62) 2019/12/22 毎日新聞鹿児島版


ジュズダマ採り

2019-12-25 18:49:43 | はがき随筆
 最高の小春日和。かねてから気になっている場所へ、入れ物を持って出かける。休耕田の脇のあちこちから、「私はここよ」と真黒い小さな実が呼んでいる。
 すぐにしゃがみこんで作業開始。6個もにぎると手からこぼれる。折角採ったのだからと下を探すが、雑草の陰で見失う。それでもいつの間にか袋いっぱいに。黒い実は葉っぱの根元に隠れていて採りにくい。グレー、やや白い、白い実と成長度によって変化した可愛い実。
 「何にするの?」と今時聞かれそうだが、私は眺める楽しさと手触りを楽しむためかな。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2019/12/21 毎日新聞鹿児島版