月間賞に島田さん(宮崎)
佳作は岩下さん(宮崎)、的場さん(鹿児島)、中村さん(熊本)
はがき随筆11月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】 18日「おかげさまで」島田葉子=宮崎県延岡市
【佳作】 5日「一手」岩下龍吉=宮崎県串間市
▽ 的場豊子「モデルデビュー」的場豊子=鹿児島県阿久根市
▽ 「気配り運転士」中村弘之=熊本市東区
「おかげさまで」は、買い物帰りに、エレベーターが点検中で、カートを抱えて3階まで上がれないと立ちすくんでいたら、赤ん坊を抱いた若い奥さんに助けられたという内容です。なんでもない内容のようですが、筆者の年齢が86歳ということを考えるとその人が「天使のようにさえ思えた」という感激が、単なる比喩ではなく、読む者にも実感として伝わってきます。
「一手」は、待ったのできる囲碁ゲームのルールを活用して、さかのぼってゲームを再開した時に、人生も待ったができないものかと思った。人生は後悔しても戻れない。しかし待ったなしに進んできたためによいこともあった。それが人生の味というものであろう。残りの時間の一手を大切に打たねばという、いわば決意表明です。
「モデルデビュー」は、こんなこともあるのかというような、珍しい話です。退治していたはずだったのに、今年も寝ているときにムカデに刺された。慣れたもので、退治して治療した。最初のときは、グローブのように腫れた手を、診療所の医者が治療してくれたうえで、写真に撮られた。その写真は今でも病院に残っていて、手だけのモデルデビューではあった。ユーモアがいいですね。
「気配り運転士」は、市電の中で、手押し車の老女の降車を手伝ってあげたら、それを見逃さずに、降りるときに礼を言ってくれた運転士の気配りに、かえって恐縮したという内容です。私は鹿児島での市電利用ですが、最近運転士が親切になったことを実感します。熊本で、昔でいえば車掌さんみたいな女性の搭乗員が、いろいろ案内してくれているのに感心しました。
この他に、かつて母親に叱られたことも今思えば愛情であったという、前田隆男さんの「おませな子」、余程ルリタテハがお好きだと見える、外園恒子さんの「ルリタテハⅡ」、生活の中に残る慣習の意味する不思議についての感想を述べた、西洋史さんの「慣習の謎」が印象に残りました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦