はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

与那嶺商店

2019-12-20 22:43:59 | はがき随筆
 「あれえ、よく来たさあ。覚えてるよ」。沖縄県本部町八重岳麓の与那嶺商店。私が初めて沖縄の地を踏んだのは、本土返還の前年だった。当時は「赤線」があり、車も右側通行、パスポート必携の旅。その後社会人となり、リタイアしてからは愛妻とちょくちょく訪れる。
 田舎の雑貨屋の女将は、今回もインスタントコーヒーと地元の菓子でもてなしてくれる。「沖縄のゆんたくだよね」「そうね」。間違いなく将来「丘縄のオバア」になる人は、世間話のテンポも速い。「またきっと来るからね」。心に決めたぼくらは店を後にした。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2019/12/11 毎日新聞鹿児島版

実葛

2019-12-20 22:30:57 | はがき随筆
 雨上がり久しぶりに散歩にでかけた。緩やかな紅葉が始まった野道を進むと「あった!」ここ数年、私を引き付ける赤い実さねかずらに今年も出会えた。 
 赤い粒がくっつきあった直径2~3㌢の丸い実が、緑の葉を着けたかずらのあちこちにぶら下がっている。茂みの中の、和風クリスマスツリーだ。
 「名にし負はば逢坂山のさねかづら人にしられで来るよしもがな」百人一首が浮かぶ。
 絡みあったつるをたぐってそっとあなたのもとへ行きたい。
 なんとロマンチックだろう。いにしえ人の、優雅な気分に、しばし酔いしびれた。
 宮崎市 川畑昭子(76) 2019/12/10 毎日新聞鹿児島版

野菜との戦い

2019-12-20 22:21:55 | はがき随筆
 野菜作りは一筋縄ではいかない。野菜に「アッ、こいつ初心者だな」と思われたら最後、思い通りに育ってくれない。まめに肥料や水やりしても根を張らず、収穫も少ない、
 野菜作りも5年目、これまでバカにされたナスとピーマンに勝負を挑んだ。水分を欲しがる二つの野菜に根元に水をやることは止めた。
 地下の根はおびき出されるように水分を求めて根を張りだしたようだ。これまで収穫期間が2カ月余りだったが今年は6か月に延びた。「勝ったぞ」と喜びと満足の戦いであった。
 熊本県嘉島町 宮本登(68) 2019/12/8 毎日新聞鹿児島版

白いハイビスカス

2019-12-20 16:48:15 | はがき随筆
 狭い庭の真ん中に白いハイビスカスが風に揺れている。このハイビスカス、2~3年前まで花弁にピンクが混ざったり、そっくりピンクの花をつけたりして驚かせてくれたものだったが、ここのところその珍現象を見せないので、ちょっと期待外れではある。それでも白いハイビスカスそのものが珍しい存在らしく、西之表市内を車で走っていても、あまり見かけない。買い物帰りの奥さんが立ち止まって「きれいですね」と、わざわざ声をかけてくれるほどだ。貧弱な庭に咲いているのだが、見てくれる人がいるのだからハイビスカスも満足だろう。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2019/12/7 毎日新聞鹿児島版

じいちゃんの栗

2019-12-20 16:42:29 | はがき随筆
 運動会シーズンになると「じいちゃんの栗まだなってないの?」と娘らが尋ねる。夫も気になり普段は忘れているが、様子を見に行くことが多くなる。
 亡き義父は栗と柿の木を植え丹精込めて育てていた。ひ孫たちがきても行けるようにと、草払いし、藁を敷き詰め、きれいにしていた。亡くなる1年前から栗の実がなりだした。今年は、コンテナ半分も採れた。
 次女が「じいちゃん、やっぱりすごいわ」と目を輝かせて言った。亡くなってもこの季節になると必ず「じいちゃん栗は」とみんな思い出す。さすが、お義父さん。
 宮崎県串間市 林和江(63) 2019/12/6 毎日新聞鹿児島版

吉利慕情

2019-12-20 16:34:28 | はがき随筆
 石川啄木の歌「ふるさとの山はありがたきかな」がありますが、故郷を思い返すと、山が安定した風景を構築している。
 「離れてみて、わかったよ、懐かしき峰、大谷の山、里山なれど、暁光冴えて、あなたの愛は、空ほど高く……」。吉利中学校が廃校になり47年になるが、歴代の校長が郡内一の校歌であると褒めておられた。出だしに大谷山の朝霞と歌われている。同窓会などがあると、3番まで出席者全員が今も暗記していて、誇らしげに歌うのである。なるほど低山ではあるがどっしりとしていた。古里の山に向かいて言うことなし也。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版

友人との再会

2019-12-20 16:25:24 | はがき随筆
 話した、話した。時間を惜しんで話をした。音信不通だった友人との40年ぶりの再会に出かけた。大阪での待ち合わせに多少の不安があったが、お互いの面影が難なく引き寄せ名を呼んだ。若い頃の職場の同期だった。共に結婚をし、それぞれの道を歩み始めた。が、変わっていたのは、重ねた年輪と共に良き婆になった事。友人宅にお世話になり、長年の胸の思いも、ほとばしる話の中で消沈。一緒に昔をたどり、歩き、遊び楽しみ、時間の速さがもどかしく思えた。再会を約束し手をふる。
 快く送り出してくれた夫にも感謝。
 宮崎県西都市 川野満子(69) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版

安全な日本の感動

2019-12-20 16:16:50 | はがき随筆
 バスに乗る際、さくらカードを読み取り機に触れたが、反応なし。座席について確かめると利用状況や全額を記録するICカードがなくなっている。仕方なく現金払いで下車した。
 市役所で再発行してもらい帰宅。下車後、反対側の乗り場に立ち寄ってみたら、熊本城の城主手形とともにベンチの片隅にちょこん。やってきたバスに乗ろうと立ち上がった際、脱落したらしい。利用者も通行者も結構多い場所なのに5時間以上、捨てられも盗まれもしなかったとは……。不注意は棚にあげ、安全な日本に改めて感動。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

空は元気の源

2019-12-20 16:07:54 | はがき随筆
 梅雨の谷間に七色の虹が! 母たちが小学校へ傘を持ってくる。こづかいがもらえた。皆キョロキョロしてた雨の日。真夏の空には入道雲が湧く。子供のときの川遊びを思い出す。不思議な世界へと、天の川? 秋にはうろこ雲、とんぼが群れる。真っ赤な夕焼けに心までも沈む。そして冬、キイーンと寒い。澄み切った夜空に満天の星。この星空こそ、我が町の自慢です。
 空にはロマンが尽きない!
 空から贈り物、雨も雪も降る。旅の道中、異国の空は高い。飛行機雲が夢をのせて流れる。この瞬間に、また感動です。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(67) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

天の采配

2019-12-20 16:00:58 | はがき随筆
 散歩中、スーパーの駐車場に止めてある1台の車に目が留まった。ブルーの屋根の上に、まるで人が手で撒いたかのように山吹色のキンモクセイの花が模様を描いてのっている。近づいてみると、青い大海原にできた黄金の渦潮のようだ。さらに甘い香りが漂ってきて、うっとりさせられる。
 たぶん車の持ち主がキンモクセイの木の下に駐車している間に、散った花がのったようだ。私にとっては天の采配、香りと花を存分に楽しんだ。
 帰り道、さっきの駐車場をのぞいてみたがあの車はもうなかった。ちょっぴり残念だった。
 宮崎市 福島洋一(64) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

首里城

2019-12-20 15:53:06 | はがき随筆
 10月31日未明、首里城が焼け落ちた。テレビは激しく炎上し崩壊する城を放映し続けた。一介の旅人の私でさえ衝撃を受け、暗澹たる気持ちに陥った程だから、那覇市に住む友人夫妻の気持ちはいかばかりかと案じられ、慌ただしく手紙を書いた。
 折り返し、緊急出版された写真集が届いた。美しく気高い首里城。火災で焼失した痛ましい焼け跡。それに沖縄戦の犠牲となった当時の惨状、そこからの復興が詳しく編まれていた。
 改めて、沖縄の人々の労苦と、くじけずに立ち上がる不屈の心魂に気付かされた。今回もきっと立ち直る、と確信した。 
 熊本県菊池郡菊陽町 有村貴代子(72) 毎日新聞鹿児島版掲載

白内障の手術

2019-12-20 15:45:49 | はがき随筆
 テレビの映像がぼんやりするし、外出すると霧がかかったように景色がボーッと見える。
 「目は大事よ」と眼科へ。診察の結果は白内障で、日を改めて手術することになった。消毒、麻酔、瞳孔を開く目薬を点眼してから、白い手術着を着せられ、顔は目の部分だけを開けた白布で覆って寝かされた。眼球内の濁った液を透明な液と入れ替える手術だそうだ。
 20分も過ぎただろうか。「終わりました」と医者の声がした。全く痛みを感じないのは幸いであった。
 術後の診察も異常はなく、物がよく見えるのはありがたい。
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2019/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

さよなら和田誠さん

2019-12-20 14:55:53 | はがき随筆
 本紙書評欄「今週の本棚」の題字・レイアウトを担当していた、イラストレーターの和田誠さんが亡くなった。
 似顔絵がうまくなりたくて、彼の人物イラストを若い頃よく模写した。均等な筆圧で書かれた丁寧な線で、シンプルな表現なのに特徴を見事にとらえている和田さんの絵。習作を重ねたが、凡人の私には無理だった。
 彼の描いた表紙に惹かれ、ジヤケ買いした文庫本や雑誌も多い。いまだ喫煙を続けているが「なんでハイライトを吸っているのか」の問いには「パッケージデザインが和田誠だから」とけむのに巻くことにしている。
 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載