はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

流れる……涙

2019-12-23 17:00:09 | はがき随筆
 何故。何故、何故……怒りより悲しみ……。地道な奉仕者の姿が消えた。何事も綺麗ごとに仕立てられ空っぽにされかねない時代に、初めから変わらず訥々と、流されず見失わず志を貫く人は数少ない。中村哲氏はその少ない本物の存在でした。
 氏の人柄を信頼しペシャワール会に賛同。その事業が途絶えずに続き、やがて壮大な農地が多くの人々の生活を支える。
 素朴だが素晴らしい。見失った条理に気づかせる事業です。先々を見据えた透徹した考えを見失わない事。氏は言うだろう「憎しみよりも愛を……」と、キリストの言葉そのままに。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(64) 2019/12/19 毎日新聞鹿児島版

ド根性

2019-12-23 16:50:14 | はがき随筆
 家業の繁忙期の夏が終わり、ひさしぶりに畑に行った。雑草がおいしげり放棄しようと思ったが、無農薬の虫食いの自慢の野菜をいつでも食べられる幸せと考えると、せめてダイコンや葉物だけでもと鍬を入れた。ダイコンの二葉や本葉がでてくると、他のものも……とやる気がでてきた。まわりには雑草が次の世代に継ごうと花や種をつけている。中でも花も種も知っているのに名前も知らぬ草。ド根性草。近づこうものなら束で3本足をもった種がくっつく、洗濯してもとれない。このしぶといド根性魂、私にもあったら人生少し変わったかも!
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(73) 2019/12/19 毎日新聞鹿児島版


いいご縁

2019-12-23 16:42:07 | はがき随筆
 「イノシシさんが半分、私が半分」と彼女はさっぱりと言って栗林を進んで行く。火バサミで草むらに落ちたイガ栗を上手にみつけては長靴でぐいっと踏み、現れた実を「ほい」と私に手渡す。林の中はイノシシに先手を取られ、収穫は少ないが彼女は多くを嘆かない。「あん衆たちも何か食べんと生きられん」とイノシシに心を向ける。
 淡々と明るい80歳の彼女とは娘の姑としてご縁が出来た。
 春を待って山菜を、秋を迎えて栗の実を……と籠を背覆って2人で歩く。そんな時、彼女はいつも温かな言葉を私にくれる。「いいご縁をいただいた」。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(75) 2019/12/19 毎日新聞鹿児島版