自粛生活で夫と顔付き合わせ る時間が長くなった。 夫はのんびり私はせっかち。たわいない会話がいつしか言い合いに。
そんなある日、夫がふっと「今が一番楽しい」と言った。多病を患い、外出も一人ではままならないのに......。「へえー」と思いつつ夫の顔を見返した。
「実は私も同じことを思ってた」。楽しみの一つ一つを数え上げると「そうかー」と夫も意 外そうな顔をした。
10年前に家業を廃業した。三十数年の制約から解き放たれ、 手にした身軽さ。老いの日々に 深い安堵がある。マスクしてても、吐く息、吸う息がうまい。
宮崎県日南市 矢野博子(71) 2021.3.1 毎日新聞鹿児島版掲載