母に料理を出す。甘いとか辛いとか、どんな言葉が飛び出すか。「これはうまい」と言うものなら私はうれしくて、天にも昇ったような心地になった。
母に気に入ってもらおう、褒めてもらおうと、母の好物を一生懸命に作った。その母も逝き、今は我が好物だけを作って食べる。うまいはずなのに、これがなんとも味気ない。家族でワイワイ言いながら食べるのが一番だ。
両履歴16年で腕が格段に上がっても、食べてくれる母はもういない。母の喜ぶ料理をと、店員に笑われながら料理本を買ったことが懐かしい。
鹿児島県出水市 道田道範(71) 2021/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載