はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

スイマー

2021-04-12 17:25:25 | はがき随筆
 最高齢の水泳記録保持者であり、100歳を超えてなおご活躍された女性が1月に亡くなられた。私は42歳で泳ぎを覚え、紆余曲折を経て今年からまた、泳ぎ始めた。クロールで1㌔を目指すも、彼女には到底及ばない。この先輩の偉業に勇気を頂き、心強くもあり励みになっている。
 この先、いつまで泳げるのやら。年齢が邪魔して体力と気力のせめぎあいは続く。家に籠るよりストレス発散になっているのは間違いない。プールの帰りは足取りも軽く気分爽快。春風をまとい坂道を歩きながら重いリュックも軽く感じた。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(71) 2021/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ワクワク

2021-04-12 17:16:32 | はがき随筆
 寒波、そして台風に劣らない低気圧の発生で、あっという間に散ってしまった梅。代わって深紅の寒木瓜、白とピンクの先分けの木瓜が庭を華やかに。雪柳もびっしりのつぼみをほどき始めた。
 庭をめぐりながらワクワクが止まらない。スマホで写して楽しんでいる。
 京都に住む娘が御所の花々をラインで送ってくれたので「綺麗、きれい」と返し、すかさず家の花たちの写真をを送った。するとパチパチと拍手する猫のスタンプが返ってきた。
 みんなでワクワクのこの日ごろです。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(85) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

筋肉貯金

2021-04-12 17:08:41 | はがき随筆
 毎朝誘い合ってウオーキングを始めて3カ月がたつ。渓谷沿いに往復7㌔、1万歩を目指して歩く。霜柱に驚き、氷柱を口に含んでは懐かしい子ども時代を思い出す。初冬、白い清楚なサツマイナモリに癒され、山肌に白く浮かぶ山桜に春の訪れを感じる。
 今、イワツツジが彩を添え、一雨ごとに山の木々も芽吹いてすがすがしく、生命みなぎり満山春色。心新たに歩を進める。
 4月は、畑の土お越しや田の草刈り。この冬しっかりと蓄えた足、腰の筋肉貯金。きっとこれからの農作業に役立つはずである。
 宮崎市 高橋厚子(71) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

訃報

2021-04-12 16:59:33 | はがき随筆
 Hさんの訃報を聞いたとき、「やはり」と思った。
 Hさんは奥さまを亡くし永年の一人住まい。その上、東京に住む息子を新型コロナで失っていた。最近は、買い物のため外出するほかは、何をするでもなく、ぼんやりと過ごすことが多かった。
 熱中症を心配して電話したことがあったが、そのときは「エアコンを入れているから」といつもの声が返ってきた。
 Hさんには、家も年金もあり、経済的に困ることはなかったが、家を離れず、誰の手助けも受けず、奥さまと息子のもとへ旅立っていった。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ダジャレ老夫婦

2021-04-12 16:50:07 | はがき随筆
 家族が一人いなくなって(8年間一緒に生活した猫のイークンが突然天国に召されて)1カ月が過ぎた。洗濯物についた毛を見つけると「イークンの毛があった」と、しげしげ見つめる老夫婦。イークンの毛が少なくなったと言いながら、掃除機をかけ終わったカミさんが「お茶にしましょうか、お茶菓子は何にする?」「そうだね。トーブンがいいね」「体のためにトウブンは控えた方がよくない?」「じゃ4トウブンに分けて4分の1にしてよ」「4トウブンときたか。イークン助けて」。天国のイークンを話し相手に引きずり込む老夫婦だった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(84) 毎日新聞鹿児島版掲載

春らんまん

2021-04-12 16:42:31 | はがき随筆
 寂しい2度目の春がやってきた。庭の西側に小さな真っ黄色の花を満開に咲かせたミモザ、東側には肉厚の真っ白な花びらを空に向けてハクモクレンが。庭に出るとジンチョウゲの心地よい香りがする。もうすぐするとハナズオウが紫の花を、レンギョウが黄色い花をつける。
 私たちの日常が止まっている間も自然はしっかり時を刻む。ひょっとしたら、自然の中でひっそり生きていたウイルスを私たちが表舞台に引きずり出し、いま悪戦苦闘しているのかも。
 感染が終息したら、地球は人間だけのものでないと心の片隅に置き、新たな日常を始めよう。
 宮崎県日向市 福島重幸(67) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

トホホ

2021-04-12 16:34:27 | はがき随筆
 早朝のひととき、サワークリームオニオンなるせんべいを頬張る。何事もなかったかのように。先日電車で熊本からの帰り昼過ぎというお腹のタイミングよろしく、もうすぐ熊本県八代市という駅までは覚えていた。電車が止まり、みんなが降りて行く時目が覚めた。見慣れた看板。「あ、やっちゃった」。2度目となると慌てない。男子高校生が乗って来た。薄眼で観察。お菓子を頬張る子、スマホに見入る子、男の子もおしゃべり好きと見える。30分ぐらい待って引き返す。急ぎの用事もないし、ま、いいか、こんな時間も。その日はもう一つのアクシデント。解決。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

埼玉県民に戻る

2021-04-12 16:25:46 | はがき随筆
  関東平野の真ん中で生まれ育ち、初めて海を見たのは小学3年の遠足で行った東京湾だった。水平線と空の境目を飽きずに眺めていたのを半世紀以上たった今でも覚えている。
 その後「海で泳ぎたい」とねだる私を、父は八王子のサマーランドに連れていってくれた。当時、人工の波が人気の施設だったが私は内心がっかりして「海は遠い」と心に刻んだ。
 日南に嫁いで状況は一変した。車で10分のきれいな海。子供が小さい頃はお弁当を持ってよく泳ぎにいった。
 今でも海を見ると心が躍って埼玉県民に戻る。
 宮崎県日南市 小野小百合(63) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載
 

復活?

2021-04-12 16:18:59 | はがき随筆
 陽気にさそわれ気合を入れて外に出る。美しく整然と作られた庭ではなく自然のままなので草取りばあちゃんの作業でも、いきいきと輝く。
 草丈が低く愛らしい黄水仙がぱっちりと花開いて、天に向かってバンザイをしている。秋にすてきな風景を見せてくれるホトトギスの濃い緑の葉っぱが、地上をはって横に横に広がっていく音が聞こえてきそう。鳥たちが背中をかすめて土に下り無心に餌をついばんでいる。ちょっと疲れたかな。
 年寄りの冷や水にならないようあせらずに、スロー、スロー。
 熊本市東区 黒田あや子(88) 2021/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載

伯父の筆跡

2021-04-12 16:09:23 | はがき随筆
 彼岸前の仏壇掃除で、20歳で戦死した伯父が戦地から妹に送った絵はがきを見つけた。使われずに、引き出し奥に大切にしまい込まれてあった。
 初めてみる伯父の筆跡だ。「満洲国奉天市陸軍官舎興亜寮第三号室18.4.18」とあった。声が聞こえたような感覚に襲われ、身震いがした。文字は一つの乱れもなく、ペンの強い筆圧に兵士としての覚悟が感じ取れた。寮の薄暗い部屋で妹の名を書く姿が浮かび、ふるさとを思う気持ちが伝わってくるのだった。
 約80年の時を経て、伯父は私のなかで大きな存在となった。
 宮崎市 磯平満子(65) 2021/4/7 毎日新聞鹿児島版掲載

南蛮手毬

2021-04-12 15:58:43 | はがき随筆
 天草から近所に引っ越してきたおばあさんが、菊花模様の糸手毬を持って挨拶に来た。「これはどうしたのですか」と聞くと「この南蛮手毬は私が手作りしました」と答えた。「教えてもらえませんか」と頼むと気やすく応じて来宅し、3種類の模様を指導してくれた。私は病みつきになって針を扱い、10種類ほどの模様を考案した。その毬が毎日ペンクラブ熊本の機関誌せんばの表紙に掲載されていたのがうれしかった。
 天草で四郎の初恋という柿餅を買った時、袋に天草四郎は恋人の路香に大切な手毬を託して旅立ったと書いてあった。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2021/4/6 毎日新聞鹿児島版掲載

喜寿と古希なれど

2021-04-12 15:48:26 | はがき随筆
 歌舞伎座は、昨年8月に上演を再開し、4部制で1時間程度の舞踊や、通し狂言の中の1幕だけを上演した。年末まで毎月通い、四つの部を朝から夜まで観たのである。
 1月からは、2演目を組み合わせて2時間前後の3部制に。玉三郎丈が在東京でなかったのでパスしたが、2月は再訪。当月の第2部に大いに期待。2演目とも仁左衛門丈とお玉さんの共演である。芝居では、珍しく悪女を演じた玉三郎丈。
舞踊では艶やかな芸妓。絵になる2人の姿にうっとりするが、喜寿と古希のご両人、美し過ぎる。眼福、眼福、と拝んでしまうほど。
 鹿児島市 本山るみ子 2021/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載

山桜

2021-04-12 14:47:14 | はがき随筆
 さくらが咲いた。うれしいなあ。父が亡くなって20年もたつのに桜が咲くと、風の中にも父の気配を感じられ、心浮き立つ。
 特に山桜の頃、父は朝早くから山を眺めるのが常だった。目安の木に花が咲き始めると、農作業を始めるのだった。
 若い頃の父は、それは元気で力持ちで、とても怖かった。50代の頃から病に伏したが、山を眺める習慣は変わらず、その後ろ姿には、なすすべもなく荒れてゆく田んぼを憂える父の悲しみが見えた。
 晩年弱々しく笑う父は、物足りなかった。風に乗って大きな父の声が聞きたい。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(73) 2021/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-04-12 12:11:01 | はがき随筆
 春の風に変わろうとしているのかしら? 芽吹きや花芽を確認して歩く回数が増えた。コロナ禍の今、ゴルフも麻雀も自粛している。そして、旅も計画ばかりで実行できない。読書の区切りのいいところで庭に出る。咲き遅れの侘助が白い花を散らしている。梅が咲き、河津桜も圧倒的な花を見せ始めた。都会の荒々しい風の中に身を置いた経験から思うと、いま感じる風は肌に、心に優しい。人生の至福の時を過ごしているのかもしれない。
 花ゆれて めじろ逆立ち春霞
 我が家の越冬つばめも、早春の風を感じているのかしら? 
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81) 2021/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載

舞野は素敵

2021-04-12 11:59:49 | はがき随筆
 舞野は夫の郷里である。振り返ると20年を暮らしている。行縢山の滝が家の敷地から見え、時間は緩く流れる。田の道を駆けた少女が妙齢の女性になり、酔っ払って玄関の戸をたたいたご老体は既に大往生。人は生まれ成長し老いて死ぬ。そんな当たり前の姿を見せてくれる。
 前は都会が好きだった。駅や地下街の雑踏。見上げるビル群。華やかな劇場。
 けれど今私は旧暦の息づくくらしを手に入れている。1年を24等分した二十四節季、72等分した七十二候。啓蟄に入った。末候は菜虫蝶と化す。カーテンを引き、窓越しに遠く菜の花畑。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(73) 2021/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載