はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

梅雨の晴れ間に

2021-07-07 22:47:25 | はがき随筆
 「雨が降ります。雨が降る」。降り注いだ雨がやみ、久方ぶりにお日様が顔を出した。
 庭にアジサイが咲いている。目を凝らしてみると花弁の真ん中に、ハナムグリと3㍉ほどのテントウムシがうずくまり、私がのぞき込んでもビクともせず至極の幸せ。生まれて間もない1㌢ほどのカマキリはスリスリと鎌を研いでいる。まるでお祈りの姿。可愛い。クモが長雨で壊れかけた巣をセコセコ、リズミカルに補修中。
 一時の梅雨の晴れ間に虫、花、人の営みがゆっくりと流れているようです。
 明日も天気になあれ。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(64) 2021.6.19 毎日新聞鹿児島版掲載

てんとコンマ

2021-07-07 22:36:43 | はがき随筆
 リタイア前は役所の職員とも仕事をしていた。1990年代からワープロで文章を書くことが多くなった。ある日、私の文字打ち画面を見て、役所の知人が「横書きの読点は『、』じゃなく『.』だよ」と。「日本文に欧米の符号を使うのは変」と反論すると「公文書はそうなってる」との答えだった。でも、私の違和感は消えなかった。
 文化審議会が、横書きの公用文には一般に広く使われている「、」を用いるルールを承認した、と先日の新聞で読んだ。70年ぶりの改正だそうだ。私のモヤモヤした気分に、読点いやピリオドがようやく付いた。
 鹿児島市 高橋誠(70) 2021.6.19 毎日新聞鹿児島版掲載

3年越しの恋

2021-07-07 22:29:21 | はがき随筆
 3年間待ったノウゼンカズラ。
 ノウゼンカズラとはつる性の観賞用植物で、夏にハイビスカスに似た橙赤色の花をつける。以前から憧れ、4年前に妻の実家から株分けして植えた。
 翌春につるの新芽が梅の木をよじ登ったが、花は咲かなかった。つるの数が増えた翌々年も期待させたが咲かなかった。
 今年は花が終わった梅の剪定中、間違ってノウゼンカズラのつるを切って相当悔やんだ。そんな時に会ったつぼみである。
 しかし、小躍りする私を見て妻は「いいわねぇ、そんなことでうれしいなんて」と笑った。
 宮崎市 杉田茂延(69) 2021/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

心が小さくなる

2021-07-07 22:21:46 | はがき随筆
 友達と遊ぶのって楽しいようなぁ。小学生の時が一番楽しかったな。夕方のチャイムが鳴ると切なかったなぁ。家に帰りたくなかったもんな。息子は小学4年生。私が一番楽しかった時期と同じ年ごろ。昨日は近所の公園について行ってみた。学校のお友達がいて、みんなで木登り、色鬼、おんなじだわぁ。と思って見てた。チャイムが鳴った。友達とさよなら。二人きりになったとたん、なぜか無言になる息子。「なんだかお友達と離れると心がさびしく小さくなる」。分る! おんなじ。小学生の頃の私が言葉にできなかった気持ちを息子がつぶやいた。
 熊本市南区 西嶋千恵(32) 2021.6.19 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

エンドウの支え合い

2021-07-07 22:14:12 | はがき随筆
 5月の頭になってからと時期は遅いが、エンドウ豆をプランターに2粒まいた。2本ともスクスク育ち、20㌢くらいになったので、ささ竹を根もとに立ててあげた。
 翌朝見たらびっくりした。苗さんたちは、ささ竹には知らんふり。それぞれ10㌢ほど巻きひげを伸ばし、その先端を巻き合わせて、空中にアーチを作っていた。
 お互い、支え合っているようにみえ、いじらしい。激しい雨に耐えられるだろうか? 時期外れでうまく育つだろうか?  心配はつきないが、今の苗さんたちは大丈夫といっている。
 宮崎県西都市 福島律子(68) 毎日新聞鹿児島版掲載

天下一品のお茶

2021-07-07 22:05:25 | はがき随筆
 私の育った田舎の家には、花壇との境や周囲にお茶の木の垣根があり、手摘みのお茶で一年分のお茶を賄った。お天気が定まった一日、陣頭指揮をとるのは祖母。新芽の丁寧な摘み方を教わった。台所の一角には大釜がすわっていて、団扇を使って上手に茶葉を返しながら煎るのも祖母。茶渋でつやの出た専用のゴザの上でしんなりとしてきた茶葉をもむのを手伝った。棚の上には煎り上がった新茶の茶壺が並んだ。「おばさんのお茶は天下一品」とお茶にはうるさい隣家の当主。祖母の満足げな表情が懐かしい。もうあの味は幻となった。
 熊本市中央区 渡邊布威(83) 2021/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

一人

2021-07-07 21:58:33 | はがき随筆
 小さなテーブルにコーヒー1杯。大勢の話し声や雑音の中でも、本を開くと完全に一人になれる。他人に関心を持たぬ都会の喫茶店。女性が化粧によって自分を確かめるように、私1日に数時間、一人になれないと耐えられない。町のほとんどの人と何らかの関わりのあるここの暮らしでは常に気を張っていないと無視されたと陰口を言われる恐怖がある。外では出会う全ての人に、家では家内に、神経と時間を持ち去られ自己埋没することが許されない。他人が出す騒音と光、時間に追われ生きる都会の方が過疎に苦しむ里よりも一人になれる皮肉に驚く。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(67) 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

ポテトティッシュ

2021-07-07 21:51:45 | はがき随筆
 一歩外に出る時は必ずマスクをつける、という習慣になってもう2年目になる。
奇異に感じていた世の中のマスク群にもだいぶ慣れてきた。
 先日、スーパーで目的の品の売り場を聞こうと店員さんに声を掛けた。「ポケットティッシュは置いてますか」。「あぁ、こちらです」と即答され案内されたのはお菓子売り場だ。謎はすぐに解けた。店員さんには「ポテトチップス」と聞こえたのだ。そういえば響きがよく似てますね、と2人で笑いこけた。
 マスクの会話が生んだ思わぬハプニングだったが、コロナ禍の中、和んだひとときだった。
 宮崎市 藤田悦子(73) 2021/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

子育て

2021-07-07 21:45:08 | はがき随筆
 スーパーの出口で若いパパと男の子の会話。「チョコが食べたい」「それはダメ。お昼ご飯を食べてから」。まるでお母さんとの会話みたいだと子育て時代がよみがえった。そういえば以前同じような光景があった。息子が1~2歳の長男になぜダメかということを一生懸命説明する様子に感心したことがある。わかるのかなと思いながら黙っていた。私の場合は頭ごなしに「ダメ」って怒っていたと、今どきの子育てに頭が下がった。幼児でもだんだん理解していくのだろう。う、う、ん、と納得だ。娘からも一度そんなことを言われた。世代交代だな。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

日々ありがたし

2021-07-07 21:36:13 | はがき随筆
 朝4錠、夕方7錠。お薬さまさまの日々。3月末、脳梗塞に襲われ危うくアウト。三つの病院で精密検査や治療。何とか88歳の命を取り留めた。お蔭でコロナ禍をかいくぐり、認知症の走りにおびえながらも電動自転車で近くのコンビニに出掛けている。主治医はグラウンドゴルフに行ったりと余生を楽しみなさいと励ましてくれる。
 大雨洪水警報も無事に過ごし、近く妻の12回目の命日を迎える。86、80、77歳の3人の妹からも電話があり、長男夫婦と墓参りにも行ける。命って、本当に素晴らしく、ありがたい。天地、皆さまのお蔭と深く感謝。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(88) 2021/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載