はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度

2021-07-05 20:59:42 | はがき随筆
はがき随筆5月度 
月間賞に近藤さん(鹿児島)
佳作は源島さん(宮崎)、高橋さん(鹿児島)、増永さん(熊本)

 はがき随筆5月度の受章者は次の皆さんでした。

【月間賞】3日「家神様」近藤安則=鹿児島県湧水町
【佳作】22日「ギョーザ日本一」源島啓子=宮崎県延岡市
▽10日「黒色テント」高橋誠=鹿児島市
▽8日「父とマスク」増永陽=熊本市中央区

 「家神様」は、久しぶりに、無住の実家を訪れた時の感懐が内容です。転居の際に家具の跡の汚れなどを見ると喪失感を抱いたものだが、家は家具等が置かれるとぬくもりが生じ、そこに家神様が住まわれて家となる。現在では住居観は変わり、家神様の存在を感じるのはポツンと一軒家くらいになりました。
 「ギョーザ日本一」は、注文したのを忘れていた小包が届いたら宇都宮餃子であった。そのせいでもあるまいが、宮崎餃子は消費量1位になれなかったので、住んでいる宮崎市にわびたい気持ちになったという、ユーモラスな文章です。たかが餃子で、地域社会に罪の意識を抱いたという感受がよく表されています。
 「黒色テント」は、装丁画家、平野甲賀の展示会から、沢木耕太郎「深夜特急」の手書き装丁へ、そこから劇団黒色テントの芝居「阿部定の犬」のチラシへ、そしてチラシをもらった劇団員へと連想は広がります。昭和40年代の不条理で無秩序で混沌とはしていたがエネルギーがあふれた社会状況は、すっかり過去になってしまいました。昭和の風潮が懐かしく回想されています。
 「父とマスク」は、父親は歴史の裏話をよく子どもの私にしてくれた。大正7年のロシア皇帝一家の悲劇や、関東大震災の話など。しかし、時代は重なるのに、スペイン風邪の話は聞かなかった。ただ、冬になると、父はマスクを着けろとうるさかった。コロナ禍の今にして思えば、マスクの効用は身にしみていたのかもしれない。
 この他に特筆しておきたいのは、熊本から、22歳から40歳までの若い女性の投稿が多かったことです。久保田桃さん「おしり青いよ」▽大澤奈穂さん「アラサーの夢」▽田尻真由美さん「つつじと娘と私」▽三隅妙さん「おんぶさして!」▽鍛島明香さん「子連れに備える」▽田端亜州香さん「頼もしい存在」ーー。いずれも子どもさんたちの可愛さが、愛情あふれる母親の視線から描かれ、子どもの眼のようにキラキラ光る文章でした。驚きました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

面会

2021-07-05 20:51:02 | はがき随筆
 コロナの緊急事態宣言が前回解除された際、養護老人ホームにいる義母に夫婦で会いに行った。1階で体温測定、消毒、マスクつけ、園が用意したフェースシールドを着用してのついたて越しの15分の面会である。
 義母は久しぶりの夫を直視し「頭の白髪はどうしたもんかよ。何歳になったかよ。私より早く逝きそうやが」と嘆き、「先に逝ったらあかん」と言うので大笑いした。私の年は60と覚えていたので気を良くした。
 ご飯はおいしいし、なんにも文句はないと笑顔で言う義母に安心し、施設に大感謝する。次の面会までと手を振る。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(66) 2021/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

新茶の季節

2021-07-05 20:38:44 | はがき随筆
 緑したたるこの季節になると、母と一緒にお茶作りの手伝いに行っていた昔の光景がありありと。早朝、賑やかな茶摘み。籠一杯になると、茶畑所有者の家の作業場へと運ばれる。大きな釜の下に燃えさかる炎。台座の上では、手ぬぐい鉢巻き、上半身は晒の肌着一枚のおばあさん。パチパチはねる茶葉を手際よく煎りあげ、待ち受けた人々の茣蓙の上へ、手のひらで右へ左へともみ込む。数回繰り返され、立派な茶の葉となる。さらに、おばあさんの自慢の仕上げで香り芳ばしい新茶の出来上がり。その香味が今でも忘れられない。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2021/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載家庭

うれしい発見

2021-07-05 17:35:26 | はがき随筆
 定年後の暮らしをゆっくり、大切にしようと決め、苦手な車の運転をこの春卒業した。
 外出の足をバスに変えたところ、うれしい発見があった。運転手さんの仕事ぶりだ。乗客の安全を守るため、運転だけでなく気遣いの声掛けにも奮闘努力されているのだ。
 例えば、カーブを曲がる時は「揺れに注意を」、降車時は「段差に注意を」などだ。高齢者の仲間入りをした私はとてもありがたい。「注意しますね」と心の中で返している。
 高齢者にやさしいバスが走る町で安心して外出できる暮らしに幸せを感じている。
 宮崎市 磯平満子(65) 2021/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載家庭


はがき随筆4月度

2021-07-05 16:54:29 | はがき随筆
はがき随筆4月度
月間賞に磯平さん(宮崎)
佳作は久野さん(鹿児島)
北窓さん(熊本)
四位さん(宮崎)

はがき随筆四月度の受章者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】7日「伯父の筆跡」磯平満子=宮崎市
【佳作】8日「駄菓子屋の話」久野茂樹=鹿児島県霧島市
    16日「新聞への期待」北窓和代=熊本県阿蘇市
    20日「バトンタッチ」四位久美子=宮崎市

 国民の祝日でもある「春分の日」は、季節が春に移る日といわれ、長い冬の終わりを実感する日でもあります。また春彼岸ともいわれ、お墓まいりをしたり、死者をしのぶ日でもあるんですね。磯平満子さんの「伯父の筆跡」は彼岸前の仏壇掃除をした時引き出しの奥から伯父が戦地から妹に贈った絵はがき集を見つけたことが綴られています。80年の時を経て満子さんは伯父さんの兵士だった覚悟や、ふるさとを離れて満洲国(現中国北東部)から贈られた絵はがきに20歳で戦死した伯父さんの「声が聞こえたような感覚に襲われ、身震いがした」と。
 鹿児島知覧にある特攻平和会館に展示されている兵士たちの家族への手紙を見た時の感覚がよみがえりました。戦争のない平和な時代を生きる私たちにも伯父さんの筆跡は尊いものだと実感しました。
 海軍将校上がりだったお父さんの思い出を息子である久野茂樹さんが温かな言葉で伝えてくれました。今、都会ではトレンディなお店として「駄菓子屋」を位置付けているらしい。「少年」や「少年画報」も「鉄人28号」も今となっては古きよき時代の大切なものになっています。商い下手で駄菓子屋は赤字。なによりもこどもたちの顔が笑顔で輝いていたとふりかえる茂樹さんの話こそ素敵です。
 真摯に新聞を読み、足りない考えを補いたい……。北窓和代さんの思いに共感する人は、たくさんいます。私もその一人です。日本語を学び始めたときから教科書は新聞でした。「今、記憶力は弱々しいが、知りたい思いは強くなっていきます」。強く賛同します。四位久美子さんの「バトンタッチ」は朝届けられる新聞を待ち望む日常が見事に書かれています。バイク音と配達時刻が少し変わったことから配達員の交代を察し、多くの人の努力で新聞が出来上がり、新聞配達の方が届けてくださるからこその幸せな朝がある。久美子さんの感謝の投稿は配達員の方もきっとお読みですよ。
 5月の青い空に春の風をはらんでこいのぼりがたなびいているだろう。熊本県玉名市の立石史子さんの「こいのぼり」(19日)、宮崎市の福島洋一さんの「くじらのぼり」(26日)も良い作品でした。
日本ペンクラブ会員 興梠マリア

ご馳走さん

2021-07-05 06:29:56 | はがき随筆
 「天草へご飯食べに行こい」。一人暮らしの私を気遣ってか、娘が誘いに来た。娘の家庭は夫婦と孫娘の3人家族である。車は孫娘が運転した。天草は島々が散在していて、風景が明媚である。海の空気を呼吸していたら、体によいだろうなと感じた。予約してあった松島のレストランで部屋に案内されて、テーブルの下の掘りごたつに足を下ろすと、早速料理が運ばれてきた。茶わん蒸し、刺し身、揚げ物、にぎり寿司、貝汁、ご飯、みそ汁などで腹いっぱいになり、アジの焼き物、鯛のあら炊きなどには箸をつけなかった。娘よ、ご馳走さん。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2021/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-07-05 05:54:12 | はがき随筆
 草刈り機の音がする。窓から田んぼの周囲をまめに刈っている達さんの姿が見える。年1回の作物作りに耕し時、苗の伸び時、収穫時。最低3回は草刈りされる。四季折々の作物を丹精込めて、食の恵み作りの達さんの姿に生前の母との語らいを思い出す。私の友が時々訪れる。お茶を出す母が漬物を手に乗せる。うまいと食べた友が帰った後、母が「あの人の手は働き者の手だね」とたたえた。
 達さんの手も、頑丈で働き者の手である。自然に左右され豊作ばかりではないが、皆の胃袋を満たし、活力向上に紡ぐ作物が「宝作」であれと祈る
 鹿児島県出水市 宮路量温(74) 2021/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

おい、元気にしてるか?

2021-07-05 05:46:30 | はがき随筆
 一人で晩酌していると、急に「彼、どうしているかなあ」と気になりだした。「彼も気にしているはずよ。電話してみたら」と妻も同調する。
 「元気にしてる」と久しぶりに彼の声を聞いた。「近ごろ、背中が痛くてね」と困った様子。「家の中でゴルフの素振りばかりしているんじゃない」とちょっとちゃかしたが、大丈夫かなあ。
 1週間後にメールが届いた。急性胆嚢炎で入院したという。偉そうなことは言えない。昨年末、ひどい腹痛で病院通い。若い頃のような食い過ぎが原因。
 八十路に入ったなあ。また、飲み会で積る話をしようよ。
 宮崎市 原田靖(81) 2021.6.8 毎日新聞鹿児島版掲載

事始め

2021-07-05 05:36:42 | はがき随筆
 日本画を習い、鳥獣戯画のひとこまを素描模写し一個の作品を仕上げた。写した和紙にベンガラを塗り、裏打ちして、色紙大に切った板に張る。先生の手際よさを見ていただけで仕上げは人任せ、まだ初歩も初歩だ。だが作品として仕上がった満足感は言葉に尽くせぬうれしさ。今度はイチハツの絵の模写だが、急ぐまい。一作品、一作品丁寧に作るのが肝要だ。陶芸を習った時、早く作品に仕上げたくて心急き、粗製乱造したことを反省した。数より質と心して、今は葉脈を描く線に苦心。日本画の基本は線描にあり、一本の薄墨の線と悪戦苦闘である。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

家庭訪問

2021-07-05 05:29:21 | はがき随筆
 30代半ばのK先生は、私が勤めていた中学校に熊本市内から転勤して来られた。奥様の両親が高齢で、面倒を見るために引っ越して来られたのだ。着任早々、家庭訪問が始まった。先生は地域に不慣れで、それに生来の方向音痴でもあった。生徒から地図を描いてもらってもチンプンカンプン。おまけに熊本市内と違って同じ地域に同じ名字の生徒が多い。やっとの思いでたどり着き、生徒の話をするがどうもかみ合わない。そうこうしているうちに私がひよっこり。目的の生徒の家は、同じ名字の隣だった。家庭訪問の時期になると思い出し笑ってしまう。
 鹿児島県志布志市 一木法明(85) 2021/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

生長と成長

2021-07-05 05:17:09 | はがき随筆
 息子が3歳の時だったか。一緒に食べた白桃の種を植えた。「おとうさん、いっしょにたべようね」と期待して10年。今年も薄いピンクの花をたくさん咲かせた。くだものとはとても言えない果実だが賑やかに実るようになった。
 昨年末、懲りずに今度はクリスマスケーキにのったドラゴンフルーツから種子を取り出し育てている。約半年を経てようやく産毛の生えた数㍉のサボテンが顔をのぞかせ始めた。
  「ほら見て」とはしゃぐ父にさすがの息子も調子を合わせてくれないが、それはそれで成長を実感するうれしい瞬間だった。
 宮崎県都城市 平田智希(45) 2021/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

いつでも夢を

2021-07-05 05:08:41 | はがき随筆
 妻が「あら、載っているよ」と。一読後、「まあ、暗い文章を書いたわね。朝から憂鬱になるわよ」
 でも、はがき随筆「8年後」はすんなりと既定の文字数に収まり、事実と気持ちをさらりとつづっただけだから、手直しもなかったのだ。だから、妻の深読みだと思った。
 しかし、翌日、随友のKさんから「切ない」との言葉と暖かい励ましのはがきをいただいた。妻の感じ方が普通だったのだと納得した時ラジオから「いつでも夢を」の歌声が。そうか、こんな俺でも夢を持てば、明るい文章が書けるのでは……。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(79) 2021/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

塩ちゅけて

2021-07-05 05:01:03 | はがき随筆
 私は生まれつき虚弱で毎日メソメソと泣いてばかりいた。2歳の時、高熱が出て医者から「腎盂炎」と診断され塩分が制限された。母は小さなおにぎりを作ってくれたが塩がついてないのでおいしくない。
 私は泣いてばかりいるので、きっとお仕置に違いない、と子ども心に考えた。「もう、泣かんから塩ちゅけて……」と何度も頼んだが母はだまって背を向けていた。
 数日後、医者からわずかな塩を処方してもらい、それでおにぎりを作ってもらう。ひと口頬張った私を見て母は満足そうだったのを覚えている。
 宮崎市 藤田悦子(76) 2021/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

シルエット

2021-07-05 04:52:43 | はがき随筆
 朝食後、血圧などのクスリ3錠を服用する。直径9㍉1粒と7㍉2粒。プチっと取り出し、口に放り込む。まさに食事の一部みたいに20年以上続く習慣だ。ある日、手のひらに載せた大きい粒に小さいのが二つくっついているのが、ミッキーマウスのシルエットに似ていると気付く。こうなると毎朝、ミッキー風に見立てるのが楽しみになった。たかが錠剤3粒。他人さまは「八十路半ばのじいさんが何をとぼけたことを」と呆れるだろうが、「ミッキー君、今日もよろしく」と手のひらを眺めながら、自己流の体調管理に励んでいる。
 熊本市東区 中村弘之(85) 2021/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

マディソン郡の橋

2021-07-05 04:43:39 | はがき随筆
 大分在住の恩師は御年82歳。女優メリル・ストリープのファンで、「マディソン郡の橋」がお気に入りだ。
 今年、1年ぶりに「午前十時の映画祭」が復活し、5月半ばからこの作品が上映され、見に行った。映画館で見るのは、公開以来四半世紀ぶりである。
 主人公2人の物語しか記憶になかったが、ヒロインであるフランチェスカの日記を、没後に娘と息子が読みながら当時を知る流れとなっている。
 監督で、もう一人の主人公を演じたクリント・イーストウッドが、彼女が適役であると強く推したという話に納得した。
 鹿児島市 本山るみ子(68) 2021.6.5 毎日新聞鹿児島版掲載