はがき随筆5月度
月間賞に近藤さん(鹿児島)
佳作は源島さん(宮崎)、高橋さん(鹿児島)、増永さん(熊本)
はがき随筆5月度の受章者は次の皆さんでした。
【月間賞】3日「家神様」近藤安則=鹿児島県湧水町
【佳作】22日「ギョーザ日本一」源島啓子=宮崎県延岡市
▽10日「黒色テント」高橋誠=鹿児島市
▽8日「父とマスク」増永陽=熊本市中央区
「家神様」は、久しぶりに、無住の実家を訪れた時の感懐が内容です。転居の際に家具の跡の汚れなどを見ると喪失感を抱いたものだが、家は家具等が置かれるとぬくもりが生じ、そこに家神様が住まわれて家となる。現在では住居観は変わり、家神様の存在を感じるのはポツンと一軒家くらいになりました。
「ギョーザ日本一」は、注文したのを忘れていた小包が届いたら宇都宮餃子であった。そのせいでもあるまいが、宮崎餃子は消費量1位になれなかったので、住んでいる宮崎市にわびたい気持ちになったという、ユーモラスな文章です。たかが餃子で、地域社会に罪の意識を抱いたという感受がよく表されています。
「黒色テント」は、装丁画家、平野甲賀の展示会から、沢木耕太郎「深夜特急」の手書き装丁へ、そこから劇団黒色テントの芝居「阿部定の犬」のチラシへ、そしてチラシをもらった劇団員へと連想は広がります。昭和40年代の不条理で無秩序で混沌とはしていたがエネルギーがあふれた社会状況は、すっかり過去になってしまいました。昭和の風潮が懐かしく回想されています。
「父とマスク」は、父親は歴史の裏話をよく子どもの私にしてくれた。大正7年のロシア皇帝一家の悲劇や、関東大震災の話など。しかし、時代は重なるのに、スペイン風邪の話は聞かなかった。ただ、冬になると、父はマスクを着けろとうるさかった。コロナ禍の今にして思えば、マスクの効用は身にしみていたのかもしれない。
この他に特筆しておきたいのは、熊本から、22歳から40歳までの若い女性の投稿が多かったことです。久保田桃さん「おしり青いよ」▽大澤奈穂さん「アラサーの夢」▽田尻真由美さん「つつじと娘と私」▽三隅妙さん「おんぶさして!」▽鍛島明香さん「子連れに備える」▽田端亜州香さん「頼もしい存在」ーー。いずれも子どもさんたちの可愛さが、愛情あふれる母親の視線から描かれ、子どもの眼のようにキラキラ光る文章でした。驚きました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦