はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

深紅のアマリリス

2021-07-28 17:24:53 | はがき随筆
 とある日曜日、そぼ降る雨の中、友人が八重咲のアマリリスを届けてくれた。
 遠方なのに、ガラスの花瓶にたっぷりの水を入れて。すっくと伸びたくきに大輪の花が四つ開いている。まるで赤ちゃんの頭のようだった。球根から手塩にかけて育てたものを、惜しげもなく切り届けてくれた。その優しさに胸が熱くなった。
 この日からアマリリスへの関心が深まる。1週間もすると花びらの一つが、しぼみ始める。4日目にはすべてしぼんだ。1本のくきから開き、貴婦人の姿を連連想した私は、静かに生涯を閉じた花に、誇りさえ感じた。
 宮崎市 田原雅子(83) 2021/7/28 毎日新聞鹿児島版掲載

坊ガツルへ

2021-07-28 17:17:22 | はがき随筆
 時々登頂にこだわらない山歩きを楽しんでいる。梅雨明けの頃、二十数年ぶりに、くじゅう連山の坊ガツルを目指して歩いた。
 堂々とした山容の三俣山が真っ正面で迎えてくれる。雨ケ池越コースの森に入ると、鳥、セミ、カエルなどの鳴き声、それに風、せせらぎの音などが混じった森の音がワッと飛び込んでくる。肌に触れる風と木漏れ日が清々しかった。しばらく歩くと、遠くでカッコウの声がこだまし、近くでキツツキが木をたたいていた。
 帰りの車に乗ったら、ワクチン予約のことが頭に浮かんだ。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載

国民の権利

2021-07-28 17:11:21 | はがき随筆
 二十歳で選挙権を得た時は、大人になったとうれしかった。当時は中央公民館などで立会演説会があり、各候補の主張を聞けた。早速行こうとした時、親から止められた。嫁入り前の娘が行ってはだめだと言うのだ。
 「何それ……」
 顔を見て声を聞かなきゃ誰に投票すべきか決められない。学生運動の嵐の余波で、若者が政治に関心を持つことが悪いかのような世間の雰囲気があった。それが今も若者の低投票率につながっているのだろうか。演説会には行けなかったが、投票を棄権したことは一度もない。意思を示せる大事な権利だから。
 鹿児島市 種子田真理(69) 2021/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

港にて

2021-07-28 16:32:16 | はがき随筆
 老い2人、頭がうまく働かない。気分転換にと出かけた港には、期せずして「にっぽん丸」が寄港していた。濃紺と純白の船体に赤いラインが走り貴公子のごとく美しいクルーズ船だ。これまでどんな海原を越えてきたのだろう。折しも正午。船内二階のダイニングはお昼時だ。
 夫と私もご機嫌うるわしくなって松林でランチを開いた。
 出港は午後4時と知り、時を待ち、見送ることにした。
 やがて夕映え。客船はどこか華やかに別れの汽笛を3回残してタグボートに従った。西日を背に船上の人と手を振り合う。
 優しい波でありますように。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(76) 2021/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

小学1年絵日記

2021-07-28 16:24:21 | はがき随筆
 「ケフカラナツヤスミデハヤオキクワイニイキマシタ」。75年前の絵日記に私が旧仮名遣いで書いています。 
 終戦の翌年、昭和21年の夏休み、空襲警報もなく、B29の飛来もなく、焼夷弾が降ってくる事もなく、物資不足の中にも絵日記から穏やかな日々がうかがいえます。日記帳はわら半紙を二つ折りにして、こよりで綴じています。親兄姉のぬくもりが胸にしみます。
 今年も夏休みが始まりました。新型コロナウイルス感染予防の中、知恵を絞って、穏やかな夏休みになる事を信じて、乗り切れますよう祈っています。
 熊本市東区 川嶋孝子(82) 2021/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載